スカートを揺らす

岡島 彩夜斗

第1話

 

その日私は憂鬱であった。


 

眉上に出来た大きくて赤い吹き出物のせいであろうか。いや、提出期限はとっくに過ぎているのに終わっていない課題のせいであろうか。教科書で指を切ったせいかもしれない。これらが理由であるような気がするのだが、そうでは無いような気もする。とにかくなんとも言えぬ、不快感と言えようか、怒りと言えようか、さみしさとも言えようか。憂鬱と呼ぶのが正解な気がした。

 

 

その憂鬱は例えるならばそうだな、クラス内でペアを作らねばならないのに仲の良い子が学校を休んでいた、いやもっとひどい。昼食でひじきの煮物を食べたのに鏡を見れていないという誰にも言えぬ焦り。…これは言い過ぎたかもしれない。やはり形容し難いのだと再度思う。



一年前のクラスTシャツに、中学校の体操ズボン。この格好も、憂鬱の一端を担っているのだと思う。しかし、分かってはいても直ぐには動けないのが土曜日の八時半である。


 

リビングでスマホを触っていようにも、おそらく自分にはなんの役にも立たないであろう情報を垂れ流すように眺めるだけなのだ。売れていない芸能人の不倫だの、政治家の裏金だの。余計に憂鬱が酷くなったような気さえしてくる。



 やれ、この子はせっかくの休みなのにだらだらと、と母の小言が刺さる。ならば手に持っているその掃除機でこの私を包み込み、深いところで根を張っているモヤを吸い込んではくれないかと言いたくもなる。


 

 外に出ようと誘ってくれる友人は残念だがいない。誘えば来てくれるのだろうが、そういう気分でもなかった。


 

 仕方がないので逃げるように部屋に転がり込む。しばらくベッドの上で考えた。もう一度寝てしまおうかとも考えた。一瞬は名案だと思ったのだが、いざ寝ようと意気込むと寝られないのだ。仕方がない。


 

 外に出よう。

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スカートを揺らす 岡島 彩夜斗 @Haku0907

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