【第二章】

婚約破棄公爵令嬢リルオードは最後に第二王子の寵愛を受ける.01

「イングラム公爵家子女、リルオード・イングラム! 君との婚約の破棄を、ここに宣言する!」


 アルフレッド・エングルフィールド王太子の唐突な発表を聞いたパーティ真っ只中の人々は、どよめきました。


「陛下は何をおっしゃっておる?」

「リルオードって……あのイングラム家の?」

「婚約の破棄……ってことは、やっぱりイングラム公爵家の没落も時間の問題か……」


 ひそひそ。

 ひそひそ。

 周囲からの温度の無い尖ったことばが、容赦なくわたくしを貫きます。


「あの……陛下……? おっしゃっている意味が……」


 気が遠くなりそうになる意識をなんとかつなぎ止めながら、かろうじて絞り出したわたくしの言葉。

 けれどそれは、陛下のお耳に入りさえしませんでした。


「いいや! 君の声も、言葉も! もはや聞きたくもない!」

「え……」


 どうして?

 どうしてそんなこと仰るの?


 あんなに、好きって言ってくれたじゃないですか。

 たしかに公爵家の栄光は過去のもの。

 最早斜陽の存在。

 でも。


 何を言っている。

 金の話など。

 気にしない。

 気にしないさ。

 それよりほら、いつもの歌声、聞かせてくれ。

 あの声が、好きなんだ──


 ……そう言って笑ってらっしゃった。

 笑ってらっしゃったじゃないですか。

 笑って……


「あたくしが代わりにご説明いたしますわ」


 びくん。

 きんきん甲高いその声は、わたくしの体は否応なしに強ばらせます。


「このウェントワース公爵家子女、クラリッサ・ウェントワースの言葉、ぜひお聞きくださいませ」


 クラリッサ・ウェントワース。

 ひとつ年下十七歳の、ウェントワース家の天才子女。

 可愛いはずだった、妹同然のクララ。

 けれど今は、憎くて憎くてたまりません。

 わたくしの人生は、クララに踏みにじられ続ける、地獄そのものでした。

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