#3

 暗転した意識から目が醒めると、始めに眩しい白色光に目が眩んだ。しばらく紫のような、紺色のようなブラーと格闘し辺りを見回すと、とっくのとうに摘出は終わったらしく手術の道具などが置かれていた台は片付けられている。既に1本頭のネジを失った脳みそは、少し軽く思えた。


(なぁに、最初は緊張していたが大したことないじゃないか。)


これから先、「柔軟な発想」を得たらしい脳を使って何をしていこうか。一体何円程で買い取って貰えるのだろうか……などと下らぬ思索をしていると、私の意識が戻ったことに気がついた店員がこちらへと寄ってきた。


「お身体の調子は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫です。意外と摘出してもピンピンしてるんですね」

「そりゃぁそうですよ、そうでなければ技術として認めて貰えません」


確かにそうだ。一般化するような技術であれば、大抵安全ではあるんだろう。いくら新しい技術だとしてもだ。


「それでは最初の待合室の方にご案内致します。買取額はそちらの方でお伝えしますので」


そう、貼り付けた笑みで店員はここに来た時と同じように案内をした。


 眩しい手術室とは対照的に、薄暗い待合室へと戻ってきた。少し頭の重さが減ったからだろうか、少し前よりもすっきりとしているように見える。


「こちら、今回の買取価格です。」


コーティングされた机の上を滑り、領収書レシートが手元へと来る。そこに書かれていた金額は


「いち、じゅう、ひゃく、せん……!?」

「体の一部ですから、相応の値が付きますよ。」


7ケタ…百万を超える大金であった。これならば暫く食べていけるのではなかろうか?


「またのご来店、お待ちしております」


店を出たのは、外が暗くなる頃だった。使い道が、やりたいことが、以前の比では無く溢れてくる。


(きっとこれが柔らかい頭なのだ)


そうホクホクしつつ、私は帰路についた。

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