18 転校生②

「教科書、見せてくれない? 奏多」

「あっ、うん」


 さりげなく机をくっつけるひなと……、そのそばでじっとひなを見つめる俺。

 そのまま授業を受ける二人だった。

 てか、授業に集中するひなは久しぶりだな。ふと、俺に勉強を教えてくれた中学時代のひなを思い出してしまう。あの時は一緒に勉強をして、都会のいい大学に行こうと……そう言ってたからさ。


 多分……、ずっとひなの家で勉強をしていたと思う———。

 それ以外、特にやることもなかったから。


「何考えてるの? 奏多」

「別に……、何も」

「あっ、それより学校で奏多って呼んでもいいよね? 私たちずっと下の名前で呼んでたから」

「うん。いいよ」

「うん!」


 そう言いながらニコニコ笑うひなだった。

 その笑顔がすごく可愛い。


「ねえ! 三木! リップ何使ってるの? 教えて!」

「三木さん! うわぁ、顔ちっさ……! それに、肌綺麗! 可愛い女の子が転校してきたね」

「三木! か、彼氏いるのか? 彼氏!」

「そう! 彼氏!」

「ちょっと男子たち、邪魔だよ! 退いて! 私たちも三木と話したいから!」

「はあ? それは差別だぞ!」

「えっ? あ、あ……」


 そして、休み時間。クラスメイトたちがすぐひなのところに集まってきた。

 いきなりたくさんの人たちに声をかけられて、すごく慌てているひな。

 その中にはしょっちゅううみに声をかけた男たちもいる。さりげなくひなに「彼氏いる?」って聞いたやつらはほとんどうみに振られたやつだから。今度はひなを狙っているのか? 馬鹿馬鹿しい。


 女の子に飢えているように、彼らはしつこく彼氏の有無を聞いた。


「てか、三木さ。なんで先生に宮内の隣に座りたいって言ったんだ?」

「えっ?」

「そうだよ。ああ、転校してきたばかりだから分からないかもしれないね」

「宮内はね……」


 ちらっと俺の方を見る。その視線に気づいていた。


「どうして?」


 首を傾げるひな。

 すると、くすくすと笑うクラスメイトがある写真をひなに見せてあげた。


「あいつ、実はうみと付き合ってたけど、こっそり浮気をしたって……! これがあの時の写真だよ。三木」

「…………」


 こそこそ話しても全部聞こえるから、チャイムが鳴るまでどっかでゆっくりすることにした。このままじゃまた昨日みたいに、クラスメイトたちに責められるかもしれないし、ひなもあれに巻き込まれるかもしれないから。でも、わざとあの写真を見せてあげた理由はなんだろう。もしかして、ひなと俺の関係を壊すためなのか? 俺たちが仲良さそうに見えるから?


 何気なく俺の隣席に座りたいって言ったのが、よっぽど気に食わなかったようだ。

 俺の方を見て、笑っている。


「あ! へえ、この写真誰が撮ったんだろう」

「うん? 知ってるのか? 三木」

「ねえねえ、奏多! こっち来て!」


 そして、教室を出ようとした時、ひなに声をかけられた。


「ど、どうした?」

「この写真! 私と奏多じゃん! ええ、どうして知らない人たちがこの写真を持ってるんだろう。不思議だね」

「そうだね」

「はあ? この写真の中にいる女の子、三木なのか……?」

「そうだよ。そういえば、私……この服を着た時に自撮りも撮ったからね、待って、ああ! これだ」


 そう言いながら、あの日の自撮りをみんなに見せてあげるひな。

 クラスメイトたちは沈黙した。


「じゃあ、宮内は三木と浮気をしたのか?」

「あはははっ、浮気だなんて。そんなことないよ〜。私たち、幼馴染だからね。この写真は久しぶりに都会に来た時に撮られた写真だけど……、誰だろう。そんなことより、奏多がみんなに説明しなかったの?」

「そ、それは……」


 ひなにそう言われたクラスメイトがすごく慌てていた。

 あいつの前でちゃんと話したから、きっと覚えているはずだ。それについては反論できないよな。どうせ、理由などどうでもいいだろ? 誰かを潰すのが楽しかっただけだからさ。あいつらは———。


 そして、俺と目が合う。


「そ、それでも浮気したのは事実だろ?」

「あはははっ、浮気? 私たち、付き合ってないよ? ああ、もしかして手を繋いでるからそう思ってるのかな? あはははっ。幼馴染と手を繋ぐのがそんなにおかしいの?」

「…………」

「私と奏多は幼稚園に通っていた頃からずっと手を繋いでいたよ? 今、みんなの前で手を繋ぐのもできる。全然恥ずかしくない。ほら」

「…………」


 そう言いながらさりげなく俺と手を繋ぐひなだった。


「えっ? ひ、ひな……?」

「ふふふっ」


 なぜか、指を絡めてくる……。

 ひな……? これ、ちょっとやばくない!?


「い、いや……。うみが浮気されたってそう言ってたから……」

「じゃあ、これ以外の証拠を見せてくれない? さっきから浮気浮気って言ってるけど、なんでそんなに嫌がってるの? 奏多のことを。それにさっきからずっと偉そうに話してるじゃん。気持ち悪い」

「チッ」


 舌打ちをして、すぐ教室を出るクラスメイト。

 どれだけ話しても俺の話を聞いてくれなかったやつらが、ひなの話にはすぐ尻尾を下ろす。そのまま、男たちは教室を出た。


「…………」


 堂々と話すひなの前で誰も「浮気」という言葉を口に出せなかった。

 そして、クラスの中にはしばらく静寂が流れる。

 昨日まで俺を責めていたクラスメイトたちは何も言えず……、その場でじっとしていた。そして、言いたいことは山ほどあるけど、それが無茶ってことを知っているようなそんな顔をしていた。


 それ以外の証拠はないから、嫌がらせを続けない。

 バカみたいだ。


「奏多、私ジュース飲みたい! おごって!」

「はいはい。行こう、ひな」

「うん!!!」


 仲良く話している二人、その姿をうみのそばでちらっと見る冬子だった。

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