婚約破棄公爵令嬢リルオードは最後に第二王子の寵愛を受ける.06

「ここは、誰かに復讐したいが迷い込む庭」

「復讐?」

「したいでしょ、クラリッサ・エングルフィールド王太子妃に」

「なん──」


 で、それを知っているのでしょう。

 そういう間もなく、シッスルと名乗る少女は続けます。


「クラリッサ・ウェントワースの言葉、ぜひお聞きくださいませ!」


 脳裏に浮かぶのは三年前のクララの裏切り。

 まるで心が読めるかのように、シッスルはあの日の彼女と同じように手を広げ、嬉しそうに言います。


「アルフレッド第一王太子陛下と婚約をするのは、あたくし、クラリッサでございますわ」

「昨晩、陛下がそう決めてくださったのです。……あたくしが、そこのリルオード・イングラム公爵嬢から受け続けた、いじめの日々。その告発を聞いてくださってから」

「あら、リルオード。今夜のパーティなどとっくに終わりましたよ? 言いがかりはおよしになって」

「リルお姉ちゃん。待ってよお、リルお姉ちゃん。」


「まって!」


 気がつくとわたくしは叫んでいました。


「復讐なんて……意味ないよ……」

「そう?」


 シッスルはにこりと笑いました。


「じゃあ、このままならず者の所に返してあげる。あーあ。もったいない。せっかく最後まで取っておいた純潔も、あげちゃうのね、知らないおじさん達に」

「それは嫌!」


 わたくしはシッスルの漆黒のワンピースに縋ります。


「嫌です、そんなのはぜったいに嫌!」

「ふふ。そうでしょ。嫌でしょ。ぜんぶ、ぜーんぶクラリッサが悪いんだよ? それに、復讐はね、悪いことばかりじゃないんだよ」

「え?」

「貴女はこれから幸せになる。この国の、誰よりも幸せになる。いわば最高のご馳走よ。復讐は、その前の前菜オードブルだよ。美味しい美味しい、ね? ──ただし」


 そう言うと、シッスルはわたくしの手を払って後ろを向きました。


「対価は頂くよ」

「対価?」


 わたくしに、何か払えるものなど、残っていたでしょうか。

 そう思ってきょとんとしていると。


『それよりほら、いつもの歌声、聞かせておくれよ。あの声が、好きなんだ──』


「ふむふむ。かあ。いいね。それをいただくよ」


 そして、わたくしに近付いて、おでこに人差し指を当てました。


「さ、もういいよ。元の世界へおかえりなさい。わたしの愛しい復讐の子よ」


 とん。


「あ」


 そう言ってそのままわたくしをアザミの花の上に押し倒しました。

 意識が暗くなります。


「覚えておいて。復讐は幸せになるための前菜オードブル。……ね、忘れないで。わたしはシッスル。貴女の味方──」

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