カワイイあの子

緑青 那奈畸

従妹のマネージャー

「もしもし、萌枝?お誕生日おめでとう」


「充希お兄ちゃん!覚えててくれたんだ」


「そりゃもちろん。大事な従妹だもの」


スピーカー越しの声が元気そうでほっとする。


アイドルになりたい!と言って中学卒業と共に上京した萌枝。


身近でその成長を見届けてきた身としては心配になってしまう。



「最近はどう?活動は」


「実は報告があって……このたび、事務所に所属することになりました!」


「おめでとう!嬉しいよ」


「えへへ、ありがとう」


萌枝は、田舎暮らしの僕ですら知っている大手事務所の名を告げた。


やるじゃないか。


「小さい頃から萌枝は可愛かったもんなあ」


「それは身内の贔屓目だよぉ」


「いいや!お兄ちゃんは分かっていた!」


「また、うまいこと言って……」


それでね、と萌枝が続ける。


「ついてくれたマネージャーさんが、カッコイイの!」


「ふうん……」


「あ、妬いてるんでしょ」


「ち、ちが」


「うっそだあ。安心してよ、その人、女の人だよ」


女でマネージャー……きっと、たいそう仕事の出来る人なのだろう。



「どんな人なの?」


「うーんとね、よくタバコ吸ってる」


「女で!?」


「あと、お酒と、パチンコと、競馬が好き」


「女の人で?!」


「わたしのこと、完全に年下のコムスメ扱いしてくる」


「ちょ、ちょっと待って!?」


情報が多いし、何より、そんなヤバい女を思春期の女の子に近づけちゃいけないだろう。劇薬だ。



「待って待って待って待って。それ、なんか騙されてない?」


「えー、でも、めちゃくちゃ有能なの!もう、おんなじ女としては、憧れちゃう!」


「仕事が出来るだけで判断しちゃいけないんだよ、人間は……」


「でもねえ、なんだかんだ、大事にしてくれるよ。この前もお仕事終わりにお茶に誘ってくれた」


「まあ、萌枝がそういうなら……」


「そう、それでそのマネージャーさんのことで相談なんだけど……」


「何?」


「マネージャーさん、入籍するの!結婚式にもお呼ばれしてるから、マナーとか教えて?」


「……ハ?」


ヤニカス、酒クズ、ギャン厨の三拍子揃った女と結婚する男って、どんな男なんだ……


まだ見ぬ萌枝のマネージャーと、その旦那(予定)について、僕はぼんやりと思った。

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カワイイあの子 緑青 那奈畸 @koukyu_ss

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