氷のライラとお見合いしたのは国一番のプレイボーイと呼ばれる王子様でした(笑わないのは呪いのせいなので許してください)
風野うた
第1話 0、プロローグ・ライラが呪われた日
三日月の夜、クルム侯爵家に伝説の魔女が舞い降りた。これは誰かが呼んだからではない。否、そもそも魔女は滅びたとされているため、ここに魔女がいるということ自体、あり得ないことなのである。
魔女の目的は、スヤスヤと眠るクルム侯爵家の長女のライラに呪いをかけることだった。
「ボンソワール、あたしは魔女のXッサXXラだ。お嬢さん、あんたに呪いのプレゼントを持って来てやったよ。フフッ、どんな呪いかって?そりゃ、これから愛を求めることも受け取ることも許されなくなっちまう恐ろしい呪いだよ。あんたが思いを寄せる相手から“好きだ”と言われたら、心臓がバラバラになっちゃうからね。精々、誰にも愛されないように気をつけて生きて行くんだよ。ヒャッ、ヒャッ、ヒャッ」
魔女はまだ夢の中にいる少女の額へ、血のように赤黒い爪で触れると、呪文の詠唱を始める。刹那、ライラの額に赤い魔法陣が浮かび上がった。そのタイミングで、フルフルと睫毛を震わせながら、ライラは目を覚めてしまう。
知らない女と視線が合い、ライラは恐怖で声を出すことが出来なかった。それでも、泣いたりせず、知らないその女をありったけの勇気を振り絞って、睨みつけたのである。
「あらら、強気なお嬢ちゃんだこと。せいぜいあたしの呪いに足掻いて、長生きでもしてみせな」
ニヤリと妖艶な笑みを浮かべたまま、魔女は姿を消した。
魔女が消えた安心感からか、ライラの双眸からは涙がブワッと一気に溢れ出してくる。だが、ライラは、今の出来事を誰かに伝えなければといけないと思った。涙を袖で拭きながら、上掛けを捲って、寝台から冷たい床に裸足のままで降り、幼い少女は助けを求めるため、ドアへと駆け出した。
――――――――――
ライラは自分の母親のことを知らない。それは、父であるロイド・ピーター・クルム侯爵が、ライラは、留学先で出会った女性との子であり、彼女は出産時に亡くなったとしか話さないからである。
実は、出産時に亡くなったというのは半分真実で、半分嘘だ。
ライラの実母であるレン王女が、名も知れない誰かの子を留学先で産んだと知ったエスペン王国の王家は、ライラの命を狙った。レン王女は命を懸けて、産まれたばかりのライラを守り、恋人ロイドへ託したのである。ロイドは愛するレン王女を失ったことを悲しむ間もなく、追手からライラを守るために大陸で一番力を持つ祖国(サンチェスキー王国)へと戻ることにした。
何故、祖国へ戻ったのかといえば、隣国エスペン王国は高い山脈に囲まれた小さな国で、ロイドの住むサンチェスキー王国を通らなければ外(他国)に出られないという地形的な欠点があるからである。また、エスペン王国は王女の不祥事を表沙汰にして、対貿易国第一位のサンチェスキー王国と揉めるのは得策ではない。故に、祖国へ戻れば、追手が来ることはないだろうとロイドは考えたのである。
ロイドが予想した通り、追手がサンチェスキー王国内へ侵入してくることはなかった。そして、幸いなことに、ライラの父が、ロイド(クルム侯爵家の長男)であるということをエスペン王国は知らない。
――――――五年の月日が流れた。
昨年、爵位を継いだロイドには多くの縁談が持ち込まれるようになった。かねてより、伴侶を迎えよと言い続けていた両親が、しびれを切らし、とうとう強引にロイドを見合いの席に引っ張り出したのは先週末の事である。
しかし、ライラのことが何よりも大切なロイドは、新しい女性を家に入れたくなかった。そこで、相手には申し訳ないが、早々にお断りの文言を伝えたのである。
魔女がライラに呪いをかけるという最悪の事件は、このタイミング発生したのだった。
誰の仕業なのか、真相は十一年経った今も解明されていない。
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