第38話 別の可能性の姿。
場面はアルバイト帰りに寄るファーストフード店、いつもの白城さんとポテトとコーラ。
「落ち込まないんだよ。赤城さんとはコレが運命だったんだよ」
「…俺が悪いんですよ。1度目の、病気の時の癖で甘えて嫌われたんです」
なんだこれ?今までは自撮りとかだったのに、今度は近くの人たちの視線で俺たちが見られているドラマとかみたいな感じだ。
白城さんはポテトを口に含んで、「疲れた身体には塩気が沁みるね」と言って笑うと、「疲れた心には彼女かな?」と言って俺を見る。
「白城さん?」
「蛍だよ」
「蛍さん?」
「験くんは…、モデルちゃんの方がいいかな?」
「は?何言ってんですか?」
白城さんはバレンタインのチョコをくれた日と同じ顔で俺を見て、「験くんは私の青春だよ。赤城さんと比べてどうのとか言う気はないよ。ただ、私は毎日いたいって言ってもらえたら嬉しいよ。私の彼氏になって?」と言う。
スマホの中の俺は驚きながらも、「本当ですか?嬉しいです。巡と別れてすぐって格好つかないけど…、よろしくお願いします」と言って頷いていた。
ムービーはここで止まる。
この音声が聞こえるのは今回も宮城光と白城さん。
「人に聞かれると恥ずかしいね験くん」
「ちょっと験?なんでいつも白城さんから押すの?私を後に回すのやめなさいよ」
「験、私今回も聞こえなかったよ?何が起きるの?」
そして父さんと母さん。
「聞こえた。験の声だった」
「白城さんの声もしたわ」
「何!?」
俺が卒倒する中、宮城光に言われて渋々宮城の方もタップしてみた。
・・・
場所は最寄駅の駅中カフェ。
また落ち込んでいるのは俺。
なんとなく展開は読めるが、ここでも俺は巡にフラれていた。
「今までのお礼よ。聞いてあげるから辛い気持ちを吐き出して楽になりなさい験」
話をしている俺の声を聞くと、俺はこっちでも巡に甘え倒して怒られて「もう知らない!験なんて嫌い!」と言われてしまったらしい。
謝ってもダメで、キチンとフラれた俺を慰めてくれる宮城光は、「コレでも見て元気を出しなさい」と言って宮城光の初写真集の試し刷りを取り出してきた。
それはコレまでの宮城光の写真が集められていて、昔のガリガリから、今の健康的な写真に変わって行くので、見ていて気分はいい。
「どう?」
「いいぞ。やはり宮…」
「光」
「光さんはキチンと健康的な方がいい。これ、持って帰って親にも見せるんだろ?こっちの方がいいって言わせるんだぞ」
嬉しそうに頷いた宮城光は「見せるわ。ありがとう験」と言う。
その顔が普段と違っているのに映像の中の俺が気づく。
「どうした?」
「写真を見て、自分でも今の方がいいって思えてるから、そのきっかけをくれた験にいつも感謝してるの」
「別に、やりたいようにしただけだから感謝はいらないな。感謝するなら補習に巻き込まないでくれ」
「それは無理よ」
映像の中でも、補習に巻き込まれているらしい俺は「コイツ…」と返していて、その顔を見て笑った宮城光は、「験、水着写真とかどう?」と聞いてくる。
言葉に併せてページをめくっていくとガリガリの水着写真と健康的な水着写真が出てくる。
「どう?本人目を前に言いたくないが、健康的な方は綺麗じゃないか?」
あまり言いたくないが、ガリガリの方は死ぬ前の俺を思い出してさらに嫌になる。
「あのね…、自分で言うと照れるけど、男性のファンとかもいてね」
「いるだろうな。宮…光さんは綺麗だからな」
モジモジとした宮城光は「だからね、験が男の人達が私の肌を見るのが嫌なら…、引退してもいいかなって思ってる。お母さんにはこの写真集があれば結果も残せたし…」と言い出した。
「はぁ?辞めるって…」
「先に後ろにあるインタビュー読んで」
俺は言われた通りに読み進めると、中には初期のガリガリから、今の姿になった事、その理由なんかを質問されていて、宮城光はハッキリと1年の夏に補習で一緒になった俺に会って人生観が変わった事、俺が大病を乗り越えて、同年代にはない死生観の持ち主だった事、巡に片思いだった事もあり、モデルの宮城光が相手でも、身構える事も何もない自然体の俺に惹かれていた事を赤裸々に答えている。
インタビュアーは宮城光の口から出てくる男の影に飛びつくが、宮城光は恥じらいも何もなく、「私はその人が好きです」と答えていた。
「彼が応援してくれるから、学業も両立もできている。彼が両親を説得してくれたから、健康的になれて、仕事も変わってくれた。命と健康を何よりも、誰よりも大切にする彼だから、彼の言葉には重みがあるから、頑としてダイエットを求めてきた母を説得できて、父も協力してくれました」
インタビュアーは「その彼に止められたら、波に乗っている時期なのに辞めてしまいそうだね」と聞くと、宮城光は「はい。もし彼が、私を独占したいと言ってくれたら、私は今の全てを捨てられます」と答えた。
インタビューの最後は「恋を知って宮城光は輝いた。それはファンにとって、良くも悪くもあった。いちファンとして、躍進も恋の成就も願ってしまう」という言葉で締められていた。
「宮…光さん…」
俺の言葉に真っ赤な宮城光は「私は本気」と言った。
「赤城さんでは貰いきれなかった気持ちを、私は足りない、もっとって頂戴って言える。験の為にもお母さんやお父さんともうまくやれる。だから付き合って、それで私の仕事が嫌になったら辞めるから言って」
宮城光は「私は仕事よりも験が大事」と言い切っていて、映像の俺は…。
「ありがとう。…本当に俺でいの?俺って格好良くないよ?」
「いいって言ってるの」
「じゃあよろしく」
ポンポンというラリーで宮城光と付き合うことになると、宮城光は「うそ…」と驚いていて、「あ、やっぱやめる?」なんて、答えのわかりきった事を聞いて笑っていた。
また父さん達はその声が聞こえていた。
・・・
宮城光と白城さんは俺の親に見せられる記録、ムービーは指令の中にはないらしく、付き合った時に撮った幸せな写真を見せてからこの写真の説明をした。
「これは、験くんを助けてくれた神様達が予知の力で、万一赤城さんと験くんが別れてしまった世界の先にある可能性のひとつです」
「私達はその可能性を信じていて、今もこうして届く指令に従っています。今日はこの話をするように指令を受けました」
俺はその横で巡に「あり得ん世界の映像だった」と言って肩を落とす。
だが巡は「神様のやる事だからあり得なくないんだよ?」なんて変な順応をしていて、俺は気が気ではない。
両親が何を言い出すかヒヤヒヤしている。
巡が気を悪くするのが1番嫌だったりする。
だが、想像とは違っていた。
「験を想ってくれてありがとう。でも、応援もやめなさいとも言えないわ」
「すまないね。見せてもらった験の喜ぶ顔が本物なのはわかるけど、目の前の験は巡さんといる時に幸せそうな顔をしているから、それの邪魔はできないんだ」
両親がキチンと言うと、宮城光も白城さんも普通の顔で「はい」、「わかってます」と言い、それでも本気だから、これからもこの集まりみたいに顔を出すから、今日は挨拶みたいなものだと言っていた。
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