襲撃

 緊急事態ということで急遽呼び出されたガシャドクロの特務小隊所属の戦闘要員3名。

 狐火のゴールド。

 散弾のグレイ。

 鉄壁のスカーレット。


 「暇だなぁ」

 西洋甲冑の兜のような形をした金属製の金色のマスクを被った小太りの男、発火の能力を持つ”狐火のゴールド”が指先に灯していた火を消して言った。

 灰色のマスクを被った細長い手をした長身の男の手に、空中を鳥の群れのように動いていたパチンコ玉の群れが集まる。

 「タバコ吸ってくる」

 散弾のグレイはそう言って部屋を出て行った。

 「ねえ、バイオレット。どうせなら、襲撃に来たところを返り討ちにした方が良かったんじゃない?」

 特務小隊の特攻隊長”鉄壁のスカーレット”はその小柄な体と同じ大きさと3倍以上の重さを持つ大盾を暇潰しに軽々と振り回しながら言った。

 「それで亡くなった人の穴埋めは誰がやるんですか?人手が足りないから手伝えと言われて、椅子に座ってずっと監視カメラの映像を見ることになったらどうするんですか?」

 「え、無理。学校の授業の時間ですら最後までじっとしてられないのにずっと座ってるなんて絶対無理」

 「そうでなくても、スカーレットさんみたいな戦闘要員は、人手が戻るまではこうやって万が一の事態に備えてずーっと待機する事になるんですよ、何日も何十日も」

 「え、無理。こんな狭い所でじっとしているなんて一日だって耐えられないのに」

 「今回は私が未然に防いだから朝まで我慢するだけで済んでいるんですよ、スカーレットさん」

 「はっ!さすがはバイオレット。しん……しん、何とかね」

 「深謀遠慮です」

 「そう、それ。グッジョブ!」

 「いえいえ、私は当然の仕事をしただけです」

 「あるいは、とんでもないへまをやらかしたのかもな」

 ”狐火のゴールド”が言った。

 「まだ分かってないんだろう?本当に襲撃が起きていたかどうかは」

 「だから皆さんがここに居るんじゃないですか。まだいつ襲撃がおかしくないんですから」

 私に言い返されたのが気に障ったのか気に入らなかったのか”狐火のゴールド”の顔が私の方を向いた。

 「内も外も普段の倍以上の人員が配置されているのに、何でわざわざそんな所へ襲撃を掛ける必要がある?」

 「それが分からないから皆さんはここに待機しているんでしょう?いつ何処で何が起きても対応できるように」

 そんな事も分からないのか、おまえは。といったら言い過ぎになるから言わないけど。でもまぁ、言わなくても言いたいことは分かるよね?さすがにそこまではバカじゃないでしょ?

 「お前のその御自慢の黒髪が二度と生えないようにしてやろうか?」

 「ゴールドさんの命の価値は私の髪と同程度なんですか?」

 「何だとこのガキ!」

 「はいストップストップー。落ち着きなよ、ゴールド。最初にバイオレットを揶揄からかったのはあんたでしょ?なのに何でそれで言い負かされてあんたがキレてんのよ?おかしくない?」

 重機関銃の徹甲弾にも耐えられる100キロを優に超える大盾を片手で振り上げてゴールドの頭を小突いているスカーレットさんも十分おかしいですけどね。

 どうなってんだ、万有引力。仕事しろ。

 

 警報が鳴ったのは夜中の2時14分。 

 仮眠室で寝ていた私は枕元に置いていた金属製のマスクを被ると、地下施設の警備指揮所へ向かった。

 「サリンを検出!総員化学防護服を着用せよ。繰り返す。サリンを検出!総員化学防護服を着用せよ」

 「16警備小隊はエリアCまで後退せよ!」

 「エリアD全隔壁閉鎖。施設内の気圧を負圧にします」

 「窒素ガスを放出。敵の動きが止まりました」

 「何だあれは?ロボットか?」

 西洋甲冑に似た白い人型ロボットが肩に担いでいた無反動砲を発射する姿が警備指揮所のモニターの一つに映っていた。

 『やあ、正義の味方をかたる諸君』

 人型ロボットの顔が監視カメラを向いて人の声を発した。

 『俺は悪人の井ノ原雄介いのはらゆうすけ。27歳。はじめまして』

 無反動砲で開いた隔壁の穴に仕掛けられたテルミットが隔壁を焼き切っていく。

 『楽しいな。諸君も楽しんでいるか?』

 人型ロボットの動きは中に人が入っているくらいに自然で、背後に合図を送ると木材を運び出すのに使われているキャタピラの運搬機の姿が監視カメラに映った。

 『すごいだろ?1トン爆弾だ』

 見た目は工場に設置しているガスタンクに似ていて全長はおよそ2メートル半。全幅は1メートルを超えている。

 『これをあと4つ持ってくるつもりだ。どうなるかな。どうなると思う?タイムリミットは……夜明けの4時間後にするか』

 あの人型ロボットの動きは中に人が入っていないと出来ない。それが爆弾に取り付けられているタイマーらしきものを操作している。

 『あ……悪い。間違って2時間にしちゃった。でもまぁいいか。死ぬのは俺じゃないし。ね』

 この施設は核攻撃に耐えられるように作られているが、あんなデカい爆弾が施設の中で爆発しても耐えられるかは分からない。確かなのは、その爆発の衝撃に耐えられる人間はいないということだ。

 「動員可能な全ての戦力を投入しろ!」

 警備指揮所のトップである司令官が声を張り上げた。

 「攻撃ヘリもですか?」

 「そうだ!攻撃に使えるものすべてだ!どんな手を使ってもこれ以上あんな物をこの中に入れるな!」

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