青年の翼
一ノ瀬
第1話『天才現る』
晴れ渡る青空の下、雲がゆっくりと流れている。窓から眩しい朝日が部屋に差し込み、温かな光で満たされていた。
「朝ですよ、起きてください、翔斗様。」
祖父の優しい声が部屋に響く。翔斗は毛布にくるまりながら、不機嫌そうに顔をしかめた。
「…めんどくさい。」
翔斗はそう呟くと、再び毛布を被り、目を閉じた。
しかし、香ばしい焼き魚と、ふんわりと炊きたてのご飯の匂いが漂ってくると、ゆっくりと体を起こした。
「…朝飯か。」
翔斗はあくびをしながらテーブルに向かい、特に感情のこもらない声で言った。
「どうぞ、ゆっくり召し上がってください。」
祖父が微笑みながら言っても、翔斗は特に反応することなく、目の前の朝食に手を伸ばした。
そんな、感情の起伏の少ない朝の風景が、翔斗の日常だ。特にやる気もなく、ただ退屈な毎日を過ごしている。学校に行く理由も、「めんどくさいけど、行かないとじいさんがうるさいから」という程度のものだ。
朝食を終えた翔斗は、
「行ってくる。」
気だるそうに言い、学校へと向かう。
「お気をつけて、いってらっしゃいませ。」
祖父がいつものように穏やかに送り出し、翔斗は家を出た。
鶫高校の教室では、教師が淡々と授業を進めている。翔斗は教室の一番後ろの席に座り、ぼんやりと窓の外を眺めていた。青い空と流れる雲が、彼の視線を吸い込んでいく。
「…眠い。」
教師の声はまるで子守唄のように、翔斗の耳を通り過ぎていく。教室中には、ペンがノートを走る音や教科書をめくる音が静かに響いているが、翔斗の意識はほとんどない。
友達の
「…なんでみんな、あんなに頑張れるんだ?」
そんなことを思いながら、翔斗は再び窓の外に目を戻した。
(翔斗心の声)「…あの雲、あんなにゆっくり動いて、どこに行くんだろうな。…どうでもいいか。」
放課後、校門を出ようとした瞬間、突然声をかけられた。
「君が噂の翔斗くんか?」
声のする方を見ると、スポーツウェアを着た中年の男性が立っていた。彼は自信満々の笑みを浮かべ、翔斗をじっと見つめている。
「俺は、バレー部の監督をしている佐藤だ。君の運動神経と身体能力を見て、ぜひバレー部に入ってほしいと思ってな。」
佐藤監督は、まるで翔斗の将来を見通したかのような口調で話しかけてきた。
「…バレー?めんどくさい。」
翔斗はそう言うと、帰ろうとした。
だが、佐藤監督は引き下がらず、
「そうかもしれないが、君には潜在的な才能がある。少しでもいいから、一度練習を見に来てくれないか?」と翔斗に言った。
翔斗は少し考えたが、すぐに興味を失い、
「…別に。」と返した。
しかし、佐藤監督はなおも食い下がり、
「頼む!ほんの少しだけでいいんだ!」と翔斗に言った。
翔斗は、あまりのしつこさに根負けし、
「…わかった。ほんの少し…」と答えた。
体育館に入った翔斗は、バレー部の練習風景をぼんやりと眺めていた。部員たちの熱気や掛け声も、翔斗にとってはただの騒音でしかなかった。
(翔斗心の声)「…みんな、よくあんなに動けるな。めんどくさい。」
「どうだ、一度やってみるか?」
佐藤監督がそう声をかけても、翔斗は「別に」とだけ答えた。
しかし、佐藤監督は諦めずに、ボールを翔斗に手渡した。
「少しだけでもいい。君の才能を見てみたいんだ。」
翔斗は仕方なくボールを受け取り、コートに立った。そして、特に意識することなく、目の前に飛んできたボールを打ち返した。
その瞬間、周囲の空気が変わった。翔斗の打ち返したボールは、信じられないほどのスピードと正確さで、コートの隅に突き刺さった。
「…すごい。」
周囲の部員たちが、驚きの声を上げた。翔斗自身も、自分のプレーに少しだけ驚いたが、すぐに興味を失った。
(翔斗心の声)「…別に、どうでもいいか。」
佐藤監督は、目を輝かせながら翔斗に言った。
「やはり君は天才だ。ぜひともバレー部に入ってほしい!」
翔斗は、面倒くさそうに言った。
「どうしようかな?…考えるのがめんどくさい。」
ー「その夜」-
翔斗は学校から帰ると、祖父と一緒に夕食の準備を手伝っていた。と言っても、翔斗はただ座って、祖父の料理を眺めているだけだった。
「じい、最近さぁ、バレーやってみようかと思ってるんだよね。」
翔斗は、特に感情のこもらない声で言った。
祖父は驚いた表情を浮かべた。
「翔斗様が?バレーですか?」
翔斗は、面倒くさそうに答えた。
「…別に、ちょっとだけ。」
祖父はしばらく黙った後、優しい笑顔を浮かべて言った。
「翔斗様が何かに夢中になるのは、素晴らしいことです。じいは、いつも翔斗様を応援していますよ。」
翔斗は、特に反応することなく、夕食を食べ始めた。
ー「翌日」ー
翔斗はいつも通りに家を出た。通学中に友人の海輝に声をかけられた。
「おい、翔斗、バレーやるの?聞いたときはビビったよ、まさかお前がバレーとは思えんからな」
翔斗は、面倒くさそうに言った。
「…めんどくさい。」
海輝は驚いた表情で翔斗を見つめた。
「え、じゃあなんでやることにしたんだよ?」
翔斗は、面倒くさそうに答えた。
「うん…なんとなく」
海輝は肩を叩いて笑った。
「そっか、分かった。俺がお前に本当のバレーを教えてやる!」
翔斗は、面倒くさそうに言った。
「…別に、どうでもいい。」
海輝は聞いた。
「なんで、お前はそんなに面倒くさがるんだ?」
翔斗は、面倒くさそうに言った。
「…考えるのが面倒くさい。」
海輝は納得した様子で言った。
「まあ、初めからできるやつなんていねぇよ。」
ー「朝練」ー
翔斗と海輝は学校に着くと、朝のホームルームが始まる前に体育館に向かった。バレーボール部の練習が始まる前に少しだけボールを触ってみることにしたのだ。
翔斗は体育館に入ると、海輝はにやりと笑い、「よし、俺がサーブを打つから、お前はレシーブしてみろよ」と言った。
翔斗は構えを取り、「…わかった。」と声を上げた。
海輝がボールを高くトスして、勢いよくサーブを打った。ボールは勢いよく翔斗の方へ飛んできたが、翔斗はうまくレシーブすることができず、ボールはコートの外に転がっていった。
「…めんどくさい。」
翔斗はそう呟いた。
海輝は笑いながら言った。
「まあ、最初はみんなそんなもんだよ。練習すれば上手くなるって」
そこに山田一郎というバレー部の副キャプテンが現れた。「お前ら、こんな早朝から何してるんだ?」と声をかけた。
翔斗は面倒くさそうに「…バレーの練習。」と答えた。
山田はにやりと笑って言った。「そっか、なら俺も手伝ってやるよ」彼は翔斗に向かってボールを渡し、「サーブを受けるコツを教えてやるよ」と続けた。
翔斗は山田の指導を受けながら、何度もレシーブの練習を繰り返した。最初はうまくいかないことも多かったが、次第に少しずつコツを掴んでいくのがわかった。
「…まあ、こんなもんか。」
翔斗は、特に感情のこもらない声で言った。
「よし、翔斗、少しずつ良くなってきたな」と山田は満足げに言った。
その日、翔斗は授業が終わった後もバレーの練習に参加することにした。佐藤監督や山田、副キャプテン、そして他の部員たちと共に、翔斗は本格的な練習に取り組んでいった。
ーー次回予告ーー
翔斗が指示を出す。「行け海輝!!」
海輝がすごい勢いでボールを打つ。
翔斗が海輝に言う。「なあ海輝、もっと速いボールを打てみろ!」
海輝が笑って答える。「うん、分かった。やってみる」
試合が始まる。翔斗は落ち着いてゲームを組み立てる。「山田!あそこ!」
山田がかっこよくボールを打って、相手チームの邪魔を破る。
翔斗は最後の力を出して、すごいトスを上げる。「よし、今だ!」
海輝がジャンプし、ボールは相手のコートにバーンと決めた。
翔斗の挑戦は始まったばかり。友達と一緒に、どこまで強くなれるか?
次回、「同級生の絆」
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