39話 新スキル
ノナが暮らしているアパート。
そこの一室に、3人は机を囲んで座っている。
ノナはどこか「ぐぬぬ」と言いたげな表情をしていたかと思えば、悔しそうに叫んだ。
「私の武器がなくなった!」
あの後、ダンジョン警察に泥棒は連行された。
しかし、ノナの収納袋自体はダンジョンの底へと消えてしまったのだった。
ダンジョン警察からは、お詫びとして10万Gと
収納袋とは違い、箱状になっているのが特徴だ。
大きさは小さく、腰にぶら下げられるようになっている。
素材はシルバーで、鉄のように見えるのだが、かなり軽い。腰に付けていることを忘れそうな程であった。
それを貰えたことと、ダンジョン内通貨であるGを貰えたことは素直に嬉しかったが、あのチート級の能力を持っていたシルバーソードと引き換えと考えると、安く感じてしまう。
それ程までにあの剣は強かったのだ。
「ショートソードじゃ、流石にノナの強さに見合わないしね」
「というよりも、私が強かったのって、多分あの剣のおかげだからなぁ」
ノナがミソギに疑問符を浮かべながら返すと、エムは励ますように口を開く。
「ノナはドラゴンの大群を倒したんだよね!? 絶対強くなってるって! それに、初期装備の状態でフェンリルに勝ったじゃん!」
「あ! 確かに!」
エムに聞いた話だと、フェンリルはかなり強いモンスターらしい。
それを初期装備で撃退できたということは、強いと自信を持っていいのかもしれない。
「けど、武器は欲しいよねぇ……。かっこつかないし!」
ということで、武器を買いに行くことにしたが、あの剣に慣れてしまっては普通の武器だと物足りない。
「この前の装備屋さんに、オーダーメイドで作って貰おうかな?」
と思ったが、Gが足りなそうだ。
だったら、ドロップアイテムを売れば良いと思ったのだが、それは叶わなかった。
この前のドラゴンの大群を倒した時にドロップしたアイテムを持ち込んだが、売れなかったのだ。
売れなかった理由は、見たことがないアイテムなので、価値が分からないからだということだ。
肉に関しては高く売れそうだったが、自分達で食べたかったので、売らなかった。
◇
『で、我に何か用か?』
「フェンリルって、錬金術ができるんでしょ? かっこよくて強い剣とか作れない?」
3人はデパートのダンジョンに来ていた。
理由は、フェンリルに錬金術で武器を作って貰う為だ。
錬金術がどこまで万能なものなのかは分からなかったが、物は試しということで、来てみたという訳だ。
『それなりの素材があれば、作れないこともないぞ』
「おお! 流石! って、どうしたの?」
ノナは希望が見えたという所でガッツポーズをするのだが、隣にいるエムがなぜか怯えている。
「フェ、フェンリル!? え、この前の!?」
「そうだよ! あ、怖がらなくても大丈夫だよ!」
前のフェンリルは、意思が無かったのだ。
今のフェンリルは、ノナへの復讐心……というよりも、ライバル心はあるが人間は襲わない。
どうやらダンジョン内に生息しているモンスターは意思がないらしく、本能のみで動いているモンスターがほとんどらしい。
テイムすることにより、意思が芽生えたりはするが、なぜかこのフェンリルはテイムをしていないのにも関わらず意思を獲得できた。
本人曰く、復讐心の力らしい。
「襲わないって、本当……?」
『ああ。ノナと約束したからな。おかげでこのダンジョンで一生を終えずに済む』
何気に初めて、名前を呼ばれた気がする。
「えっと、じゃあ、よろしくね?」
『よろしくされる、覚えはないがな』
ひねくれた返事をするフェンリルであったが、見た所敵意は無さそうなので一安心だ。
『で、剣を作って欲しいのだったな。我は高いぞ?』
「え!? タダじゃないの!?」
『当たり前だろ! 人間だって、Gを支払ったりしてやり取りするのだろう? 我だって似たようなものだ』
確かに、無料と言うのは虫が良すぎたかもしれない。
「Gが欲しいの?」
『いや、我にはそれがあったとして、使い道がないからな』
「じゃあ、何が欲しいの?」
『ドロップアイテムだな。我らモンスターは、どうやらモンスターのドロップアイテムを食うことによって、強さが増すとのことだ。我は、もっと強くなりたいのだ!』
これは丁度良かったかもしれない。
売れなかったドロップアイテムが、こんな所で役に立つとは。
なぜ収納袋に入れておいたドロップアイテムがここにあるのかと言うと、ダンジョンキャンプの際に食べるドラゴンの肉と一緒に、エムから借りたサブの収納袋に取り出しやすいように一時的に移動させておいたからだ。
シルバーソードも移動させておけば良かったのだが、この前のこともあり、いつ戦闘になるか分からなかったので、持ち歩いておきたかったのだ。
だが、結局使わずにあんなことになるとは。
「沢山あるよ!」
ノナはドラゴンの大群を倒して手に入れたドロップアイテムの一部を、フェンリルの前に差し出す。
『なんだこれは!? 見たことのない品だな!』
「でしょ? でも、これだけじゃ足りないでしょ?」
『ああ。我が食うだけなら問題ないが、錬金術の素材としても使用するのであれば、もう少し必要になるな』
ということであれば、全部食べさせよう。
『多過ぎる! 流石にそれだけ一度に吸収しては、身が持たん!』
「あ、そうなの?」
結局、フェンリルが扱える分だけのドロップアイテムを差し出すことにした。
とは言っても、結構な量ではあるのだが。
『力が
ドロップアイテムを食べ終えたフェンリルは、大声で叫んだ。
声は女性なので、女の子が叫んでいるような感じで、可愛らしくもある。
『ぐおおおおおおおおおっ!』
フェンリルの口の中から、ノートが飛び出した。
「どうしたの!?」
『ドロップアイテムの力が強大過ぎたのだ! だから、咄嗟に何かを錬金してしまったらしい』
「何かって?」
『分からん』
ここでミソギがそのノートが何かに気づいたらしく、口を開く。
「スキルの書じゃないの?」
「スキルの書って?」
「読むとスキルを獲得できるアイテムだよ」
「おお! これ私が使ってもいい!?」
「ノナのアイテムで生み出されたものだしね。それに、モンスターには使えない」
念の為、フェンリルにも承諾を得よう。
『別に構わん。我は十分に強くなり過ぎたからな!』
承諾も得られたので、ノナはノートを手に取り、パラパラとめくる。
すると、読んでもいないのに、ノートが粒子となって消滅した。
『スキル【
ノナの脳内に無機質な声が響き渡る。
どうやら、スキルの獲得は成功したらしい。
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