36 意識③
まさか、あんなところで……斉藤と一緒にいるとは思わなかった。
なぜだ……? すぐ戻ってくるって言っただろ? でも、今はそれを聞く暇などない。なせ、そこにいるんだ? なぜ、ひながあんなところで倒れているんだ? またお前かよ———。
また、お前かよ!!! 斉藤一馬!!!!!
このクズがぁ!!!
あいつの髪の毛を掴んで、そのまま廊下に連れてきた。
なぜ、ひながここにいるのか説明してもらわないとな。
「ここで何をした?」
「離せ! くっそ———」
「違う。俺が聞いているのはそれじゃない」
手のひらで思いっきりあいつの顔を叩いた。
本来なら気絶するまで拳で殴るつもりだったけど……、声が出てこなかったから困るし、俺も聞きたいことがあるからさ。
運がいいな、斉藤。
「陰キャのくせに調子のっ———!!!」
また変なことを言うから、思いっきり顔を叩いた。
なんで、俺はこんなやつにいじめられたんだろう……。こんな……弱虫に。
そんなに偉いのか? お前は。
「うん? 何? 聞こえない。もっと大きい声で話してくれないか? 斉藤」
「…………ケホッ!」
「お前、ひなに何をした。答えろ! 斉藤一馬!」
「あはははっ……、ひなちゃんのことがそんなに好きなのか? 残念だったな〜。奏多」
「はあ?」
「ひなちゃんの体、すっごく気持ちぃ———っ!!!」
それ以上は聞きたくなかった。もういい……。
そのまま思いっきりあいつの腹を殴る。
こいつがひなに何をしたのか、それを聞き出そうとした俺がバカだった。我慢していた俺がバカだった……。最初からこうするべきだったのに、何を迷ってたんだ。何を……、俺は……。
そして、倒れているひなを見た。
あの時も———。
この距離で……、俺は倒れているひなを———見つめるだけだった。
「先生! こっちです! こっち!」
「なんの騒ぎだ!」
「先生! ここにひな先輩が倒れています! 早く運ばないと!」
「まず、二人は職員室についてこい。花岡先生、倒れている生徒を頼みます」
「はい」
「…………」
今の状況を先生にちゃんと説明しないといけないから、そこに倒れているひなに俺は……また何もやってあげられなかった。
ただ、ひなを知っているあの後輩に任せるだけ。
……
「どうして、そこで喧嘩をしていたんだ? 二人は」
「あはははっ、先生。俺は急にこいつに殴られただけですよ! 無罪なんです!」
「はあ? 何を言ってるんだ!? 斉藤! なら、ひなのことはどう説明する? お前、一体そこで何をしたんだ?」
「うるさいなぁ。しらねぇよ」
ここまで来て、知らないふりをするのか?
「斉藤、お前もう騒ぎ起こさないと約束しただろ?」
「先生〜。俺、本当に何もしてませんよ? それに〜。ここ見てくださいよ、顔と腹を一方的に殴られたんですけど? 俺が、殴られたんですよ。先生」
そう言いながら赤くなった顔と腹を見せる斉藤。
自分は被害者って言いたいのか? くだらない。
「そして、宮内。優等生のお前がどうしてこんなことをしたんだ?」
「友達のひなが職員室からずっと戻ってこないから、それが心配になって探していました。そして、さっき先生を呼んだ後輩に二人の居場所を聞いて、5階の空き教室に着いた時……。ひなはすでに倒れていました。二人しかいなかったあの教室で女の子が倒れていたんです!」
「ああ、何言ってるんだよ。俺はひなちゃんと話をしただけだぞ?」
「なら、なぜひなが床に倒れていたんだ? なぜ! 倒れたひなが腹を抱えていたんだ?」
「しらねぇよ。生理だろ?」
「…………」
その話を聞いて、思わず席から立ち上がってしまった。
あの小さな女の子が床に倒れたまま腹を抱えていたのに、生理とか言うのか? こいつ……。
いや、待って———。
「お前……、まさかひなの腹を殴ったのか?」
「あはははっ、そんなこと———」
「先生! お、遅くなってすみません! こ、これを先生に聞かせてってひな先輩に言われました!」
その時、ひなを保健室に連れて行った後輩が声を上げる。
「うん? なんだ、それ?」
あれは、ひなの……スマホ?
そのまま先生にスマホを渡す後輩だった。
「その録音を再生してください!」
「ああ」
すると「ひなちゃん!!!」と叫びながら、強制的にひなを抱きしめる斉藤の声とそんな斉藤に抵抗するひなの声が職員室の中に響いた。それを聞いて、先生と生徒たちがびっくりする。
「い、いや! これは……! ちょっと、先生!」
「斉藤、座れ」
「…………」
そして———。
「離して! その汚い手で私を触らないで!」
「…………ああ、うるせぇな。ひなちゃんはちょっと……黙って」
「うっ———!」
ひながこいつに殴られて、床に倒れる音も……ちゃんと録音されていた。
こいつを……その場で殺すべきだった。
そう、殺すべきだったぁ———!
「斉藤一馬!!!!!」
「宮内、お前も座れ」
「…………くっそ!」
ひなの録音がまだ終わってないから、そのまま席に着いた。
その声が……、その声が……俺のトラウマを刺激する。
どうしても我慢できなくて、自分の唇を噛んだ。血が出てきても構わず、自分の唇を噛んでいた。
「奏多のこと好きなのか? やっぱり、すぐやらせてくれるうみちゃんより誰かの大切な女を奪うのがもっと気持ちいいと思う。あいつからうみちゃんを奪った時、どんな顔をしていたのか分かる?」
そこまでする理由はなんだ……? 斉藤。
お前らのことを俺は理解できない。マジで、理解できない…………。
「くっそ! これは……! これは!」
「おい! 斉藤!」
先生からひなのスマホを取って、そのまま床に投げる斉藤。
スマホは液晶とともにすぐ壊れてしまった。
でも、あいつがそこで何を話していたのか、ここにいる全員が聞いたからさ。ここで、お前はどうする? 斉藤。また……、さっきみたいに知らないふりをするつもりなのか? ひなを侮辱しておいて、自分は悪くないって言うつもりなのか? このクズが。
「…………くそ、あの女が」
「宮内、そしてそこの君。教室に戻れ」
「は、はい!」
「はい……」
先生に教室に戻れって言われたけど、俺は……すぐひながいる保健室に向かった。
今は授業を受けたくない。
サボるのは初めてだけど、それでもそばにいたかった。
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