お世話してっ!!〜私生活のお世話として偽装彼氏を命じられた件について〜

キロネックス

第1話 バイト探し

「ほんと、良いバイトないかな、時給高くて楽なやつ」


「そんな上手い話が世の中存在するわけがないんだよ」


放課後の教室で俺、音夜 豹舞(おとや ひょうま)は悟りを開いていた。


お金が足りないから何かバイトをしないかと友人の啓太と話していたのだが、良い感じのバイトが見つからず諦めて貧困生活を送ろうかと現実逃避し始めた所だ。


「豹舞!時給5000円のバイトあった!俺これにするわ!!」


「は?マジで?」


啓太が興奮した様子で俺にスマホを向けてきた。


確かに時給5000円、しかもボーナスあり、賄いあり、他のサービス、と書いてある。


仕事内容は動物の世話。


怪しさ満点だ。


「絶対やばい仕事だって、啓太はマジでやろうとしてんの?」


「いや、本当は怖いからやらん、時給5000円とか絶対詐欺でしょ」


「流石にやらんか」


啓太のことだから、時給だけ見て決めかねないと思っていたのだがいくらなんでも怪しすぎたらしい。


この詐欺師、いくらなんでも値段設定下手くそすぎやしないだろうか?


誰が騙されるん?こんなの?


「ピーンポーンパーンポーン、施錠の時間になりました、校舎に残っている生徒は速やかに教室棟から出てーーー」


下校を促すチャイムがなった。


ハッとして窓を見ると、太陽が空を赤く染めている。


「げ、もうこんな時間かよ」


「そ〜だな、じゃあ、帰っか」


「おう」


いつまでも校舎に残って、生徒指導の先生に叱られたくないので俺たちは帰路に着いた。


ーーーー


「ただいま〜、って言っても返ってくるわけないか」


俺は玄関先でそう独り言を言っていた。


両親は俺がとある事情で死にかけた中学生の時に離婚、親権は父親に渡ったらしくこのアパートの家賃と学費払ってくれている。


父親とは別居しているので、食費とかその他諸々は全て自分で稼がなければならないが、衣食住の住を与えて貰えてるだけ感謝するしかない。


「マジで次のバイト見つけんとなぁ」


というのも、今やっている短期バイトの雇用期間があと数十日で終わってしまうのだ。


時給の良い短期バイトを見つけては掛け持ちして、放課後バイト詰めだった時期があったので貯金は多少ある。


だからと言って、バイトを辞めたらすぐまずい状況になるので次のバイトを探さなければならない。


「時給5000円、ねぇ………」


啓太の見つけたバイトが俺の頭の中をよぎった。


どう考えても詐欺なんだよな〜、でも最終手段の1つとして考えてはおくか。


万が一、億が一にでも詐欺じゃなかったとしたら、我が家の財政はかなり回復する。


99%詐欺だろうから自分から進んでやる事は絶対にあり得ないけど。


「はぁ、今日バイトないし早く寝よ」


そう呟いた後、爆速で風呂に入ってベッドインした。


ーーーー


「豹舞少し若返った?」


「誰が普段老け顔だボケ」


「そこまでは言ってないだろ〜」


「おはよ、音夜君」


「あ、おはよう、猫壱さん」


朝の教室で啓太と冗談を言い合っていると、俺の隣の席の女子に挨拶された。


「やっぱ、光と闇……」


「そりゃな、俺は片親の貧乏高校生、かたや社長の娘だもん」


そう、この隣にいるヤツ、猫壱凛桜(ねこい りお)はゴリゴリの金持ちだ。


ヤツの父親は様々なサイトを運営してる会社の社長、母親はメガバンクの重役、エリート一家だ。


俺とは住む世界が違う。


それなのに有名私立高とかじゃなくて一般公立校に居るのかは謎だ。


「はぁ、あんな人と付き合えたらどれだけ幸せな事だろうか……」


「絶対一般庶民なんか眼中にない」


現実的に見て付き合う事は不可能だが、啓太がそう言ってしまうのも無理はない。


ヤツ、凛桜は地毛が茶髪でロングヘアー、猫目、それでいて顔も可愛い、頭も良い。


その代償に胸が失われている様だが、それ以外は大体完璧だ。


「凛桜さんが俺に……なんか虚しくなってくるから考えるのやめるわ」


「そうしろそうしろ、実現不可能な現実を追い求める事ほど虚しいものは無いぞ」


「何の話してるのかしら?」


俺が変な妄想を始めようとしていた啓太を沈めていると、横から凛桜が話しかけてきた。


「現実を見てただけ」


「?」


凛桜さんは不思議そうな顔をしているが、啓太が凛桜さんとあんな事やこんな事をしてる想像をしていたのを辞めさせていたというのもアレなのでめちゃめちゃ濁して伝えてた。


「申し訳ないのだけれども、今日だけ古典と日本史と論理国語と英語と数学の教科書を見せてもらえないかしら?」


「いいけど、それ全教科忘れてるじゃん」


「時間割を見間違えてしまったの」


そう、こいつは致命的なレベルで物忘れが酷い。


俺が”大体”完璧と言った理由がこれだ。


教科書は当然の様に毎日忘れてくる。


3教科持って来てれば良い方だ。


そして授業中日当たりが良くなると寝るが当たり前。


授業中に凛桜が指されると、代打で俺に不幸が降りかかってくるから辞めてほしいものだ。


先生も凛桜がテストの成績が良いからという理由であまり気にしないので、俺が凛桜の隣の席の限りは代打で刺され続ける事だろう。


「猫壱さんの隣の席ずっりーな」


ちょうど席のことを考えていると、前の席の奴が小声で話かけてきた。


「毎回授業で指されて、訳分からん問題解かされたりするこっちの身にもなれ」


「でもよぉ、猫壱さんの寝顔見れるじゃねぇかよ、隣の席の奴の特権じゃねぇか」


凛桜は寝る時、直射日光を避けるために内側を向いて寝ている。


なので隣の席の俺はいつも凛桜の寝顔が見えるのだ。


ちなみに寝顔はめちゃめちゃ可愛い。


まんま日向ぼっこしてる猫だ。


「どんな顔してんだ?教えてくれよ」


「はいはい、そろそろ授業始まるから前向いて〜」


「逃げるなよぅ」


何故そこまでして人の寝顔情報を聞きたがるのか。


見たいなら授業中に振り向けばいくらでも見れるのに。


しかし意地でも振り向かない前の奴。


俺には理解出来ない何かがあるのだろうと感じ、その疑問を口にするのはやめておいた。


後書き


カクヨム甲子園が始まったので、新作を書いてみました!


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