コンビニ

「お母さんの顔は覚えてないけど、お母さんの作った唐揚げの味、ぼくずっと覚えてる。」


ある昼下がり、その辺のコンビニで唐揚げ棒を昼食に買った照太は呟く。

その日は仕事で、4人目の幹部である土居風馬と共に腹を空かせて今に至る。


「そうか。お前は確か、親がどちらも他界しているんだったかね。顔は忘れても作った飯は覚えているとはなんとも人間らしいな。」


風馬はカサカサと音を鳴らしてコンビニの明太子おにぎりを開封する。照太も無言でからあげを口に運ぶ。


数分、互いの小さな咀嚼音と鳥の囀りだけその場に流れた。


今は3月の上旬だが、4月の中旬の桜が葉桜になりかけている時期に照太含む幹部5人はリアライトと共に豪華客船「ジュダルダン号」の護衛任務を控えている。世界一周ツアーで3ヶ月に渡る長期任務であり、今は貴重な平穏なのだ。


1年前の【世界同時ミュル大量発生事変】以来、互いの長同士仲が悪かったのがだいぶ修復出来たのか今じゃ共同任務なんていうのがザラにある。


照太は存在しない物質を大量に作り出し、分析不可能の化学兵器を相手にお見舞いするのが役目である。船は室内戦が多少なりとも見込めるため、逃げ場のない中で意味のわからない物質が充満するとでもなれば相手も嫌がるだろう。頭__彼岸は照太を中心として動けと命令をしたのだ。


それに対して風馬はどんな場所であろうが自由自在に地形を変幻される『土砂創作』を持つ。使いにくそうであるが全方位が海で囲まれている以上、風馬も今回の任務で重宝される人材である。


「ふーまくんは、お母さんとお父さん。家族についてなにかあるの?」


「…親父、酒に弱かった。」


「そっか。」


任務、怖いなぁ。

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