都営地下鉄 02
「自分の友人のコネで入社したのにその友人に自分の仕事を全部押し付けていたってことですか」
「そうよ、普通逆じゃない? 幸いにして堀さんはお仕事できるからなんとかなってるけど」
「堀さんはだいぶ岡部さんの件について気にされているようですね」
「通り魔でしょう。警察の人にも容疑者っていうの? 防犯カメラの写真を見せられて心当たり無いかって聞かれたけど、全然見たことない女だったし」
「女性なんですか」
「スカート履いてボブカットだったし、あれは女よね。岡部さん、どっかよそでも恨まれてたんじゃないかしら」
得意先に行くという占部婦人を次の駅で改札の外まで見送って康平はコーラを買った。改札を再び通る前にコーラの蓋を開けている。
「疲れましたねーぎんちゃん」
そう言うと康平はリュックの隙間から指先を少し入れて俺に触ろうとしたので、もちろん、サービスで鼻先で触ってやった。満足してスマホを取り出して電話をかけ始めた。疲れているのか、時々コーラを口にしている。
あんな毒の波状攻撃に晒されてたもんな。占部婦人は一体誰の友達なのだろうか、と彼女の言った言葉を反芻しているとようやく反対方面行の地下鉄が来た。誰かと会う約束ができたらしい康平が通話を終えた。
乗り換えた後も地下鉄の中は空いていた。康平も座席に座り俺の入ったリュックを膝に載せた。そのまま資料に目を通し始める。そんなわけでインターネットのニュースページを印刷した物が俺の目の前にあった。
【若い女性路上で見つかる】
きょう午後11時前、品川区の路上で「女性が倒れている」と近くに住む人から消防に通報がありました。駆けつけた消防職員により女性は病院へ運ばれましたが、死亡が確認されました。
警察によりますと、10~30歳代の女性とみられ、細い路地にうつ伏せで横たわっていました。女性には刺傷があり、死後数時間が経過していました。身長は1メートル60ほどで、ピンク色の上衣、白いスカートを着用していました。
警察は、身元の特定を進めるとともに、司法解剖して死因を調べる方針です。
【殺人事件の可能性も】
今月2日、品川区路上で発見された女性は近くに住む会社員、岡部 梨緒さん(24)と判明しました。
警察は付近の防犯カメラを調べるなどして、詳しいいきさつを調べています。
【女性会社員殺人事件、逃げた女のゆくえを捜査】
今月2日、品川区路上で女性が刺殺された事件で、警察は現場付近から立ち去った女のゆくえを探しています。
警察によりますと、付近の防犯カメラには女性の発見された付近から立ち去る黒い服を着てマスクを着けた肩までの髪の女が写っており、警察はこの女がなんらかの事情を知っている可能性があるとみて捜査しています。
最近の防犯カメラはカラーなのか、と感心していたら右側から康平のスマホが出てきて連絡先からショートメッセージを開いた。
相手は品川区を管轄している鮫島警察署に勤める数少ない友人「竜ちゃん」だ。ちなみに警察署に勤める友人も勤めてない友人も全員合計しても少人数だ。俺は知っている。ただしバーに入り浸っているおかげで知り合いだけは康平の方が俺より多い。
――10月2日の殺人事件の黒い服の女、見つかった?
――心当たりあるの?
見つかってないのか。公開捜査もしてないということは、この女が犯人とは断定できてないんだろうな。そんなことを考えているうちに竹内氏のオフィスがある駅に着いた。資料一式がリュックのポケットに仕舞われ、康平が立ち上がる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます