第8話【果耶の中】(夏梅果耶_参戦)

私、夏梅なつうめ果耶かやはキラキラしている。

それは肉体的にも、精神的にもだ。

キラキラしているということは、それだけチヤホヤされるということ。

自分がスクールカーストの最上位に位置しているのは自覚している。

もし、この高校でミスコンでも行われようものなら、グランプリを取るのは私だということも。

…でも、生まれつきキラキラしていたわけではない。

私は努力した。

メイクを覚え、空気を読む能力をつちかい、人と仲良くするためのノウハウをとことん学んだ。

毎日、美顔マッサージだって欠かさない。

…たまにサボってしまいたくなる日もあるけど、怠惰たいだに打ち勝つ自分でいたいから、頑張っている。

そうして、形成された今の地位ならば、誰からも受け入れられると思っていた。

だから、衝撃だった。

宍嶋しししまさん?だよね!ねね、私たちと放課後カラオケ行かない?」

「あんたは…、夏梅なつうめさん、どうしてあたしを?」

果耶かやでいいよ!どうしてって、そりゃ、宍嶋しししまさんみたいな"美人さん"と仲良くなれたら、どれだけいいかってさ!」

「…行かない」

「え?」

「人を容姿で判断しない方がいいと思う、多分…あたしたちは合わない。」

「容姿でって…、いや、私は…」

何も言い返せなかった。

実際、私は宍嶋しししまさんと友だちになりたかったというよりも、"美人"な宍嶋しししまさんを隣に置きたいという下心で彼女に話しかけたのだと、そのとき気づく。

果耶かや…ごめんね、上から目線で」

「…大丈夫」




その日の私は大丈夫ではなかった。

宍嶋しししまさんの蒼くんだ瞳は、私のぐちゃぐちゃで欺瞞ぎまんに満ちた心を全て見透みすかすかのように、私のことをじっととらえていた。

肉体的には兎も角、精神的に自分がキラキラしているだなんて、もう思えなかった。

私はなんのためにここまで努力してきたんだろう…。


…それにしたって……。

「もう!なんなのよ!ムカつく!!」

宍嶋しししま蕾来らいら!!

「あ、あれ?」

私の中に芽生えた感情は怒りのはずで…胸が苦しい。

なのに、何故だろう。

このこうようかんは一体、何…?

どこか気持ちよさを感じていた。

「そんな、私。…嘘でしょ」

正しかったから、ムカついた。

真逆だったから、憧れた。

宍嶋しししまさんの飾らない物言いに。

時間をかけて、この感覚を確かめて、その衝動に名前をつける。

これは…恋。




私、夏梅なつうめ果耶かやは以前にも増してキラキラしている。

私にはクラスメイトに好きな人がいるからだ。

その女の子の名前は宍嶋しししま蕾来らいらさん。

だから、もっとかわいくならなくちゃね。

この恋心が実ることはきっとないとわかっているけれど、私は彼女に近づきたい。

隣に置くのではなく、隣にいたい。


そんな彼女の隣の席には今、転校してきた男の子が座っている。

私は彼と宍嶋しししまさんが、スマホにお揃いのチャームをつけているということに気づいてしまった。





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