大好きなお兄様を守れなかったバリキャリウーマンの私が幼女に転生したので、次は絶対に大好きなお兄様を守り切ります!!.07

「おにいちゃん」

「なんだい、アリッサ」

「きょうはピクニックにいきましょ」


 ごめん、今日は仕事が。

 レイモンドお兄ちゃんはそう言いかけたけど、その言葉を飲み込んでくれた。


「行こうか」


 そう言って、私のちっちゃな手を繋いでくれた。


 ……


 ファーンズワース家は広い。

 爵位は伯爵だけど、王室よりも広そうな庭がある。

 辺り一面に紫のアザミが咲いていて、私は──というより私の中のアリッサが──とてもとても、それはもう大好きなのだ。

 そんな大好きなお庭に、同じく大好きなお兄ちゃんといる。


「いつもの、やって?」

「ああ、いいとも。おいで」


 きゃん!

 私は大好きなお兄ちゃんのももに後頭部を埋めて、膝枕──

 お兄ちゃんが見つめてる。

 私の事を、見つめてる。

 深い海の色した瞳で。


「あーあー、ほんじつはせいてんなり、ほんじつはせいてんなり」

「はは、なんだい、それ」

「ふふ、わたしの元気の出るおまじない」


 なんて、なんて幸せなんだろう。

 こんな瞬間を、何度夢に見ただろう。


 お兄ちゃん。

 お兄ちゃん。

 これからもずっと守ってあげ──


 ふと、気配を感じて、お兄ちゃんの目から視線をずらした。

 アザミの咲き誇る庭の片隅で、踊っている十二歳くらいの女の子が、視界の端に映ったのだ。

 真っ黒のワンピース。

 天気がいいから、その服に光が当たると深い紫色に見える。

 肩までのセミロングの黒髪。

 艶があって、ワンピースと同じく濃い紫色に見える。

 そして頭には、大きめの山吹色のリボン。

 おおよそこの家の人間ではなさそうな、その女の子が。

 ……バレエを、踊っている。

 綺麗だ、と思った。

 お友達になりたい、なぜかそう思った。

 そう。

 深い紫の色を纏ったその子は、まるで、まるで。


あざみシッスル


 ぴたり。

 その子は手を上に伸ばしたまま、止まった。

 そして踊るのを止め、つかつかとこちらに歩いてきた。


 おにいちゃん、おにいちゃん。


 そう呼ぼうとするが、声が出ないし、お兄ちゃんにはどうやら近づいてくるその子が見えていないよう。

 私にあと一歩の所で、止まった。

 そして、スカートを持ち上げて、膝を曲げて仰々しくお辞儀をした。


「直接会うのは、はじめましてだね。わたしの名前はアザミシッスル。花言葉は復讐。ようこそ、わたしの報復の庭へ」


 そのまま膝立ちになり、私の小さな左手を取った。


「復讐、したくなったでしょ」

「……したくなんかないよ……? わたし、いま、しあわせだもん」

「強がっちゃって。ほんとは辛くて仕方ない癖に……まあ、いいや。今は復讐の実はまだ青いみたいね。またおいで。……覚えておいでなさいな? 復讐は美味しい前菜オードブル。貴女が幸せになるための、美味しい美味しい、ごちそうだよ」


 そして、私の手の甲にキスをした。

 ちくり。

 赤い血がぷっくりと滲んだ。


 ……


「──リッサ、アリッサ」

「ん……」

「寝ちゃってたね、お部屋に戻ろうか」


 そう言うと、お兄ちゃんは私の手を引いた。

 左手の甲には血が、滲んだまま。

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