第41話 オリヴァーの覚悟
オリヴァーは何を言われたのか理解出来ないようできょとんとした表情を浮かべている。
「僕が王子じゃないって、どういう事ですか?」
そう問いかけるオリヴァーに、国王陛下はまっすぐに彼を見下ろすと冷たく言い放った。
「私に毒を飲ませて亡き者にしようとしたのは、宰相とそなたの母親であるブリジットだ。二人は後日処刑されるが、二人に連なる者達も相応の罰が下される。ブリジットの息子であるお前はブリジットと共に処刑される事になる」
もしやとは思っていたけれど、やはり連座は免れないようだ。
オリヴァーは驚いたように目を見開いていたが、やがてガクリと肩を落とした。
「…母上が父上を… 僕が国王になるとか言ったりしていたけれど、そんな恐ろしい事をしていたんですね…」
小さいオリヴァーが、更に小さく見えて私はどう声をかけていいのか分からない。
「…オリヴァー…」
アラスター王太子も小さく呟いたが、それ以上は何も言えないようだ。
しばらく俯いていたオリヴァーは、泣いて取り乱す事もなく覚悟を決めたように顔を上げた。
「わかりました、父上。それでは、僕もこれから牢獄に入れられるのでしょう? 覚悟は出来ましたから騎士を呼んでください」
そのきっぱりとした口調に胸が痛くなる。
出来るならばオリヴァーを連れて逃げてしまいたいけれど、今の私には何も出来ない。
「父上、どうかお考え直しください。いくらブリジット様の息子とはいえ、こんな小さなオリヴァーを処刑するなんてあんまりです」
アラスター王太子はなんとか国王陛下にオリヴァーの処刑を思い留まらせようとするけれど、それは無理な注文だろう。
国王陛下に害をなそうとした人物の子供を生かしておくなど、出来るはずもない。
そんな事をすれば、今後の統治にも影響を及ぼすことは必至だ。
アラスター王太子もそれをわかっているはずなのだが、オリヴァーのために嘆願せずにはいられないのだろう。
ほんの数回しか顔を合わせていない私ですら、オリヴァーの処刑を辛いと思うのに、長年一緒に過ごしてきたアラスター王太子が平気なわけがない。
「…兄上…」
少し目を赤くしたオリヴァーが、アラスター王太子に向かってフッと口を歪めた。
アラスター王太子に笑いかけようとして失敗したような表情が、私の胸に突き刺さる。
「…ありがとうございます、兄上。でも僕だって貴族の端くれです。母上の罪をこの身を持って共に償います」
オリヴァーの凛とした佇まいにアラスター王太子は、グッと唇を噛み締めている。
それまで国王陛下の後ろで成り行きを見守っていたサリヴァンが、少し腰を折るとそっと国王陛下に耳打ちをした。
国王陛下はそれにコクリと頷くと、横に座るオリヴァーの肩をそっと抱き寄せた。
「オリヴァー。そなたの覚悟は受け取った。騎士達を呼ぶ前に少ししなければならない事がある。サリヴァン、呼んでくれ」
国王陛下が後ろのサリヴァンを振り返ると、サリヴァンは何かを取り出してそれを自分の口元に持ってきた。
「…準備はいいか?」
サリヴァンが手にしている物は、一見小さな箱のように見えるんだけれど、あれは何なのかしら?
サリヴァンがその箱に呼びかけてしばらくすると、執務室の片隅に魔法陣が浮かび上がった。
(あの魔法陣ってもしかしてケンブル先生が使っているものかしら?)
以前、ケンブル先生が現れた魔法陣に似ているけれど、どうしてこの場にケンブル先生が呼び出されるのかしら?
そのうちに魔法陣が光って、その中央に人影が現れた。
やはり、予想どおりそこに現れたのはケンブル先生だった。
アラスター王太子も魔法陣が浮かんだ時点で、誰が現れるのかわかっていたようで特に驚きの様子はない。
「お待たせいたしました、陛下」
ケンブル先生が深々と国王陛下にお辞儀をしてみせる。
これから一体何が始まるのかしら?
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