魔物の殲滅
俺の頭の中で、複数の設計図が同時に浮かび上がる。剣、盾、弓、さらには簡易な魔法装置まで。そして、それらを同時に作り出すイメージが鮮明に浮かんだ。
「行けるかもしれない……!」
俺は急いで、近くの広場に駆け込んだ。そこには、避難してきた人々が不安そうな表情で集まっている。
「皆さん、協力してください! 材料が必要です!」
俺の叫びに、人々は驚いた表情を浮かべる。しかし、この非常事態で何かできることがあるのなら、と皆が動き出した。金属片、木材、布、そして魔石のかけら。様々な材料が集まってくる。
俺は目を閉じ、深く息を吐く。そして、脳内で自分のできる最大のパフォーマンスを思い浮かべる。
『ロットメイク──』
俺の手が、信じられないスピードで動き始めた。材料が次々と形を変え、武器や防具へと姿を変えていく。剣が、盾が、弓が、そして簡易な魔法装置が、まるで湧き出るように次々と完成していく。
俺の手が動き続ける。最初は、同じ種類の武器を5つ程度同時に作れる程度だった。剣なら剣、盾なら盾。しかし、それだけでも尋常ではない速度だ。ポータブル鍛冶台と持っているだけの工具で、可能な限り性能の高い装備を量産していく。
「すごい……あんな速さで武器が……」
周りの人々が驚きの声を上げる。その声に促されるように、俺の指輪が微かに輝き始めた。
次の瞬間、俺のギアが一段階跳ね上がる。今度は10種類の武器を同時に作れるようになった。剣、盾、弓、槍、そして簡易な魔法装置まで。それぞれが異なる特性を持ち、様々な戦闘スタイルに対応できる。
「お、おい……あれ見ろよ。剣と盾が同時に……」
「いや、弓まで作ってるぞ!」
驚きの声が、さらに大きくなる。その声に呼応するように、指輪の輝きが増す。
そして、三段階目。俺の能力が、さらなる高みへと到達する。『マスプロダクション』。今度は50種類以上の武器を、同時に作り出せるようになった。しかも、それぞれの武器に複雑な魔法陣を組み込むことができる。防御力を高める盾、魔力を増幅する杖、敵の動きを鈍らせる矢……。しかも、それぞれが実用的な品質を誇る。通常なら数日かかるような工程が、瞬時に完成する。素材の消費が通常の半分以下で済むようになった。まるで、無から有を生み出しているかのような感覚だった。
この光景を目の当たりにした人々は、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
そして、ある者が叫んだ。
「み、皆! このチャンスを逃すな! 素材を、素材を集めるんだ!」
その声に、人々が我に返ったように動き出す。
「私が持っている鉄鉱石を使ってください!」
「こ、これは祖父から譲り受けた魔石です。きっと役に立つはず!」
「うちの店の在庫、全部使ってください!」
次々と、人々が素材を持ち寄ってくる。鍛冶屋、宝石商、魔道具店の店主たち。彼らが持ち寄る素材の質は、極めて高い。
魔法使いたちも黙っていなかった。
「この魔力結晶、使ってください! きっと強力な武器になるはず!」
「私の研究素材です。これで、より高度な魔法装置が作れるはずです!」
俺は、黙々と作業を続ける。提供された素材全てを、無駄なく使い切る。その度に、より多くの、より実用的な武器が生み出されていく。
「これを使ってください!」
俺は完成した武器を、周りの人々に手渡していく。剣、槍、弓、盾──。街の鍛冶屋の親方が、驚きの表情で俺の作業を見つめている。
「こいつは凄い……普通の鉄でも、こんなにしなやかな刃になるとは」
親方は、できあがったばかりの剣を手に取り、その切れ味を確かめる。
「おい、みんな! この武器なら使えるぞ! さっさと持って行け!」
親方の号令で、周りにいた徒弟たちが我先にと武器を手に取っていく。魔法学校の教師も、俺の作った簡易魔法杖を検分している。
「驚きだ……これなら、魔法の心得がある者なら誰でも使える」
教師は生徒たちに向かって叫ぶ。
「急いで、これを町の人たちに配るんだ! 使い方をしっかり教えてやれ!」
若い魔法使いたちが、真剣な表情で頷く。彼らは杖を抱えて、街中へと散っていった。
俺は黙々と作業を続ける。汗が額から滴り落ちるが、それを拭う暇もない。
そんな中、街のあちこちから戦闘の音が聞こえ始めた。
「やったぞ! 倒せた!」
通りの向こうから、歓声が上がる。魚屋の主人が、俺の作った槍で小型の魔物を倒したのだ。
「こっちも大丈夫だ! みんな、恐れるな!」
今度は靴屋の親方の声。彼は盾を上手く使って、魔物の攻撃をかわしながら反撃している。
街の広場では、魔法学校の生徒たちが簡易魔法杖を使って魔物と戦っていた。
「集中するんだ! 杖に魔力を込めて……そう、その調子!」
教師の指導の下、生徒たちは次々と小規模な魔法を放っている。火球や氷の矢が魔物に命中し、その数を着実に減らしていく。
鍛冶屋の徒弟たちも、思い思いの武器を手に戦っている。
「親方! 俺たち、やれますよ!」
彼らの目には、恐れよりも闘志が宿っていた。
俺は作業の手を止めることなく、その光景を見守る。街中が、まるで即席の戦場と化していた。しかし、人々の表情に絶望の色はない。それどころか、希望に満ちていた。
街を襲う魔物たちの姿は、実に多様だった。小型の翼竜のような姿をした『エレメントウィング』は、その透明な翼で空を舞い、鋭い結晶の爪で襲いかかってくる。彼らにはその属性に合わせた攻撃が有効だ。魔法使いが属性を見極め、その属性を持った武器の剣で数の攻撃を仕掛ける。
地面を這う『シャドウクロウラー』は、まるで影のように地面に溶け込み、不意に襲いかかる厄介な存在だ。ダメージを受けることは避けられない。だが、市民たちもひるまない。この状況に興奮状態になっているのもあるのだろうが、防具に守られている安心感が、人々を奮起させていた。
最も恐ろしいのは、巨大な人型をした『ジャイアント』だろう。その体は半分が結晶化し、通常の武器では歯が立たない。しかし、俺の作った武器のうちでも、高度な素材を使った武器であれば、何とか対抗できているようだ。
街の様子が、少しずつ変わり始めていた。最初は圧倒されていた市民たちが、今や魔物に対して優位に立ち始めている。無数の武器が、無数の人々の手によって使われ、魔物の数を着実に減らしていく。
俺は深く息を吐く。疲労で視界がぼやけそうになるが、それでも手を止めるわけにはいかない。街を、そして人々を守るために。そして何より、今度こそ幻ではない、俺自身のクラフターとしての進化のために。
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