78 なぜか、話してくれない

 あれがあってから奏多とのスキンシップが増えた。

 さりげなく手を繋いだり抱きしめたり、この前まで恥ずかしくて避けていたけど、今は「キスして」って言うとすぐ私にキスをしてくれる。学校にいる時もしょっちゅう奏多とくっついている。本当に気持ちよくて、ドキドキして、毎日が楽しいのに、よく分からない。


 本当によく分からない。


 どうして……、告白しないの? あの日の夜もそうだった。

 全部脱いで奏多のことを待っていたのに、結局やってくれなかった……。どうして? 私……、もしかして女としての魅力がないのかな? 普通の男子高校生なら、その場ですぐ襲ったはずなのにね……。


 そしてお風呂も一緒に入ってくれないし、キスだけだんだん上手くなっている。

 バカ。


「冬子」

「うん? どうしたの?」

「私、魅力ないの?」

「えっ? なになになに! 恋バナ!?」

「私ね、最近奏多といろいろやってるけど…………」

「お、俺……! ちょっと席を外すから、これ頼む! 冬子!」

「あっ、うん! 分かった!」


 あっ、会長の存在をうっかりしていた。

 ここ生徒会室だったよね……。


「それで! それで! いろいろって何!?」

「私たち……、普段からくっついたりキスしたりするけどね」

「普段から……。そんなことをしていたの?」

「冬子はしないの? 会長としょっちゅう生徒会室にいるんでしょ? しかも、二人きりじゃん」

「い、いくらなんでも……生徒会室であんなことはしないよ。それに私たちまだそういう関係じゃないから」

「へえ……、冬子は会長と付き合いたいとか考えたことないの?」

「つ、付き合うって……。まだ早いよ!」

「ええ……、うじうじしたら他の人に取られるかもしれないよ?」

「そ、そんなことより今は……ひなちゃんの話をして! 魅力ないの?ってどういう意味?」

「そうだ! 私、どうして奏多が私に告白をしないのか分からなーい! ずっと待っているのに、言ってくれない! どうして?! 本当にわかんない!」

「ええ……、付き合ってないのにあんなことをやってたの……? それもすごいね」

「うん」

「…………えっと」

「冬子はまだキスしてないの? 会長と」

「そ、そうだけど……。まだ付き合ってないから! 付き合ってない相手とあんなことができるわけないでしょ!?」

「好きなら、普通にできると思うけど……」


 真っ赤になった顔で私の方を見る冬子に、私は堂々と答えてあげた。

 私たちは幼い頃からずっと一緒だったから、ハグやキスくらい普通にできる。

 でも、それは幼馴染じゃなくても好きな人なら普通にできると思う。愛情表現は大事だから、相手の気持ちを確かめるにはそれ以上の方法がない。そして二人はいつもくっついているから、ここ生徒会室で———。


 むしろ、ハグやキスをしない二人にちょっとびっくりしたかもしれない。

 あんなに仲がいいのに、まだキスとかやってないんだ……。


「念の為……、聞いておきたいことがあるけど、そのキスって大人のキスなの?」

「大人のキス?」

「えっと……、舌と舌があの…………」

「うん! そんな感じ! どうしたの? キスって普通そうでしょ?」

「えっと……、ひなちゃん。どうして宮内くんと付き合いたいの?」

「えっ? 好きだから」

「いや、ごめんね。そうじゃなくて……、二人は恋人同士でやってることを全部やってるように見えるから。どうして付き合いたいのか知りたいってこと」

「恋人同士でやってることを全部やってるって……」


 そういえば……、私たち一緒に登校して、一緒に帰って、同じ家で一緒に夕飯を食べて、同じベッドで一緒に寝ている。そして奏多と付き合っても多分……今と同じ感じだよね。


 それでも、付き合いたい……。

 よく分からないけど、言葉で奏多を束縛したい……。私たちはこういう関係だよって、すごく奏多を束縛したい……。はっきりと言っておかないと、またどっかに行ってしまいそうな気がして不安だから———。


「…………」

「今はゆっくりでいいと思うけど、急ぐ必要あるのかな? 宮内くんもひなちゃんを見てるし、不安なの? ひなちゃん」

「不安……」

「でも、やっぱりそうだよね。好きな人に付き合ってって言われたいよね。その気持ち分からないとは言わないけど……」

「そうだよね」

「大丈夫! 大丈夫! 心配しないで!」


 どうしても奏多に言わせたいけど、方法がないからずっと悩んでいた。

 でも、冬子の話通り……急ぐ必要はないよね。

 どうせ、私たちの関係を邪魔する人はもういないから……。ゆっくりでいい、急ぐ必要はない。


「で、冬子は会長とどうなりたい? やっぱり、冬子も付き合いたいよね?」

「わ、私は……。そうだけど……、まだまだ……、時間が必要だと思う」

「私の必殺技教えてあげようか?」

「うん? 何それ」

「まずこうやって会長の前に立つの」

「うん」

「そしてそのまま会長を抱きしめてキスをする」

「そんなことができる人はひなちゃんしかいないよ……」

「試してみよう!」

「だから、さっきも言ったけど、それができるのはひなちゃんだけだよ……」

「…………ふーん」


 ……


 一方、廊下でこっそり女子たちの話を聞いている男子たち。

 奏多が小さい声で話す。


「どうする? 会長?」

「いや、どうするって言われても……。そんなことより宮内くんこそどうする?」

「俺……、ううん」

「俺たちの関係は二人と全然違うから、これが普通だと思うけど……。宮内くんと三木さんは幼馴染だろ? 最近、よく生徒会室であんなこと言ってるね。二人とも」

「…………」

「悩む必要もないことに……、悩んでどうするんだ? 三木さんは宮内くんと付き合いたいって言ってるだろ? 堂々と告ってこい」

「そうだね。そっちの方がいいよね。でも、それを言うのは体育祭が終わった後だ」

「そうだね、明日かぁ……。二人三脚の練習からやっと解放される……」

「頑張れ、会長。最後の体育祭だろ?」

「確かに……」


 廊下で仲良く話している二人、奏多にもいい友達ができたような気がする。

 そしてお母さんが買っておいたあれ……早く使いたいけど、その時がいつ来るのか全然分からない。


「どうしたの? ひなちゃん」

「廊下で話している」

「へえ、そうだね。二人とも仲良くなったね」

「うん」


 消えかけのキスマーク、また……奏多の首につけたくなった。

 なんか、私……だんだん変態になっているような気がする。


「ううぅ……」

「どうしたの? ひなちゃん」

「奏多! 教室に戻ろう!」

「あっ、うん」


 付き合うとか、そういうの考えたくない。

 今のままでいいと思う。

 どうせ、奏多は私の物だから……。今は深く考えないように!


「今日! うち来るよね!」

「あっ、う、うん。行くよ……」

「よろしい!」

「は、はい……」

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