第39話 1回だけの救済策。
3人を駅まで送り、帰ってきた俺に、母さんが「変なモテ期ね。3人ともいい子なんだから大事にしなさい」と言ってきた。
俺と言えば「余裕、余裕。俺と巡の仲は磐石だよ」と言っていた。
全然大丈夫じゃなかった。
ゴールデンウィークもアルバイトをしながらお金を稼ぎ、巡と一緒にいた。
前の高校2年の時にはできない事をするつもりで命を輝かせて、1秒も無駄にしないつもりで巡といた。
「いい加減にしてよ!」
怒られた。
6月の第3土曜日に夏休みの予定を話したら怒られた。
「私にも予定があるの!夏休みには長野のお婆ちゃんの家に行くの!去年はカミサマとのゲームがあったから行けなかったし、今年は行きたいの!前の時は験が余命わずかだから無理をしてたの!なんでわからないの?門限だってあるの!そんなに泊まりだ遊びだって行けないよ!」
やり過ぎた。
ゆめゆめ気をつけようと想っていたのに、つい前回の巡のしてくれた事を当然と思い過ぎていた。
そこに元気になった俺。
そうなるとこうもなる。
だが、怒っていても巡は俺の命日の直前の日曜日にはきてくれて、仏間で手を合わせてくれた。
まあ、問題はその後だ。
「じゃあ、帰るね」
「え!?巡?」
「いいでしょ?白城さんと宮城さんもいるんだから、験は寂しくないよね。駅までのお見送りとかいらないから」
巡はさっさと言うだけで言って帰っていってしまう。
「アンタ、赤城さんに何したのよ?」
玄関までついてきて、呆れる母さんの後ろでは、沸き立つ宮城光と白城さん。
俺は父さんが買ってきた寿司屋のテイクアウトを食べながら、病気の時に巡と毎日いた夏休みの再現を願ってしまった事、だがそれは、俺の余命が僅かだから無理をしてくれていた事で、ごく当たり前ではない事をつい忘れてしまっていた事を話す。
「母さんと一緒だよ。前の時は湯水のように小遣いを使わせてくれたけど、今はウルトラスーパーケチケチドケチだろ?」
照れ隠しで愚痴を添えてみると、マッハでぶん殴られた。
暴力反対だよママン。
「謝りなさいよ」
「わかってる。明日には謝る」
「私には?」
「ごめんなさいお母様」
普通ならコレで終わる。
明日、許してもらえるかは別だが、巡に謝る。
それで済むはずなのに、俺たちには男神達がいるわけで、宮城光と白城さんの所には新しい指令が届く。
「験、指令よ」
「私も今来たよ!」
「お断りしたい…」
だがまあ断ると、2アプリのあの動画を宮城光の奴が高柳に見せられるようになり、白城さんの奴が父さんと母さんに見せられるようになるとされている。
「馬鹿野郎。宮…光さんのも蛍さんのも他人に見せていいわけがねぇ」
「そんな訳だからよろしくね験」
「やっぱり見られると照れるよね」
そんな2人に降り立った指令は「夏休み中は週に1〜2回は高城験といろ」だったが、その前にあった言葉が問題だ。
「読むわよ」と言った宮城光。
俺は「おう、やってくれ」と返す。
「宮城光は補習をカウントする事なく、夏休み中は週に1〜2回は高城験といろ」
は?
「宮城!?補習!?俺は2年の成績悪くないぞ!なんだその指令!?」
「光。私、出席日数が危ないのよ。ギリギリだから貯金目的でも出ておきなさいって、三ノ輪先生に言われたの。私、験に会って大学も視野に入れているし、やはり単位も大事じゃない?それで一昨日の金曜日に験が来ればって言ったわ」
「ぬわっ!?ふざけんな!」
また休みを潰された俺が苛立つ中、白城さんが「まあまあ、験くんは私の指令も聞いてよ」と言って笑う。
「白城蛍はアルバイトをカウントする事なく、夏休み中は週に1〜2回は高城験といろ」
…宮城光の指令を聞いてなんとなくそんな気がしていた。
「あれ?驚かないね」
「…なんとなく読めてましたよ」
「あらら、じゃあよろしくね」
肩を落として諦める俺に宮城光は「験!私の時もそれくらい素直になりなさいよ!」なんて言っている。
バーロー、アルバイトは金になる。
補習は何にもならん。
俺はそれを伝えると、流石に宮城光でも「それはそうね」と言った。
「でも、験といると理解度が違うからよろしくね」
「…冬は断ってくれ」
「いやよ」
「コイツっ!」
こんなやり取りをした後の週明け月曜日。
まだ少し怖い巡は普通に挨拶はしてくれた。
「後で話があるんだ」
「うん。いいよ。宮城さんと白城さんだよね。わかってる。私の所にも来たもんカミサマ」
指令か…、よくやるよ…。
だが違っていた。
くれたのはカミサマ4アプリ。
あの赤い髪色の女神のアプリで、そこにはムービーがあった。
まあ俺が、俺の汚い部屋の中、ベッドにうつ伏せて「夏休み、巡とどこから行こうかな。遊園地、映画館、水族館、海かプール、山なんかもいいな」と言って足をバタつかせている。
これ、6月入ってすぐの奴だ。
「ごめんな巡。前の時はこの部屋で『治ったら行こうな』なんて無責任な事言ってたもんな。後約束したのはどこだっけ…、あ!花火と夏祭り!それならテレビ局がやる夏祭りとか喜ぶかな?忙しいな、夏休みは馬鹿みたいに働いて約束守らないとな!待ってろ巡!」
俺は相変わらずバカ丸出しで部屋の中で巡の名前を呼んでは「水着!浴衣!」と言っているし、「男神〜、どうせなら俺のカミサマアプリに、俺が楽しくなるように色んな格好の巡を入れてくれよ〜」なんて話してる。
ちなみに男神の奴は、入れるに入れたが、水着は宮城光。浴衣は白城さん。巡の奴はリクルートスーツにしてきた。
リクルートスーツ?意味わからん。
「験のバカ。高2で約束したからって、高2でやる必要なんてないの。ゆっくりでいいんだよ」
「…ごめん」
俺が素直に謝ると、巡は「赤い髪の女神様に感謝してよね。こんな事書かれてたんだからね。読むよ」と言った。
「今回、高城験が何を思って、あなたとずっといようとしたか見せてあげる。ホワイトデーに享楽の神、あなたにゲームを仕掛けた男神が性愛の女神…2アプリのアイコンの女神と共にシミュレートして見せた映像は、今回の事であなた達が破局した近々の未来のひとつだったのよ」
マジか、あれ、夏休み中だったのか?
「神様のゲームに巻き込んでしまって、高城験は命が助かったけど、あなたには特典が無かったから今回だけ助けるわね。モデルの子の写真集は今回は見送らせたから起きない未来。代わりに指令を出させたわ。それは認めてね」
巡は言い終わると、「宮城さんと白城さんの指令は何?」と聞いてきた。
「夏休みの間、補習やアルバイトを抜きにして週に1〜2日、俺といる事」
「補習?験またなの?」
「宮城が三ノ輪さんに言っていやがった」
巡は弾ける笑顔で「あはは。やられちゃったねぇ」と言う。
その笑顔のなんと可愛らしい事か。
「神様はいつでも見てくれてるんだから、感謝してね。プールは宮城さんで、夏祭りは白城さんと行けばどうかな?私は観たいのがあるから映画ね」
…それで水着と浴衣なのか?
てかそうなるとリクルートスーツの意味がわからん。
だがまあ首の皮一枚繋がったようだ。
若干神様に感謝する俺の耳には「あー…笑った」と男神の声が聞こえてきていた。
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