トイレでのハプニング

天川裕司

トイレでのハプニング

タイトル:トイレでのハプニング


ある夜、私はどうしても

我慢できなくなって公衆トイレに駆け込んだ。

いつもなら必ず家に帰ってするのだが、

その日は仕方なかった。


この公園は人通りが少なく、

そのトイレは出るとの噂もあった。

なんでもトイレに没頭していると、

上から視線を感じ、

見上げると恐ろしい目が見下ろしていると言う。


そんな事あるはずがない、なんて気丈に構え、

自分の時を過ごしていたら出た。


「……マジで…?」


なにげにふと見上げたら、恐ろしい目…というか

普通にこっちを見下ろしていた。女の霊。

でももう1人覗いてる奴がいた。男。


男「…………」

女の霊「…………」


そいつらはお互いを見合わせ、

はじめ何も言わなかったがそろそろ口を開いた。


女の霊「……お前、ここで何してるの?」


男「…いや、のぞきを少々…」


女の霊「ああこの女覗いてるのか。でも今私が覗いてんだから今日は帰れよ…」


男「ぐ……!」


そこで男はグッと口をつぐんだが、

少しひるむと見せかけてまた強気に出た。


男「今までの俺だったらここで帰っていただろう。だがそう言う訳にはもう行かないんだ。俺はこの道のプロになると決めた。たとえ相手が誰だろうがその邪魔をする者には容赦せん!」


女の霊「…………は?あたし幽霊だよ?アンタ霊に向かってそんなクチ聞けんの?」


そこからが長かった。

幽霊は相手の男を持ち前の度胸と風貌で脅すが、

男は男で負けじと応戦し、

たとえ自分がどうされても良いと言う決死の覚悟で

微動だにせず、視線もまったく外さず、

自分のそれまでの信念をかけて

その覗きを達成しようとしている。

おそらく私が用を足し終えこのトイレを出るまで、

その時間がこの男の達成までの時間なんだ。

ふざけやがって。


幽霊もこんな男に会ったのは初めてだ

と言わんばかりの少し驚いた表情を見せつつ、

自分のプライドと名誉をかけながらもさらに応戦し、

わざと怖い顔を作って見せたり

相手が絶対ひるむだろう怖いポーズを取って見せたりし、

とにかく男をその場から引き下がらせようと必死だった。

少なくともそう見えていた。

おそらく霊としての沽券に関わる問題だったのだろうか。

少しその霊の方を応援してしまった私がいる。

女性つながりで。


でも両者1歩も引き下がらなかったので

そのうち霊もあきらめ、

「台無しだ」とセリフを残してすぐ消えた。

でも霊ならもう少し他に方法がなかったのか?

と私は心の中で思ったが、

その心にまた語りかけるようにしてその霊は、

「そうなんでも他の霊と同じ強い力があると思ったら大間違いだよ」

と言った気がした。


そして何より怖いのは人間の欲望。

霊を見ても引き下がらないとは。


結局男は、私にトイレの流し用の水をぶっかけられて引き下がった。

「覗いてさーせん」と小さく呟きながら。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=jBbStUD55Go

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トイレでのハプニング 天川裕司 @tenkawayuji

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