第3話 作りすぎちゃいました

 ゴールデンウィークのある日の夕方。


 ピンポーン、ピンポーン(チャイムの音が部屋に鳴り響く)

 ただただ(足音)

 ガチャリ(玄関のドアが開く音)


 こんばんは。はー良かったわ。

 お部屋にいてくれて。

 今日はですね、お肉が特売だったんですよ。それで肉じゃが作ったんですけどお、私作りすぎちゃいました。

 良かったらお兄さん、一緒にたべませんか?


 カチャッ(鍋の蓋が開く音)

 うーん、我ながらいい匂いがするわ。

 ねえ、お兄さん。夕ごはんまだですよね。

 そう、良かったわ。

 じゃあ、夕ごはん一緒に食べましょう。

 他にもね、いろいろ作ったんですよ。

 私、料理が好きなんですよ。

 ふふっ家庭的でしょう。


 そう、うんうん。夕ごはん宅配頼む予定だったのね。じゃあ、ちょうど良かったわね。

 おじゃましまーす。

 へぇ~これがお兄さんの部屋なのね。

 間取りは同じだけどやっぱり違うわね。

 けっこう綺麗じゃないの。お兄さん偉いわね。よしよし。

 ほらちょっとしゃがんでくれませんか。

 はい、よしよし。

 くしゃくしゃ(髪の毛がすれる音)


 それじゃあキッチンお借りしますわね。

 へぇ~キッチンも綺麗だわ。と言うか、あんまり使った形跡無いわね。まあ、そりゃ綺麗だわね。

 カチャッ(コンロに火が点く)

 グツグツ(煮える音)

 チーンッ(レンジの音)


 わーお兄さん冷蔵庫お水とお酒しかないじゃないの。えっいつもは宅配か外食ですませてるの。

 ダメだぞ、そんなんじゃあ。ただでさえ一人暮らしって栄養かたよるんだから。

 私、いいこと思いついたわ。

 これから定期的にお兄さんにお料理作ってあげるわ。

 遠慮しなくていいのよ。一人分つくるも二人分つくるも一緒なんだから。

 遠慮しない。遠慮しない。

 これもお隣のよしみでしょう。

 はい、できたわ。

 お皿お借りしますわね。

 余ったらタッパーに入れておきますね。

 ピーッ(炊飯器か炊きあがる) 

 あっご飯が炊けたわ。

 はーご飯のいい匂い。炊きたてのご飯ってどうしてこんなにいい匂いがするのかしら。

 それじゃあお茶碗もお借りしますわね。



 じゃーん、すごいでしょう。

 カチャリカチャリ(皿が並べられる音)

 へへんっどうかしら。

 肉じゃがに豆腐とワカメのお味噌汁にだし巻き、それにシーザーサラダ。どう、バランスいいでしょう。ちょっと映えないけどね。

 それじゃあ、いただきます。

 パクパクッ。ウンウン。ゴクリッ(お肉とじゃがいもを食べる咀嚼音)

 うん、いい味だわ。

 お兄さん美味しい?

 そう良かったわ。

 あらっお兄さんも甘い玉子焼きが好きなのね。奇遇だわ。私も甘い玉子焼きが好きなの。これはね我が家直伝なのよ。やっぱり私たち気が合うみたいね。食の好みが合うってとても大事よね。

 ねぇお兄さんの好きな料理教えてちょうだい。

 海老フライにハンバーグ、お好み焼きね。

 うふふっやっぱり男の子ね。

 今度お姉さん特製のハンバーグ作ってあげるわね。

 あーお兄さん、ちょっとちょっとどういうことかしら。人参さんが残ってるわよ。

 ちゃんとお野菜も食べないといけないんだぞ。

 ふふっわかったわ。

 お姉さんが美味しく食べさせてあげるわ。


 サクッ(箸が人参にささる)

 はいっじゃあお口開けてちょうだい。

 ほらっ恥ずかしがらないで。

 はいっじね、あーんして。

 パクリッモクモグッ(咀嚼音)

 はいっ良く食べられました。

 偉い偉いぞ。

 くしゃくしゃ(髪の毛が擦れる音)

 じゃあ今度はレタスさんも食べましょうね。

 あらっあらっお兄さん自分から口を開けて、雛みたいね。

 はいっじゃあ、あーんして。

 パクリッモクモグ(咀嚼音)

 ちゃんとお野菜も食べられて偉いわね。

 やっぱり誰かとご飯を食べるのは楽しいわね。

 じゃあね、今度はお兄さんが私に食べさせてもらおうかな。

 麻美子は玉子焼きをリクエストします。

 はいっあーん。

 パクリッモクモグッゴクリッ(咀嚼音)

 あはっお兄さんに食べさせてもらうと一段とおいしいわね。

 お兄さん、また一緒にご飯食べましょうね。

 私、お兄さんが食べたいもの何でも作って上げるわね。

 はー美味しかったわ。

 それじゃあ私帰るわね。おやすみなさい優一君。



 ギーガチャン(扉が閉まり鍵が閉まる音)

 ガチャガチャガチャ(シンクに鍋や皿がおかれる音)

 ジャージャー(水が流れる音)

 カチャカチャカチャ(皿が洗われる音)

 ふんふんふんーん(音程が外れた鼻歌)

 優一君のお部屋でご飯食べちゃった、あはっ。これで彼の胃袋は掴んだかな。お母さんに料理習って正解ね。おありがとう。やっぱり男の子の胃袋を掴むのは大事ね。しかも連絡先までゲットしちゃった。

 チロリンッ(スマートフォンの着信音)

 あらっ早速優一君からだはっ。

 ごしっごしっ(タオルで手を拭く音)

 あらっあらっあらっ、またご飯作って下さいだって。うふふっ、もうこれって私たち恋人同士じゃない。キャッ♡♡

 

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