私の美容系兄チューバーは無限∞でした。

檻射舞|おりーぶ

❶ 再会と始まり


「………お腹空いた…」

「何も考えずに家出るんじゃなかった……はぁ」

私は小沼和純。十七の女子高生で、現在家出中だ。何故今に至るのかというと、家庭環境にある。

『和純っ!アンタなんか…!』

『痛っ!母さん……やめてっ!』

『オラァッ!ガキは大人しく死ねっ!』

『ちょっ…げはっ!』

『アンタもだけど、産まなきゃ良かったっ!目障り!今すぐ消えて!』

物心ついた時から両親は離婚し、私ともう一人は母についていった。そこで当時の母の彼氏が居候し始め、暴言暴力を受けるようになった。約十五年くらいだろうか。とにかく自我が無くなる寸前まで暴力や暴言を受けていた。そして中学二年のある日、私は一部の記憶を失ってしまった。そう…ずっと探してた存在の記憶を………。

「………お前、ちょっと」

「えっ?」

「いいから!早く!」

「痛いっ!止めて………」

やっぱり住む場所は実家の方が安全だろうか…。諦めの気持ちを持ちつつ住む場所に対して途方に暮れつつ道を歩いていたが、ある成人男性に声を掛けられた。サングラスに帽子、マスクを装着し、全身真っ黒な服装をしていた。彼はコソコソと小さな声で話し、私の腕を引いてある場所に連れられた。そこで彼は携帯を取り出しては、誰かに電話を掛けた。

『何だよ…?今ブリーチしてるところだったから良かったけどさ…』

「あー、俺俺。悪いね。実は……凄いやつとばったり会ったから連れてこようかなーって」

『…………凄いやつか……』

「妹で、女子高生っ!」

『まじか…う〜ん…女子高生ってこと自体危ないけど、妹か…よし、許そう。連れてきな』

「ありがとう!じゃっ!」

一分よりも短く通話は終わり、引き続き連行されていく。というか………妹って……この人に対しての面識はない…というか記憶がない。歩いて二十分、とある場所に着いた。ガラス貼りのドアの向こうには染髪の施術やブリーチの施術を受けていた人が座っていた。初めて見る光景なので、私はその向こうの景色にうっとりしていると、彼は私の背中を押して、中に入らせようとした。

「ほらっ!入れよ」

「嫌っ!やめて不審者っ!」

「俺はお前の兄だっ!」

「私に兄なんていないっ!嫌っ!」

「…………二人とも、何してんの?」

「「え」」

私達がサロン前で言い合いをしていると、中から大柄な男性がやってきた。手にはゴム手袋を装着しており、赤い染料が付着した使い捨てのコームを片手に持っていた。

「(さ……殺人鬼……え、怖)」

「詩喜……この子がさっき…」

「そ!俺の妹…可愛いだろっ!」

「だから違うって!」

「ん〜?とりあえず中で話聞くよ」

「ブリーチはもうすぐ、ワンカラーはあと少しで終わるから二人は休憩室でお茶でも飲んでてよ」

「俺ミルクティーね?」

「はいはい……」

私達はサロンの中へ入り、そこの休憩室へ通された。彼にはミルクティー、私にはレモンティーが注がれたグラスを渡し、私達はまた二人きりになった。

「はぁ……暑すぎだろ…」

「………」

「……早速だが本題に入るぞ」

そう言って彼は装着していたマスクやサングラス、帽子を外した。きめ細かい真っ白な肌に猫のように柔らかい髪、綺麗な瞳が……初めて見た彼の姿に驚いた。

「………どこかで見たことある……?」

「いや、見てるだろ………この姿」

「………」

「やっと終わった……で、何話してたの?」

「なんか……こいつ俺のこと忘れてるっぽくて」

「あー…あの動画、見せてあげたら?」

すると彼は携帯の動画アプリを開き、ある動画を私に見せてきた。それは美容系YouTuber男性の動画で、内容は彼の過去を語った動画だった。

『実は俺さ……家庭環境が酷くてね……母ちゃんもだけど、その彼氏?もヤバくてさ…』

『暴言暴力は当たり前だったし、連日で飯抜きも当たり前だった。それに俺、妹いるんだけどさ…』

『ある日妹が二人にめちゃくちゃ酷い暴行されてて、金属バットで頭を強く打たれて、俺のことを忘れちまった……』

『それで妹倒れて動かなくなって……助けを呼びに無理やり家を飛び出した。ひたすら走って…』

これらを語る人物は、目の前にいる彼と外見的特徴が一致していた。彼の長い睫毛や毛穴一つもない綺麗な肌が特に似ていた。それと同時にある記憶を思い出した。

『アンタなんかっ!アンタなんかっ!』

『痛いっ!』

『こんなやつ……死ねっ!』

『っ!和純っ!』

『………っお兄ちゃん………っっ!』

『和純っ!なぁ和純っ!嘘だろ………いず…み…?』

『………ァァァァァ”ァ”ァ”ァ”ァ”っ!』

「……………っ」

次第に目からボロボロと大粒の涙が溢れては零れてきた。そうだ…。今目の前にいる彼は間違いなく……

「お兄………ぐすっ!」

「やっと思い出してくれたか………辛かったな。よく頑張ったな」

「…………それだけ辛い場所にいたんだね…」

「ぐすっ!ヒック…!」

「よーしよし!泣くなー和純っ」

兄である……小沼詩喜だった。私が頭を強く打たれてから彼と共にした記憶がなく、ずっと忘れてた、求めてた存在だった。彼は椅子から立ち上がり、私を強く抱き締めた。そして頭を撫でてくれた。

「痛いの痛いのっ!矢間に飛んでけっ!」

「痛いっ………よく分からないけど、和純ちゃん、よく一人で頑張ったね……とりあえず今日はこのチビのところに泊まりなよ」

「…あっ!家出したの忘れてた……」

「あはは……」

なるほど。先程殺人鬼のような手をしてた彼は矢間さんというのか…。穏やかそうな表情をしてるにも関わらず、大柄な体格に黒いゴム手袋に付着した赤い染髪剤。見た目だけで判断するのは良くないが、彼は詩喜の先輩らしい。

「そうそう。自己紹介が遅かったね。俺は矢間稔。25歳の美容師でここのオーナーをしてるんだ」

「…美容師…?……オーナー……?」

「うん。ここはね、他のサロンと違って減量やボディメイク、トータルビューティーも取り扱っててね、それぞれにプロがいるんだ」

「へ、へぇ…?」

「あぁ。再会して間もないんだけどさ……」

そう言うと詩喜は目の色を変えて、両手で私の肩をガシッと掴んできた。そして彼は…………私にある契約内容を言ってきた。それはというと…

「俺の手伝いをしてくれ。もちろんお前を動画には出さない。だけど、美容のこと全部お前に教えたい」

「…………えっぇぇ………」

「無理にとは言わん…。お前は俺の可愛い可愛い妹だ。その………「はぁ」

「やっと会えたもんね………一緒に綺麗になろうね」

「和純っ!はぁーやっぱり天使、いや女神様だっ!俺の妹っ!」

こうして私は美容系YouTuberをしてる兄の詩喜の手伝いをすることになった。動画には一切出演しないことと、一緒に暮らすことを約束した上でら私の新しい生活が始まった。そして夜になり、サロンは閉店し、彼らとご飯に行くことになった。

「もしもし武里?もう着いてるの?」

<着いてるよ………あのチビ、妹いたなんてな…とりあえず予約してるんだから……>

「ごめんごめん。わかったまた後で」

「あ〜和純可愛い。いい匂い。ねぇ矢間〜飯の前に和純食いたいんだけど……」

「ほんっとに気持ち悪いよ……お前…」

「(暑苦しい……)」

矢間さんの車に乗り、決まった店へ移動していた。どうやら私と詩喜の再会記念に急遽予約してご飯ということになった。詩喜は隣で私に抱き着いては首元に顔を埋めてスーハースーハーとしている。これがシスコンってやつか…。でも四年ぶりに再会出来たこともあり、あまり気にしないでいたと同時に店へと着いた。

「矢間っ!詩喜っ!こっちこっち」

「わ〜……」

大柄な男性二人がテーブル席に座りつつもこちらに手を降ってきた。私達は彼らの元に来て席に座りった。

「へぇー、この子か………和純ちゃん、話は聞いたよ」

「触るな!俺の可愛い可愛い妹だぞっ!」

「とりあえず、何か頼もうか…虎哲君」

「はい……とりあえずドリンクバー三人分ね?」

「ありがとう虎っち!」

備え付けのモニターでドリンクバーを人数分注文し、詩喜が幼い子供のようにはしゃぎながらドリンクコーナーへと走っていった。

「ゼロ円カルピースだけはするなよ〜……はぁ。和純ちゃんも大変だね。あのチビがお兄ちゃんなんて」

「あはは………まぁ、でも暫く生活は安定しそうなので」

「確かに大学生にして年収は俺以上だし……」

「色々似てないけど、色々変えたら可愛くなれるなっ!」

「確かに……髪質改善、眉毛アート、まつ毛パーマ、メイク……確かに凄く変わりそう」

「…ダイエットなら、俺に任せて」

「和純〜っ!一口もらうわ」

「(……やっぱこの人と暮らすことが凄く不安…)」

詩喜がドリンクコーナーから戻ってきた。テーブル席に三杯分のグラスを置こうとしてるが、私が彼に頼んだアイスコーヒーを一口飲まれた。

「和純こんな苦いの駄目っ!身長縮むし、胸だって育たないぞっ!」

「そうだそうだ〜っ!こんなチビみたいにならないように……」

「こらこら玄牙さんと詩喜君…。俺達のこと忘れられてるよ…」

「やべぇ…いやぁ和純ちゃんごめんっ!こいつらも紹介するんだった!」

確認しよう。今私達がいるのは全国にある某ファミレス。幸い平日だが時間帯的に学校や部活帰りの学生や家族連れで来てる人々もいるというのに、この人達にはデリカシーというのがないのか……。すると矢間さんよりも穏やかで少し大柄な男性が一度この目的をまとめた。すると、私達の向かい側に座ってる男性二人が、それぞれ自己紹介をしてきた。

「俺は武里玄牙。トータルビューティーとメイク担当さ。もちろんメンズ美容も担当してるよ」

「俺は姫幡虎哲。ボディメイク担当してるんだ。でも甘いものも結構好きだよ。よろしく」

「玄牙は大学の同級生で、虎哲君は俺の後輩!でも虎哲君普段は穏やかだけど、怒ると凄く怖いからっ!」

「あ〜!あれは背骨折りかけたね……身長伸びるチャンスだってのに」

「あはは………でも皆さんであのサロンを経営してるから凄いです」

「だろ?だから、なっ!今日からお前もっ!」

「ア・モード・ミオの仲間だっ!」

「これからよろしく〜っ!」

短髪で大柄で普段は穏やかな虎哲さんに、デリカシーには欠けてるが寄り添ってくれる玄牙さん。このサロンを立ち上げた矢間さん、表向きは大学生で、大人気美容系YouTuberだが重度のシスコンな兄の詩喜……。この四人は何かとバランスが良い。果たしてこの四人と歩む美容の道は、どんなものなのだろう。この食事会は楽しいもので、次第にお開きになって、初めて詩喜の部屋に来た。

「とりあえず今日はシャワー浴びて寝なよ」

部屋に入るなり彼はそう言い、お言葉に甘えて、シャワーを浴び、気付けば夢の中にいた。私が寝たことを確認した詩喜は、別の部屋でパソコンとカメラを開き、画面に向かって喋り始めた。

「やほ〜っす!正解はどこだ〜?しきで〜っす!今日はこの新作コスメをレビューしていくぞ〜っ!」

どうやら新作コスメのレビューだった。チャンネル登録者数は百六十二万人というところだそう。私も彼の裏の顔を知った時はビックリした。何故なら私も彼のチャンネル登録者の一人で、学校の休み時間によく見ていたからだ。三十分くらいで撮影は終わり、十分ほどパソコンで作業した後に彼も私の布団の中に入り、そのまま抱き締めながら夢の中に入った。私達の実家には少しながらの兄との思い出しか残っていない。それでも私は、新しく出来た仲間たちと、美容の道を歩もうと夢の中で誓った。

「………お兄……おやすみ」






……To be continued

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る