虹色スペクトルバイブス

香澄すばる

序章

目に飛び込んだのは

 と出会ったのは、麗らかな春の日だった。

 私、青桐初音が福岡から関東に引っ越しした時のこと。運ばれた荷物の整理を終え、私はう〜んと腕を伸ばしていた。

「終わった〜」

重い箱の中身を取り出す作業から解放されたのである。ずっと家にいたから、何か動きたい、いわゆる気分転換だった。今日一日籠るのは退屈に等しい。

 一息吐く私に、お父さんが提案する。

「初音。ここらへん散歩するのはどうかな?」

「散歩?」

「うん、ここは面白い所だし前の所より便利だよ」

 確かにその意見は正しい。前は福岡のかなり自然の多いエリアに住んでいた。家から最寄駅は20分ぐらいかかり、ショッピングモールは車移動が楽な環境だった。詰まる所、車がないと不便につく。

 でも、ここ奏海市はとても都会そのもので、何もかも違っていた。

「そうだね」

「初音の好きな書店やCDショップも徒歩5分の区域にあるよ」

「本当!?」

「うん」

 私は目を輝かせる。書店やCDショップは、前述のショッピングモールの中に入っており、思い立ったら行ける所ではなかった。そこが近くにあるなんて。

 なんて嬉しいことなのだろうか。

「ありがとうお父さん!丁度欲しい本があったから行ってくるね!」

「うん、遅くならないようにね。地図送るね」

 お父さんから書店への地図のリンクを貰い、私は財布を持って玄関に向かう。

「ありがとう。分かった、行ってきます」

 そう告げて、靴を履いて外に飛び出した。外は、新鮮な世界そのもので住宅が多い。空はキャンパスで描いたように青く澄んでいる。

 私はリンクを開き、その指示通りに歩いた。冒険みたいで楽しい。

「もうそろそろ近づいて来た…っ!」

 歩いて5分、いよいよマップの丸がここと示しており、顔を上げた。目の前に、ガラス越しに映る本棚とカラフルなポップ、『あさき書店』の看板が入る。『あさき書店』は、リンク先に出ていた書店名と一緒で、ここだと確信した。

「……〜〜!」

 私は、口角が上がった。歩いてすぐに書店があって、いつでも通える。その事実に高揚が止まらない。嬉しい叫びを堪えて、私は書店に入る。

_数十分後、私は一冊の漫画を買った。

『ultriseウルトライズ』2巻買えたから嬉しいなっ」

ultriseウルトライズ』は、少年ライカがダンサーを目指す話だ。サクセスストーリーだけでなく、王道バトルの文脈も入っていて熱い。『この新連載やばい、天才』とSNSの呟きが発端となり、一巻が発売されるやすぐに売り切れ。二巻も同様で、前の所では買えずにいた。

「内容気になるなあ…家まで待てないよ」

家に戻る途中、ソワソワしてしまう。私は待ちきれなくて、紙袋から取り出した。はっきりした色合いが特徴的な表紙が現れる。私は、表紙を捲ろうとした時だった。

「〜〜〜♫」

向こうから音楽が少し聞こえる。盛り上がる曲調で、身体がビビッと揺れる感じだ。どんな感じなのだろうか。私の中に好奇心が芽生える。

(気になる)

私は、音の方向へ足を向けた。黒い外観の建物から発されている。『ライブハウス wonder party』とドアにかけられた看板があった。ライブハウスなのか、未知の場所。

「…ちょっと覗いてみようかな?」

好奇心に負けて、ドアノブに手をかけた。まるで、ウサギを辿って探すアリスのようだ。私は、そのまま進む。

扉の先には、煌びやかな世界が広がっていた。


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