秘め事は休日の戯れに 7/9
いつの間にか辺りは薄暗く、街燈の無い見渡す限り畑の中に在るあたしのお店からは、百メートル先も定かで無くなってしまう。
あたしは璃央に身体を預けると頭を肩に凭れ掛からせ、少し掠れたトーンで甜えるように呟く。
「もっと……もっと強く抱き締めて――お願い」
「解かってる。全身の力を抜いて俺に委ねてみろよ」
「うん……」
あたしは璃央を。
璃央はあたしを。
貪るように求め戯れ合いながら
胸の奥から際限なく溢れる感情に鼓動は煩く響き吐息は熱を帯び、享け入れる準備は整ったとばかりに急き立てて来るわ。
そんなもどかしさに耐えるあたしの身体は震え、狂おしくも甘美な想いをありったけ詰め込みぶつけると璃央はそれ以上に応えてくれるの。
拙くもエスカレートして行く一方の身体に気恥ずかしさを覚えるものの、重ねた二人の想いは融合して湯水の如く湧き上がる衝動のままに求め合ってしまう。
「あぁ……これでやっと貴方にも逢えるのね」
「そうだな。やっと逢えるんだ」
「待たせてしまったわね。でもこれからは――」
「同じ時代に巡り逢える奇跡に感謝しないと」
「予感が在るの」
「どんな?」
「あの子はきっと使命と目的を持ってあたし達を選んでくれたって」
「うん。それは俺も感じてる」
「璃央の所にも行ったの?」
「一度だけ。最初は夢だと想ってたから、なかなか弥生にも云えなかったけど」
「あたしだって打ち明けるのに勇気を振り絞ったのよ」
「そうだな。普通だったら頭がイカレてるって思われてもおかしく無いからな」
「そう。だから時間が必要だったの。直ぐに云えなくてごめんなさい」
「謝る事じゃ無い。俺だって同じだったから共犯みたいなもんだろ?」
「そうね。共犯だわ。だからあたしに璃央を刻み込んでっ。二人で罪を分かち合って絆の深い処でひとつになりたいの」
「そうするよ。もうとっくに俺には刻み込んでしまってるけどな」
「もっと深く刻むわよ。疵痕が決して消えないように。心の奥底まで届くあたしだけの深い疵を刻み込んであげる」
「それは弥生と俺の罪の深さで一生疼く瘡蓋になるんだ」
「素敵だわ。あたしは貴男の最後の
「そうだ。俺が欲しいのはお前だけ。他には誰も要らない」
「当然でしょ。あたしの他には誰も貴男を満足させられないのだもの」
「その通りだ。最高のディナーをした後にファーストフードは食えないさ」
「あたしを食べる心算? ふふふ」
「お望みと在らばね」
「その応えを欲しい?」
「要らない」
「あたしを連れて行って。どこまでも高く」
「宇宙の果てくらいで良いか?」
「充分よ」
身体の芯が熱くなり焔が灯ると同時に、あたしは初めて味わう享け入れた悦びを享受して水の中に溶けて征くような感覚に囚われる。
上も下も解らず重力さえも消え失せて。
只々、揺蕩うように漂って征く――
開放された扉から解放される抑圧された想いをぶつけ合い、加速度的に光の速さまで駆け抜けあの子の下へ届けと二人を重ね願い祈る。
薄く開いた瞼は視界を霞ませ、唯一視える彼方の晄は閃光を放つ。
圧倒的な多幸感にあたしは熔かされて、璃央と混ざり交わり堕ちて征く。
水面を渡る水鳥のように穏かな小さな晄だけが、蠢くあたし達二人を静かに見護ってくれて居るわ。
どれだけの時間が流れたのだろう――
それは永くも在り僅かばかりでも在り、夢現な記憶を辿る余裕すらなく曖昧に彷徨う視線の先に瞬く星々が明滅を繰り返しウインクするその
路は突如として拓け遥か彼方の塵ほどの晄が急速に迫って来る。
あたしはそれを何か知っていて恐れなど微塵も感じない。
待ち焦がれた瞬間をいまかいまかと羨望の眼差しで魅詰め手を伸ばす。
「もう直ぐよ。もう直ぐだから!」
無意識にそう叫ぶあたしに璃央は云う。
「近くにいるって俺にも感じるぞ。あの晄の渦だろ」
「そうなの。あの子が来る! あぁ……早く。もっと早くっ。あたしはここよ!」
璃央が何か云ってる気がするけど、いまのあたしに言葉なんて理解出来ないわ。
だから独り言みたいに勝手に叫ぶしかないの。
「強く抱きしめてっ。もっとあたしを感じてっ。耳元で囁いてっ。何でも良いのっ。だからお願いよ!」
小さかったその晄の渦はもう塊のように目前まで迫り大きくなって加速する。
あまりにも大きな渦はあたし達を呑み込み、更に膨張するかのように益々膨れ上がるその様は猛々しく禍々しくも神々しい。
放つ閃光の眩しさに瞼をきつく閉じてしまいそうになるのを堪え、その
霞む視界と荒い呼吸に限界を悟り、言葉にならない言葉を発した刹那――
それは突然に爆ぜると緩やかにあたしを侵食して来るのに応え、残滓の如き湧き上がる衝動に全てを委ねた。
達した余韻の虚ろな眼をしてるあたしと璃央を眺める優しい瞳に、手を差し伸べてみたくなったの。
その瞳とあたしの瞳が出逢った瞬間、口を吐いて出たあの言葉はこの子名前だったのだと漠然と理解したわ。
間違いなく来てくれたと確信したあたしは微笑むと共に『いらっしゃい。待たせてしまったわね』って呟き導くように招き寄せる。
優しい瞳は瞬きで頷くと緩やかに晄へと戻っていき、あたしの身体を慈しみながら一周すると溶けるみたいに浸み込み、仄かな燈りはここに確かに灯ったの。
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このエピソードを抜粋した記事が近況ノートに在ります。
イメージイラストを添付してますので宜しければご覧下さいね!
https://kakuyomu.jp/users/7to3yuki/news/16818093081293425060
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