売り場所

「おい、君。ここで勝手に商売してるんじゃないよ」


 振り返ると、そこには街の警備兵が立っていた。その厳しい表情に、俺は一瞬、言葉を失った。


「あ、すみません...」


 言葉を探しながら、俺は慌てて説明を始めようとした。しかし、警備兵は俺の言葉を遮った。


「商売をするなら、適切な手続きを踏まなきゃダメだ。ここは公共の場所だぞ」


 警備兵の言葉に、俺は冷や汗を流した。確かに、勝手に場所を取って商売をするのは問題があるかもしれない。しかし、どのような手続きが必要なのか、俺には全く見当がつかなかった。


「申し訳ありません。どのような手続きが必要なのでしょうか?」


 俺は恐る恐る尋ねた。警備兵は少し表情を和らげ、説明を始めた。


「まずは商工会議所に行って、営業許可を取らなきゃならない。それから、この広場で商売をするなら、役所の公共スペース使用許可も必要だ。あとは、衛生局の検査も受けなきゃならんな」

「食品でもないのに……!?」

「知らんのか。ダンジョンから持ってきたものなら一般人に毒になるものが付いてるかもしれないだろ」

「でも俺、クラフターだから……」

「関係あるか。次やったらこの国から追放するぞ」


 俺は頭を抱えそうになった。パーティから追放されるだけに留まらず国からも追放されるとは。これほど多くの手続きが必要だとは思わなかった。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。


「わかりました。すぐに手続きを始めて、許可が下りてから再開します」

「もう役所は閉まってる」

「はやっ」


 パーティにいたときの事務仕事も、全部シルヴィがやってたからな。俺はクラフトのこと以外は何も知らない男だ。


「では、明日から手続きしにいきます……」

「それがいいな。朝一で行ったほうがいい。キミと同じことを考えてるやつがわんさか集まってるからな」


 警備兵は満足げに頷いた。

 俺は苦笑いだった。


「ルールを守って商売するのは、君のためでもあるんだ。変な噂が立ったり、トラブルに巻き込まれたりしないようにな」


 警備兵の言葉に、俺は深く頭を下げた。そして、急いで展示台と看板を片付けて、グラムさんに借りた小屋に戻ることにした。ついでにグラムさんに商売をするために必要なことを聞いてみると、商工会議所への営業許可申請書、事業計画書、証明書の提出が必要とのこと。俺の場合はギルドカードか。


 俺は必要書類のリストを眺めながら、ため息をついた。これらの書類を揃えるだけでも、相当な時間がかかりそうだ。

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