私、モブのはずでは?〜嫌われ悪女なのに推しが溺愛してくる〜

皿うどん

プロローグ

「アデル嬢に喜んでもらえたら嬉しいよ。オジサンだから、若い子の好みがわからなくて」



 そう言って差し出された小箱を、アデルはそっと受け取った。

 喜びで震える指先でリボンをほどくと、やわらかなベルベッドで包まれたケースが出てきた。

 中に入っていたのは、大粒の真珠をいくつもあしらったブローチだった。クレール家の紋章を彷彿とさせる四枚のリーフは銀色に光り、上品な曲線を描いている。



「ありがとうございます、テオバルト様。なんて……なんて素敵な……」



 心の底から沸き上がる喜びを口にしようとしたところで、アデル・クレールの言葉は途切れた。



「これ……どこかで、見た、ことが……」



 その瞬間、アデルの頭に鋭い痛みが走った。



「アデル嬢?」



 異変に気付いたテオバルトに返事をすることも出来ない。

 アデルは痛みで霞む視界の中、震える手で必死にブローチケースを机に置いた。婚約者から初めてもらったプレゼントを、落として傷つけたくなかった。



「アデル嬢!」

「うっ……! うぁっ……!」



 脳みそがぐちゃぐちゃにかき回されているように痛む。

 断片的に、アデルではない誰かの人生とテオバルトのスチルが、映像と文で一気に脳みそに焼き付けられた。



 ”——俺の婚約者は、死んでしまったんだ。俺をかばって”



 座っていることすら出来ず、ドレスに包まれた体がふらりと傾く。

 それを受け止めてくれたのは婚約者のテオバルトだったが、アデルはそれを認識できなかった。


 あまりの激痛に視界が白くなり、瞼の裏で点滅する光が次第にゆっくりになっていく。

 薄れゆく意識の中、アデルは悟った。



 このままでは自分は死ぬということを。


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