パーティー追放する悪役に転生したけど俺以外のパーティーもみんな転生者だった~ストーリーがぶち壊れた世界でそれでも俺は死なずに奴隷ハーレムを作る~

ぐうのすけ

第1話

 ギルドの酒場で5人、テーブルを囲む。

 俺達5人はパーティー爆ぜるオーラのメンバーだ。

 足手まといのアレクを俺が馬鹿にする。


「アレク、今日も役立たずだったな」


 アレク、サポータージョブの男が体を委縮させた。


「ノワール、ぼ、僕だって剣を投げて皆をサポートしているよ」

「おいおい、剣を投げるのもいいがサポーターなら俺達に補助魔法を使ってから言えよ」


 アレクが黙り込んだ。


 屈強な肉体を持つ男戦士ゴルドが酒を飲み干して言った。


「ノワール、アレクを追放しないのか?」

「そうだな、これ以上無能を置いておく余裕はない、俺達はもっと上を目指す!」

「そ、そんな! ギルドの手続きもマップの作製も全部僕がやっているんだ」

「そんな雑用はいらないんだよ」


 女魔法使いのスレイアがアレクを罵る。


「ねえ、あんた役立たずなのにまだこのパーティーにいる気?」


 女ヒーラーのヨルナも言った。


「黙って追放すれば良い話じゃない、アレクと話す必要ある?」

「そ、そんな!」


「……ん?」


 酒を飲もうとした俺の腕を見ると光を放っていた。

 よく見ると俺の俺の光っており、パーティー全員も光っている。

 ……周りを見渡す。

 ここは、どこだ?

 俺は確か、アクションRPGゲーム『ファンタジーフロント』をプレイしていたはずだ。


 窓は温かみのある楕円型、テーブルと椅子も角が無くまるみを帯びており味がある。

 上にはランタンのような照明がいくつもぶら下がっており明かりをよく見るとランタン内部の魔法陣が光を発していた。


 この世界は、アクションRPGゲーム『ファンタジーフロント』の世界か!

 この柔らかさのある建物や家具、この背景は何度もゲームで目にしたギルドの背景だ。


 ファンタジーフロントはキャラクター育成に力を入れた人気作だ。

 だがこの装備は、俺は立ちあがり窓に映る自分を見る為に移動する。

 他のみんなも立ち上がり窓に映った自分を見ようとする。


 みんなも転生者か!

 パーティー全員が転生した!


 窓を見ると俺の姿は黒目黒髪、少し病んだような目の下のクマ、釣り上がった目、背は少し高く細マッチョ、つやを消した黒いローブを着ているがどこか盗賊服のようにも見える。

 いたるところにアクセサリーを付けて重い大剣を腰にぶら下げている。


 この姿は、俺はゲーム内でざまあされる悪役。

 ノワールだ!

 

 ノワール、この男はゲーム主人公であるアレクを追放する。

 そしてその後は主人公のチュートリアルに登場する悪い見本のようにアレクが金を手に入れればノワールが金を失い、アレクがポーションを整えてダンジョンに行けばポーション切れでボロボロの状態でダンジョンから出てくる。


 つまり俺はなぶり殺しにされるように何度も何度もざまあされる。

 最後はデュラハン教のマジックアイテムで寿命を削る代償に力を手に入れて主人公に挑み見返り討ちにある。

 そしてゾンビ化してモンスターに囲まれて苦しみながらなぶり殺しにされる。


 ノワールのような嫌な奴がざまあされてスカッとすしつつ主人公が成り上がる、そういうゲームストーリーだ。

 でも自分がその役目をやるのは嫌だ。

 なんでノワールはこんな人に嫌われる事を……!

 俺の頭にノワールの記憶が流れ込んできた。


 こいつは、貴族である両親と兄から無能扱いをされた。

 親にはいない者として扱われた。

 兄はわざわざノワールを探してバカにして稽古と称して何度もいたぶられた。

 ノワールの人生は歪んだ両親と兄と一緒に育つ。

 ノワールは金だけは使えた。

 プライドを満たすためにアクセサリーを体に付けて派手な大剣を腰にぶら下げて自分を大きく見せようとしていたのが分かる。


「一旦、席に戻りましょう」


 みんなが座る。

 やっぱり、みんな転生者に見える。

 みんなの動きが日本人に見える。


 旅行者は日本人とそうでない者が何となく分かるという。

 うまくは言えないが動きのちょっとした癖で皆が日本人である事が分かるのだ。

 俺は早まる鼓動を押さえて大きい声で、ゆっくりと言った。


「あの、パーティーを解散しませんか?」


 俺の丁寧な言葉に周りにいた冒険者がびっくりして振り返る。

 俺が怒鳴っている時は普通だったのに丁寧な言葉を使うと驚くってノワールの嫌われ方は相当だな。


 みんなが頷いた。


「僕も賛成だ」


 主人公のアレクは大賛成だろう。

 主人公はすぐに覚醒する。


「おいらもそれでいいっすよ」


 戦士ゴルドはさっきまでと全く口調が変わった言葉で答えた。


「私もそれでいいよ」

「私もそうするわ」


 女魔法使いと女ヒーラーも口調が変わっている。

 これだけは聞かずにはいられない。

 分かっていても確認しておきたい。


「皆も、今転生したのかな?」


 全員が頷く。


「なんで、転生したか分かる人とか、いる?」

「分からないよ」

「そっか、僕も分かりません……でもまずは解散、ですね。皆でカウンターに行きましょう」


 5人でカウンターに向かうと俺の兄、ライングラフレイム・ダークネスがいた。

 俺と見た目は似ていて髪が赤黒くライオンのたてがみのように逆立っている。

 そして背が俺より少し高い。

 にやにやしながら俺を見ている。

 

「げ!」

「なにがげ、だ。ライン兄様だろう」

「ライン、兄様」


「お前、聞いていたぞ。家を追い出されて平民落ちをしても平民のパーティーとすらうまくやれていないんだろ?」

「そ、そんな、ことは」

「ああああああん!」


 言い返せば殴られる。

 この兄はゲームのボスキャラだ。

 今の俺では勝てない、最悪殺される。


 後ろに下がろうとすると兄が前に出て俺のみぞおちを殴った。

 反応、出来ない!


「ぐはああ!」


 俺は床に膝をついた。

 思ったよりも痛くはない。

 だが兄は危険だ。

 危機感が痛みを薄くしているようだ。


「おらあ、立てよ、魔装もろくに使いこなせない落ちこぼれが、みっともなく買った剣をぶらさげて、本当に情けない」


 このゲームは魔装システムを採用している。

 魔装は魔法少女の変身やヒーローのように武具を纏う事が出来る。

 魔装は固有のスキルで人によって魔装の形状は様々だ。

 この世界では魔装の質が才能に直結する。


 そういう魔法がこの世界では当たり前に使われている。

 優秀な魔装使いは武具を魔装で作れる。

 魔装で武器を作れない俺は落ちこぼれなのだ。


「おら、おまえは闇属性の落ちこぼれなんだ。せめて立てと言われたらすぐに立て」


 闇属性の魔装は外れとされてはいる。

 だが疑問がある、敵が使う闇属性の魔装は強かった。

 でもこの世界では弱いとされている。


 俺は立ちあがった。


「パーティー解散の前祝いだ。酒を飲ませてやるよ。はっはっはっはっは!」


 兄が俺の頭にワインをかける。

 周りを見るとみんなが俺から目を逸らした。

 兄はこの街で一番強いと言われている。

 しかも貴族で逆らえば難癖をつけられて首を跳ねられるかもしれない。


 そして俺は俺で兄ほどではないが嫌われている。

 みんな俺を助ける理由がないのだ。


 兄はわざわざ俺を探してこんなふうに俺を痛めつけるのが趣味、そういう人間なのだ。


「ノワール、最後に謝れ。パーティーに迷惑をかけた事を謝れ」


 俺は前世の事を思い出した。

 俺は25歳までサラリーマンをしていた。

 会社は気づいた人が動いて作業をやる方針だった。


 これだけ聞けばよく聞こえるが実際は新人の俺に嫌な仕事が回って来て定時で帰る事が出来なかった。

 人には難易度の高い仕事を押し付ける先輩、そのおかげで後から入る後輩は皆辞めて行った。


 更に上司から『お前いつまで会社に残ってるんだ!? もっと要領よくやれよ』と言われた。

 全く管理されていない職場で頑張っても俺が無能扱い。

 謝りたくない場面で何度も俺は謝った。


 転生しても、自分に嘘をついて生きたくない。

 謝りたくないのに謝るのは嫌だなあ。


 でも俺がやっていないでは済まされない、もし俺と悪役が融合したと言っても頭がおかしいと思われて終わりだ。

 こいつの、ノワールがやって来た事をゼロには出来ない。


 俺は頭を下げた。

 ああ、嫌だ。


 兄が笑いながら空になったワインの瓶で俺を殴った。


 パリン!


 幸いそこまで痛くはない。

 だが、去っていく兄の高笑いにイラっとした。


 俺は顔が引きつる受付嬢に対して淡々とパーティー解散の書類を書いて提出した。


「お願いします」

「え? あ、はい」


 俺が敬語を使ったことで恐怖を与えたようだ。

 兄ほどではないが俺も嫌われている。


「ビンを掃除しますので、掃除用具はありますか?」

「い、いえ、その、大丈夫ですから」

「……そう、ですか」


 このままじゃダメだ。


 新しいこの世界で俺は変わろう。


 力をつけよう。




 あとがき

 新作です。

 兄が今後どうなるかはお察し。

 パーティーの名前はすぐに覚えなくても大丈夫なように執筆してあります。

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