あやかしミッション!

律斗

第1話 あやかしのパートナー?

「期限は3日間。その間に、あやかしのパートナーを見つけてください」

 入学式の後、クラスメイト全員が名前だけの自己紹介を終えると、スーツ姿に黒ぶち眼鏡の男性が、まるで委員会決めでもするみたいに言った。

 1年1組の担任、黒川先生だ。


 入学したのは悪祓いが学べる中学校で、日本じゃ数校しかないんだとか。

 普通とは違うんだろうなぁって、思ってはいたけど、まだ友達もできてないのに、たった3日であやかしのパートナー?

 そんなの、むちゃくちゃすぎる!

 突っ込みたくなったけど、文句を言うクラスメイトは誰もいない。

「今後、訓練や模擬戦などの授業は、パートナーと一緒に受けてもらいます。自分で見つけられなければ、多少、成績に影響しますが、こちらで用意しますので安心してください」

 成績も気になるけど、一緒に授業を受けるパートナだし、できれば自分で探したいよね。

「あやかしの中には、人間に擬態できる者もいますが、3日間は、能力の判断がつきやすいように、本来の姿に近い形でいてくれるでしょう。自分と合いそうなあやかしを見つけられたら、ぜひ声をかけてみてください」

 そうは言っても、見ず知らずのあやかしに声をかけるなんて、ハードル高すぎなんだけど……。

 初日だからか、先生相手に意見を言う子はいないみたい。

 ちなみに私も、いろいろ思うことはあるけど、ここで発言する勇気はない。

「私たち人間はとても弱い。あやかしの力を借りずして、悪霊に立ち向かうことは困難です。あやかしである彼らを尊重し、力を貸してくれる相手を見つけましょう」


 その後、黒川先生は、あやかしがいる場所や、時間帯なんかをざっと説明してくれた。

「詳しいことは配布のタブレットで確認してください。あやかしの性質や相性など、詳しい説明は明日の授業でも行う予定です。以上、他になにかわからないことや困ったことがあれば、職員室までくるように」

 話を切り上げて、黒川先生が教室を出ていく。

 ……わからないことだらけなんだけど。

 とりあえず、この学校にどんなあやかしがいるのか調べないと。

 明日、授業でなにかしら教えてくれるみたいだし、人間の友達作りが先?

 そんなことを考えていると、近くに座っていた子が、大きな音を立てて勢いよくイスから立ち上がった。

 直後、まるで先生の後を追うみたいに、教室から飛び出していく。

 びっくりしたぁ……。

「くっ……」

「交渉は、早いもの勝ちだからな……!」

 え、なになに?

 他にも何人かの生徒が、いっせいに教室をあとにする。

 残されたのは、私含め数人……。

 えっと……どういうこと?

「早ければいいってものでもないだろ」

 前髪をヘアピンでとめた男の子が、呆れたように呟く。

「まあ、目当てのあやかしが、すでに契約済みなんてことになっても困るし、急ぐ気持ちもわかるけどね」

 髪をサイドにまとめた女の子が、タブレットを操作しながら、急いで教室を出て行った子たちをフォローする。

 あの子たち、それで急いでたってわけね。

「あやかしだってバカじゃない。よく知りもしないのに、声かけてくるようなやつ、選ぶかって話」

「慎重になりすぎて遅すぎても、後回しにされたって思われかねないよ」

 ヘアピンの男の子の言い分も、サイド髪の女の子の言い分も、納得できそうだ。

「ようするに、急いだほうがいいけど、事前準備を怠ってはダメ、ってことだね~」

 2人の意見をまとめるみたいに、おっとりした雰囲気の男の子が言った。

 おっとりして見えるけど、冷静だし、こういう子、クラス代表に向いてそうだな。

 事前準備って言われても、タブレットであやかしの情報を集めるくらいしかできなそうだけど。

 学校の敷地内にある森や洋館には、たくさんのあやかしが暮らしているみたい。

 希少性の高いあやかしとパートナーになりたい子は、やっぱり、早いうちに声をかけないとって思ってるのかな。

「はぁ……」

 なんだか頭がいっぱいで、ついため息を漏らしてしまう。

「金星(きんぼし)さん、大丈夫?」

 そう隣から声をかけてくれたのは、おかっぱ頭が印象的な女の子。

 家に飾ってある日本人形を思い出した私は、思わず頬が緩んだ。

「う、うん。大丈夫。まだ事情がよく飲み込めてないっていうか、こんないきなり、あやかしとパートナーなるなんて、思ってなかったから……」

 そう告げると、なぜかみんなの視線がいっせいに、私に注がれた。

 といっても、残っているのは数人……7、8人くらいだけど。

「いや、それは入学前からわかってるだろ」

 さっき呆れてたヘアピンの男の子が、今度はありえないといった様子で私を見ていた。

「え、わかってたの?」

「受験のときに言われてる。学校では、あやかしと組んで実践的な訓練を行うから、あやかしとコンタクトが取れることが絶対条件だってな」

「受験……? えっと……」

 そもそも、そんなの受けてないんだけど。

 入学したのは親の勧めだし、私は知らないけど、もし受験みたいなものがあったとするなら、書類選考くらい?

「金星さんって、金星神社の子……だよね?」

 さっき声をかけてくれたおかっぱ頭の子が、確かめるみたいに尋ねる。

「う、うん。そうだけど。そういえば名前、もう覚えてくれたんだ……?」

 クラスは2クラスで、1クラス20人しかいないけど、さっき自己紹介されたばかり。

 全員の名前は、まだ把握できていない。

「悪祓いで有名な金星神社と同じ苗字だったから、印象的で……もしかしてって思ってたんだけど」

 うちの神社、この子の言う通り、悪祓いでわりと名が知れてるみたいなんだよね。

 この学校は、悪祓いを学べる学校だし、そういうものに興味を持っている子たちなら、うちの神社を知っているのも当然かもしれない。

「……つまり、家が有名な悪祓いの神社だから、受験も推薦で突破して、何も知らないまま来たってことかよ」

 ヘアピンの男の子に言われて気づく。

 そっか、そういうことだったんだ。

「み、みんなは受験して……」

「あたり前だろ。入りたいのに落ちた子だって何人もいる。どんな気持ちで、受験突破してきてると思ってんだ」

 しまった。

 完全に怒らせちゃった……?

 中心になってしゃべっていたヘアピンの男の子だけじゃない。

 周りのみんなも、きっと同じ気持ちだろう。

 親の力を使って、ラクして入ってきたやつだって、思ったに違いない。

「推薦されたってことは、力があるんだろうし、金星の血を引いてるわけでしょ。それだけ素質があるんだよ。妬まない妬まない」

 なにも言えないでいる私にかわって、サイド髪の女の子が、重い空気を和ませてくれる。

「ね、妬んでるとかじゃ……!」

「むしろ、そういうとこから来てる子の方が、期待されてる分、厳しく見られることもあるかもしんないしね」

 それは……ちょっと困るけど。

「結局、あやかしとパートナーになることすら知らなかったみたいだし、なんの下調べもしないで来てるってことだろ」

 う……その通りすぎる……!

「悪祓いが学べるとか、寮生活とか、それくらいは聞いたけど」

「そんな軽い気持ちのやつに負けてたまるか。お前よりすげぇやつ、パートナーにしてやる!」

 ヘアピンの男の子は、そう言い残して教室から出て行ってしまう。

「あ……」

 どうしよう。

 入学初日だってのに、出だし最悪……!

「影山くんは、がんばり屋さんなんだよ。がんばってきたからこそ、ラク~に同じラインまで到達してる金星さんのことが、気になっちゃうだけじゃないかな~」

 おっとりした雰囲気の男の子が、そうフォローしてくれる。

 あの男の子、影山くんって言うんだ……。

「でも私……影山くんの言う通り、軽く考えてたかも……。ごめんなさい」

 残っていたみんなに頭をさげる。

「まあ、金星神社の子なら、推薦されるのも当然だろ」

「卒業後、金星神社でお世話になる子もいそうだしね」

「下調べはしてなくても、うちらより、悪祓いは身近なんじゃない?」

 私が有名な悪祓い神社の子だからか、みんな温かい言葉をかけてくれる。

 よかった……けど、家が悪祓いをしている神社ってだけで、私はなにもすごくないんだよね。

 たしかに悪祓いは身近だけど、私が祓ってるわけじゃない。

 変に期待されてるかもしれない分、しっかりしないと……。

 心の中でひっそり気合いを入れていると、

「金星さん。私、赤城マチ子っていうの。よろしくね」

 おかっぱ頭の子が、そう自己紹介してくれる。

「あ、金星ひかりです。こちらこそよろしくね。あの、赤城さんってたしか……」

「うん。同じ部屋だよね。マチ子って呼んで」

「私も、ひかりで……!」

 今日から寮生活。

 まだ荷ほどきはしていないけど、部屋に荷物が届いているのと、ルームメイトの名前は確認していた。

 優しそうな子で、一安心する。

「ひかりちゃんは、どんなあやかしをパートナーにしたい?」

「うーん、まだちょっと、決められないかな……」

 あやかしとパートナーになることも、さっき聞かされたばかりだし。

 ただ、そういうやり方があること自体は知っていた。

 うちの神社で働いている親戚の慧くんが、あやかしと一緒に悪祓いしてたはず……。

「マチ子ちゃんは、もう考えてるの?」

「私はね……」

 マチ子ちゃんが、タブレットを操作して私に見せてくれる。

 その画面に表示されていたのは――

「座敷わらし? かわいい……!」

 お人形みたいにかわいらしい和服の女の子だ。

 マチ子ちゃんと、ちょっと雰囲気が似ている。

「座敷わらしは、悪霊を弱体化させり、戦意を喪失させたりできる子が多いみたいなの。強い力で押さえつけるより、スムーズに祓えそうだと思って」

「味方になってくれたら、心強いね」

「でもレア度は星3つ。見つかっても、ちょっと気まぐれで難しいみたい。友好度は、星2だって」

 あやかしたちは、星の数でランクづけされてるってわけね。

「これって、レア度の星が少なくて、友好度の星が多いあやかしほど、パートナーにしやすいってこと?」

「うん、そうだと思う。この河童はレア度、星1。友好度は星5。見つけやすい上、すごく友好的だけど、戦闘意欲も戦闘力も低いみたい」

「うーん……。力を貸してくれるパートナーを探してるわけだし、戦ってくれる子じゃないとね……」

 とはいえ強いあやかしとの交渉は、たぶんそれだけ難しいんだろう。

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