第7話 コーラとポテト。

駅前のファーストフード店でお茶を飲む事になる。

白城さんは小腹が空いたと言ってコーラとポテトで現れる。


話は他愛のないもので、「高城くんはどこ高校?」と聞かれて「東の京です」と答えると、「マジで!後輩じゃない!OGの白城です!三ノ輪さん元気?」と喜ばれる。


「三ノ輪先生ですか?俺の担任ですよ」

「おお、私も3年間三ノ輪さんだったんだよ。白城がよろしく言ってたって新学期言ってよ」


盛り上がる会話の中でも、「ポテト食べられる?食べなよ」と勧められて少しもらう。


「ふむ。ポテトは食べられる」

「だから、なんだって少しなら平気ですよ」

「そうだね。でも高城くんはキチンと聞いておかないと、今日だけならって我慢しそうなんだよねぇ」


確かに白城さんに勧められれば断らずに我慢をする。

少ない付き合いでも気にしてくれるのが白城さんの良いところなのだろう。


「でも、高校一年生で大病とはねぇ」

「まあ、俺は運がいいです」


死んでいたはずなのに何故かこうして二周目がある。


「初期段階で気づけなければ、自覚症状が出てからは手遅れでした」

「…うん」


白城さんの顔が、宮城光と同じ風に感じたので、慌てて「まあ、それで入学式やオリエンテーションとかが消えたので、そっちは運が悪いですね」と軽口を叩くと、「まったく、違うでしょ」と呆れられる。


白城さんも話題を変えたかったのか、「で?アルバイトしてどうするの?欲しい物とかあるの?」と聞いてきた。


「特に決まったものはないんですけど、親から今年の外遊費は入院と手術、この先もある検査代で飛んだから、自分で稼ぐように言われたのもありますし、1学期は周りの奴らすら遊びに行って悪化したらって気を遣ってて、2学期以降はなるべく誘われたら出かけたいんで、その為に使いたいです」


白城さんは「親御さんはしっかりしてるね」と言って笑い、「思い出は大事だよね」と少し真面目な顔で続けた。


「で、働いてみてどう?」

「面白いですね。まだ役立たずですけど、忙しさの中で皆で動くのは生きてる実感があります」


「それは良かったよ」と言った白城さんは、コーラを飲み終わるとスマホを見て「ちょうどいいかな?帰ろう。また明日ね」と言う。


翌日以降も会って働く。

なんか忙しい日ほど帰りにお茶に誘われて、白城さんはポテトとコーラで少しずつ話をする。


急に休む時に代わってとお願いしたいから、連絡先の交換をしようと言われ、アルバイト自体が22日までで、短期でも大概夏休み最終日まで入るのに、中途半端なのはどこか行くのかと聞かれて検査だと答える。


「検査?」

「術後の経過です。検査自体は24日ですけど、1日前から身体を休めておかないと、健康なのに変な数値になったら周りに迷惑がかかります」


説明をする俺の指を見た白城さんは心配そうな顔をしてしまう。


「本当に…、大丈夫なんだよね?」

「大丈夫なのを確認しに行くんですよ」

「結果だけでも教えてよ」


あまりに真剣な白城さんが少し気になったが、「いいですけど、俺辞めてますよ?」と言うと、白城さんは「それも辞めなよ。25日からもおいでよ」と言ってくれる。


「25日からは入院した分の補習なんで難しいんですよ」

「なら二学期からも。平日は少しだけディナー入って、土曜日とか中継ぎ入りなよ」


妙に真剣な態度が気になって、「まさか、店長から頼まれたんですか?」と聞くと、「そういう訳じゃないけど」と慌てる白城さん。


なんとなく間に挟まれて、バイト上がりに説得にくる白城さんの大変さを無碍に出来なかった事と、アルバイトの楽しさと金が手に入る事とかから、「前向きに考えておきます。後4日、とりあえずお世話になります」と答えておいた。


「期待して待ってるからね!」

「圧がこわいなぁ」


そんな白城さんは店長に根回しをしていて、「白城が説得してるんだって?」と白城さんがいない日に聞かれる。


「店長達が白城さんに頼んだんじゃないんですか?」

「いや、そりゃあ『残って欲しいなぁ』とは愚痴ったけど、白城に頼んだりしないよ」


「んー…なんですかね?」

「どした?」


「白城さんって手違いで俺の背中の手術痕を見ちゃって、それから凄く心配してくれてるんですよ。他所でバイトするより、ここなら心配できる分楽なんですかね?」

「聞いてみなきゃわからないけどな。でもあんな先輩はそうそう居ないから、席だけでも残しておいて、大きな休みは働いてくれない?」


俺はその問いに何点か確認をする。


店長に言わせると、まずは在籍、次に出勤らしく、俺のような働き方でも、面接や制服の採寸なんかの手間から見たらありがたいらしい。

基本は土曜日の中継ぎ、平日は固定せずに店長から「この日ダメ?」と聞かれたら、週に1日から2日程入る事にした。


「高城って土日どちらか休みたい人なの?」


店長は在籍を考えると言ったらグイグイと来ていて、正直失敗したかなと思ってしまう。

この質問も土曜日と日曜日で、どちらかを店長に選んでもらって、その結果なのだが、断られればそれはそれで聞いてくる。


「親がうるさいんですよ。無理して働いて再発したらどうするんだって、小遣い少ないくせに怒られます」

「あー…了解。しっかり休んでくれ」


残留はすぐに白城さんにバレて、次に一緒に働く日に「偉い!よく決めた!」と言われた。

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