俺を凡の生産職だからと追放したＳ級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ？〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます～

追放された生産職

　冷たい風が頬を撫でる。俺は呆然と立ち尽くしたまま、パーティリーダーのヴァルドの背中を見つめていた。わずか数分前まで、俺たちは仲間だった。いや、少なくとも俺はそう思っていた。

「ロアン、お前はもういらない。パーティを抜けろ」

　その言葉が、まだ耳の中で反響している。俺は困惑しながら、ヴァルドを見上げた。彼の目には、かつての仲間を見る温かさはなく、ただ冷徹な計算だけが宿っていた。

「え？ どういうこと、ヴァルド？」

　声が震えるのを必死に抑えながら、俺は尋ねた。ヴァルドは面倒くさそうに溜め息をついた。

「だから言っただろう。お前のクラフトスキルはもう必要ない。俺たちＳ級パーティには、最高級の装備しか似合わないんだ」

　ヴァルドの言葉に、他のメンバーも同意するように頷いている。魔法使いのシルヴィ、僧侶のセラ、そして盗賊のリックまで。俺は絶句した。これまで数年間、共に冒険し、危機を乗り越えてきた仲間たちだ。俺が作り出す装備や道具が、どれほど彼らの力になってきたか、誰よりも分かっているはずなのに。

「でも、俺の作る装備のおかげで、みんな何度も危機を脱したじゃないか！」

　必死の思いで、俺は反論した。しかし、ヴァルドの表情は変わらない。

「それはそうさ。でも今や、俺たちはこの国では最強のパーティだ。魔法も使えない上にレベル３スキルの一つも身につけられなかったお前みたいな平凡な生産職じゃ、俺たちの足を引っ張るだけさ」

　ヴァルドの言葉は容赦なかった。俺は自分の両手を見つめた。そこには、数え切れないほどの小さな傷跡がある。クラフトスキルのレベルを上げる過程で積み重ねてきた努力の証だ。それが、こんなにあっさり否定されるなんて。

「さあ、さっさと荷物をまとめて出ていけ。これからは、国公認の最高級鍛冶師に装備を作ってもらうからな」

　ヴァルドの言葉に、俺は呆然と立ち尽くした。これが、長年共に戦ってきた仲間たちの本心なのか。俺は周りを見回した。シルヴィは目線を逸らしたまま、セラは冷ややかに俺を見下し、リックに至っては俺がそこにいないかのように振る舞っている。

　結局、俺は黙ってパーティを去ることにした。他のメンバーも、俺を引き留めようとはしなかった。ただ一人、シルヴィだけが、わずかに俺の方を見ていたような気がしたが、それも錯覚だったのかもしれない。

　俺は重い足取りで、宿屋に向かった。荷物をまとめながら、これまでの冒険を思い返す。危険な洞窟で、俺が作った松明が役立ったときのこと。毒の沼地で、急遽作り上げた解毒剤で全員が助かったときのこと。そして、強大な魔物との戦いで、俺の作った武器が決定打となったときのこと。

　それらの記憶が、今は皮肉にも痛みを伴って蘇ってくる。

　荷物をまとめ終わると、俺は宿を出た。街の喧騒が、今まで以上に俺には遠く感じられる。行き交う人々の笑い声や、露店の呼び込みの声。それらが全て、俺には関係のない世界のように思えた。

　街の外れまで来て、俺は立ち止まった。振り返ると、かつての仲間たちと過ごした街並みが見える。そこには、俺の居場所はもうない。

「そうだ……俺には、まだこのスキルがある」

　俺は自分の手のひらを見つめた。そこには、クラフトスキルを磨いてきた証が刻まれている。この手で、まだ何かできることがあるはずだ。