青年の翼

一ノ瀬

第1話『天才現る』

晴れ渡る青空の下、雲がゆっくりと流れている。窓から眩しい朝日が部屋に差し込み、温かな光で満たされていた。


「朝ですよ、起きてください、翔斗様。」

祖父の優しい声が部屋に響く。翔斗は毛布にくるまりながら、不機嫌そうに顔をしかめた。


「なんだよ、じい、まだ眠いんだって。」

翔斗はベッドの上で寝返りを打ち、だるそうに目をこすった。早起きなんて、面倒くさいといつも思う。


しかし、香ばしい焼き魚と、ふんわりと炊きたてのご飯の匂いが漂ってくると、ようやく体を起こした。

「じい、今日の朝ご飯も美味しそうだな。」

翔斗はあくびをしながらテーブルに向かい、少しだけ笑顔を浮かべた。


「どうぞ、ゆっくり召し上がってください。」

祖父も微笑みながら言った。


そんな穏やかな朝の風景が、翔斗の日常だ。特にやる気もなく、ただ過ごすだけの毎日。学校に行く理由も、「なんとなく」だし、何かに本気で向き合うのは、正直言って面倒くさい。


朝食を終えた翔斗は、つぐみ高校の制服に着替え、鞄を肩に掛けた。

「ありがとう、じい。それじゃ、行ってくる。」

気だるそうに言い、学校へと向かう。


「お気をつけて、いってらっしゃいませ。」

祖父はいつものように穏やかに送り出した。


学校での授業も、翔斗にとっては退屈そのものだった。

鶫高校の教室では、授業が淡々と進んでいる。翔斗は教室の一番後ろの席に座り、ぼんやりと窓の外を眺めていた。青い空と流れる雲が、彼の視線を吸い込んでいく。


「ふぁ……なんか面倒くせぇな。」

教師の声はどこか遠くで響いているように感じる。教室中には、ペンがノートを走る音や教科書をめくる音が静かに響いているが、翔斗の心は教室にはなく、空の向こうにある別の世界へ飛び立っていた。


友達の海輝かいきは前の方で熱心にノートを取っている。その真剣な表情を見て、翔斗も少しだけ自分も集中しようかと試みるが……やっぱり続かない。


「なんでみんな、こんなに真面目にやるんだ?」

そんなことを思いながら、また窓の外に目を戻してしまう。


放課後、校門を出ようとした瞬間、思わぬ出会いが訪れた。


「君が噂の翔斗くんか?」

突然の声に、翔斗は振り返った。そこにはスポーツウェアを着た中年の男性が立っていた。彼は自信満々の笑みを浮かべ、翔斗をじっと見つめている。


「俺は、バレー部の監督をしている佐藤だ。君の運動神経と身体能力を見て、ぜひバレー部に入ってほしいと思ってな。」

佐藤監督は、まるで翔斗の将来を見通したかのような口調で話しかけてきた。


「バレー? いや、俺には関係ないし、興味もないんだよね。」

翔斗はぶっきらぼうに返事をした。正直、何かに真剣に取り組むのは「面倒くさい」というのが彼の本音だった。


だが、佐藤監督は引き下がらなかった。

「そうかもしれないが、君には潜在的せんざいてきな才能がある。少しでもいいから、一度練習を見に来てくれないか?」


翔斗は少し考えたものの、面倒くさい気持ちが先に立つ。

「うーん……どうだろうな、面倒だしな。」

軽く手を振って断ろうとした。


しかし、監督の熱意に何かを感じたのか、翔斗はふと一言漏らした。

「まぁ、めんどくさいけど……一回くらいなら見に行ってもいいかもな。」


バレー部の練習を見学することになった翔斗。


体育館に入った瞬間、彼は活気と熱気に圧倒された。バレー部の仲間たちは、汗を滴らせながら一心不乱にボールを打ち合っていた。強烈なスパイク、ダイナミックなレシーブ――そして響き渡る歓声。


翔斗はその光景に自然と引き込まれていく。面倒だと思っていたはずなのに、気づけば自分もコートに立っているかのような錯覚を覚えた。


「どうだ、一度やってみるか?」

佐藤監督が優しく声をかけてきた。


翔斗は一瞬戸惑ったが、何かが彼の中で動き始めていた。

「……まぁ、ちょっとだけな。」

彼はボールを手に取り、コートに立った。


そして、その瞬間――周りの空気が変わった。翔斗がボールを手にすると、自然に体が動き出し、まるでボールが自ら翔斗に従っているかのように感じた。


「すごい、翔斗くん……!」

周囲の部員たちがざわめき、驚きと感心の声を上げた。翔斗のプレーには、何か特別なものがあったのだ。


佐藤監督も目を見開き、満足げに言った。

「やはり君は天才だ。ぜひともバレー部に入ってほしい!」


「うーん……どうすっかな。」

翔斗は少し迷ったふりをしながらも、その表情には新たな決意がうかがえた。何かが彼の心の中で芽生え始めていた。


ー「その夜」-


翔斗は学校から帰ると、祖父と一緒に夕食の準備を手伝いながら、ふと思い出したように話しかけた。

「じい、最近さぁ、バレーやってみようかと思ってるんだよね。」


祖父は驚いた表情を浮かべた。

「翔斗様が? バレーですか?」

翔斗は肩をすくめて答えた。

「別に…、気になっただけ。」


祖父はしばらく黙った後、優しい笑顔を浮かべて言った。

「翔斗様が何かに夢中になるのは、素晴らしいことです。先生が翔斗様の才能を見出したのでしょうね。じいは、いつも翔斗様を応援していますよ。」


 ー「翌日」ー


 翔斗はいつも通りに家を出た。


 通学中に友人の海輝に声をかけられた。「おい、翔斗、バレーやるの?聞いたときはビビったよ、まさかお前がバレーとは思えんからな」


 翔斗は言った。「うーん、バレー面倒くさい」


 海輝は驚いた表情で翔斗を見つめた。「え、じゃあなんでやることにしたんだよ?」


 翔斗は少し考えてから答えた。「楽しいけど、面倒くさいんだよ」


 海輝は肩を叩いて笑った。「そっか、分かった。俺がお前に本当のバレーを教えてやる!」


 翔斗は少し安心したように言った。「ありがとう、海輝でも面倒くさい。」


 海輝は聞いた。「なんで、お前は面倒くさがるんだ?」


 翔斗はこう言う。「考えるのが面倒くさい。」


 海輝は納得した様子で。「まあ、初めからできるやつなんていねぇよ」


 ー「朝練」ー


 翔斗と海輝は学校に着くと、朝のホームルームが始まる前に体育館に向かった。バレーボール部の練習が始まる前に少しだけボールを触ってみることにしたのだ。


 翔斗は体育館に入ると、海輝はにやりと笑い、「よし、俺がサーブを打つから、お前はレシーブしてみろよ」と言った。


 翔斗は構えを取り、「わかった、」と声を上げた。


 海輝がボールを高くトスして、勢いよくサーブを打った。ボールは勢いよく翔斗の方へ飛んできたが、翔斗はうまくレシーブすることができず、ボールはコートの外に転がっていった。


「うーん、難しいな」と翔斗は呟いた。


 海輝は笑いながら。「まあ、最初はみんなそんなもんだよ。練習すれば上手くなるって」と励ました。


 そこに山田一郎というバレー部の副キャプテンが現れた。「お前ら、こんな早朝から何してるんだ?」と声をかけた。


 翔斗は少し照れくさそうに「バレーの練習だよ」と答えた。


 山田はにやりと笑って「そっか、なら俺も手伝ってやるよ」と言った。彼は翔斗に向かってボールを渡し、「サーブを受けるコツを教えてやるよ」と続けた。


 翔斗は山田の指導を受けながら、何度もレシーブの練習を繰り返した。最初はうまくいかないことも多かったが、次第に少しずつコツを掴んでいくのがわかった。


「よし、翔斗、少しずつ良くなってきたな」と山田は満足げに言った。


 その日、翔斗は授業が終わった後もバレーの練習に参加することにした。佐藤監督や山田、副キャプテン、そして他の部員たちと共に、翔斗は本格的な練習に取り組んでいった。


ーー次回予告ーー


翔斗が指示を出す。「行け海輝!!」

海輝がすごい勢いでボールを打つ。


翔斗が海輝に言う。「なあ海輝、もっと速いボールを打てみろ!」

海輝が笑って答える。「うん、分かった。やってみる」


試合が始まる。翔斗は落ち着いてゲームを組み立てる。「山田!あそこ!」

山田がかっこよくボールを打って、相手チームの邪魔を破る。


翔斗は最後の力を出して、すごいトスを上げる。「よし、今だ!」

海輝がジャンプし、ボールは相手のコートにバーンと決めた。


翔斗の挑戦は始まったばかり。友達と一緒に、どこまで強くなれるか?


次回、「同級生の絆」

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