第33話 仏の顔も
短めです
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「うーん、どうしたもんか」
帰宅後、電子のドラムセットに身を埋めながら、俺はスタジオで美玲たちと交わした会話を思い出していた。
前任のドラマー——確かメイカさんとやらだったか——が元々広報を担当していたけど、脱退してしまった今、以前ほどバンドのPR活動ができないでいる。
なんでもいいから二人の力になれねえかなあ……。
友達も知り合いもいない、ロクなコネもない俺にできることなんて限られてる……というか、殆ど無いに等しいだろうが、だとしてもどうにかして二人の活動に貢献したい。
それが美玲へのせめてもの恩返しになるだろうから。
「問題は俺にできることは何かってことなんだよな……」
趣味も特技もドラムくらいしか誇れるものないし。
——逆に言えば、ドラムであれば人並み以上にできる自信はあるけど。
これ言うと傲慢だと言われるだろうけど、この前の学生ライブを見て確信した。
そこらの高校生よりは上手くドラムが叩けることを。
……まあ、人より練習しまくってるから、それこそ当たり前といえば当たり前だけど。
ゴールデンウィークも家にいる時はずっとドラム叩いてたし。
皆んなが部活やどこか遊びに出かけたりで青春を謳歌している間、一人家に引きこもってずーっと練習してたんだから、むしろ叩けなきゃヤバいというものだ。
「自分で言うのもなんだが、虚しい学生生活だな」
伊達にぼっち生活を数年続けてはないってことか。
いやまあ、決して誇るべきことではないどころか、むしろ恥ずべきことなのだが。
だとしても、ドラムの腕前だけは誇れると胸を張って言える。
——でもドラムで何をすれば、二人の手助けができる……?
「……あれ、やってみるか」
ぶっちゃけ徒労に終わる可能性の方が断然高いけど、やるだけやってみよう。
そういうわけで早速、俺は時雨さんに連絡を取ることにした。
* * *
とりあえず週末に予約を取れた。
本当はもうちょっと早く行動に移したかったけど、勉強時間を確保できたと思うことにしよう。
それよりもどうにかしなきゃならないのは——、
「ねえ、陽人くん。今、手に持ってるのは何かな?」
「えっと、栄養ゼリーっす」
隣の席でにっこりと笑みを浮かべる美玲だ。
昼休みの教室。
昼食を確保しに購買に行くのも面倒だったので、スマホ片手に持参した栄養ゼリーで食事を済ませようとしたら、笑顔の美玲に問い詰められた。
一見、いつもと変わらないように思えるが、目が一切笑っていない。
「それって今日のお昼ご飯?」
「一応、昼飯っす」
「……もう一つ質問します。陽人くんは、今朝、何を食べてきましたか?」
「えーと……その、エナドリ一本です」
答えた途端、美玲の微笑みに凄みが増した。
そこで確信する。
——あ、これ踏んだな、地雷を。
美玲が敬語になる時は、大抵何かしらにガチで怒っている。
今回の場合は、俺の不摂生な食生活に対してだろう。
しくったな……正直に答えないで誤魔化せば良かった。
「陽人くん。前にエナドリは食事じゃないよって言ったよね?」
「あ……はい、言われました」
「なのに、まだ、ご飯代わりにエナドリで済まそうとしてるんだ」
「カロリーとカフェイン両方を手軽に且つ一気に摂れるので、つい……」
言い訳を述べれば、美玲はもう一度にこりと笑みを浮かべてみせた。
わざとらしく見せつけるように。
あの、笑顔の圧が本気で怖いんですけど……!
けれど、俺がクソみたいな食生活を送っているせいでこうなっているから、強く言い返すこともできない。
蛇に睨まれた蛙みたく体を強張らせていれば、美玲は笑顔を崩すことなく言うのだった。
「陽人くん。放課後、スーパー集合ね」
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