拝啓 忘れられないあなたへ
たなかたんそ
第1話 便箋
かわいらしいピンクのお手紙セット、空と白い鳥が特徴の便箋…
柄にもなく街の小さな文房具屋さんに寄った。
「大人っぽい便箋、ないかな」
そんなことを考えながら便箋コーナーの棚を見ていると、
シンプルな茶色の便箋が目に留まった。
◇◇◇
引っ越しを来週に控えた我が家はダンボールだらけ。
テーブルの上に、買ったばかりの茶色の便箋を1枚広げる。
『拝啓 鈴木 公平 様』
最後に会った時からもう7、8年経っただろうか。
それでもまだあの人のフルネームを漢字で書くことができる自分に
嫌気がこみ上げながらも、
「漢字、簡単だからね」
茶色の便箋を前に独り言。
◇◇◇
あなたと出会ったのは私がまだ19歳だった頃だっけ?
あなたは私の6個上だったから25歳だったのかな。
24歳になったら結婚しよう。
って、あなた言ったよね。
もう私29歳になったよ。
結婚願望強かったけど、結婚できたの?
子どもいたりするのかな。
私、あなたに別れようって言った時、
夢も目標もなくて、一人で生きていく力もないような女があなたにはお似合いだと思った。
思ったていうか、思うようにした。
本当は別れたくなかったし、大好きだった。
結構あなたのこと引きずったんだよ。
でもね、心のどこかで気づいてた。
こういうタイプの男とは長続きしない、自分がどんどんダメになっていくだけだって。
我ながら良い判断できたと思ってる。
◇◇◇
1枚目の便箋が終わった。
2枚目を袋から出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます