37話 ダンジョンキャンプ

☆吉永ノナside


 ダンジョンキャンプ。

 それは文字通り、ダンジョン内でキャンプをすることである。


「肉が焼けたよー!」


 岩肌に囲まれたダンジョン内の一室で、ノナ達は初のダンジョンキャンプに挑戦していた。

 バーベキューのように、肉や野菜を串にさし、金網の上でそれらを焼いている。


「美味しそうだね。それにしても、この肉って……」

「いいのいいの! 多分美味しいから!」


 中学時代からの友達であるミソギに、肉が刺さった串を渡す。


「凄い肉汁だね!」


 高校生である、エムもそれをノナから受け取った。

 彼女の言う通り、肉汁が地面にポタポタと垂れ続けている。


 今回集まった3人は、一斉に肉にかぶりつく。


「美味しい!」

「本当だね! これなんの肉!?」

「ドラゴンの大群を倒した時に手に入れた肉だよ!」


「やっぱりそうだよね」


 ミソギはノナの言葉を聞いて、肉を食べ続けた。

 最初は不安そうであったが、ミソギも美味しく感じたらしく、目を輝かせるようにして口に入れている。


「ドラゴンの大群……?」

「うん! あんまり強くなかったけどね! なんか白いドラゴンと黒いドラゴンだったよ!」

「ドラゴン!? 絶対強かったでしょ!」

「いやいや! と言いたい所だけど、実際どうなんだろうね?」


 案外自分のことは自分で分からないものである。


「武器が強かっただけかもしれないけどね!」


 ノナの武器は名もなき剣、仮名シルバーソードという名の2mある細長い剣である。

 とあるダンジョンで手に入れた、かなり強力な剣だ。


 リーチも長い上に、攻撃力も高いのだが、重量はなぜかスマートフォン程の重さしかない。

 更にはオートで相手の攻撃を弾いたり、勝てる見込みのない相手と戦闘を行う場合は、その相手を倒せるアーツを生成する能力まで持ち合わせている。


 要するに、これを持っていれば負けはないのだ。

 ちなみに長すぎて邪魔なので、普段は収納袋に入れてある。


「武器の強さもその人の強さの一部だよ! それに、そんなに沢山ドラゴン倒したんだったら、相当強くなってるでしょ!? 凄いな!」

「だったらいいね!」


 元の時代に戻る鍵はダンジョンにある可能性が高いと思っている。


(実際に元の時代に戻れたかは分からないけど、似たような現象はこの前起きたしね。やっぱり、ダンジョンが何か秘密を握っているような気がする)


 となれば、強くなれば行けるダンジョンも増えると思うので、そこは嬉しい限りだ。

 それに、色んなダンジョンを探索してみたいという考えもある。



 遅めの夕食を終えたノナ達は、就寝する準備に入る。


「ここで寝泊まりかぁ」


 寝泊まりするエリアには、他にもテントが張ってある。

 先程とは違うエリアだが、このエリアもダンジョンキャンプ推奨エリアで、他の人達もここで寝泊まりをする予定のようだ。


 ノナ達もテントを張り、その中に小さな布団を敷くと、仰向けになる。

 エムが持って来た、取り出すと自動的に組み上がるダンジョン仕様のテントなのでそこはかなり助かった。


「じゃ、電気消すよ」


 ミソギがそう言うと、ノナとエムは肯定の返事をする。



「泥棒だぁぁぁ!」


 誰かの叫びに目が覚める。

 テントの外から聴こえてくる声で、ノナ達3人の誰でもない声だ。


「泥棒!?」


 確かにこのエリアにモンスターは出現しない。

 だが、確かに泥棒などの悪いことを企む探索者がいないとも限らない。


「何この煙!?」


 謎の緑の煙がテント内に充満する。

 危険な予感がしたので、ミソギとエムを起こそうとしたが、2人共目が覚めない。


「誰なのもう!」


 ノナは大慌てでテントを出ると、テントの外にも緑色の煙が辺りに充満していた。

 エリア全体が緑の煙で覆われているのだ。


 だが、その煙はすぐに晴れる。

 ノナの目の前には真っ黒の服に、目と鼻と口しか露出していないニット素材のマスクを付けた、いかにも泥棒……と言うよりも、強盗犯な人が立っていた。


「ちょっと! どうしてこういうことをしちゃったのかな!」

「なん……だと……!? 特性の催眠ガスが効いてないだと!?」


 催眠ガス? だからミソギ達は目覚めなかったのか。


「お前と戦闘をするのはやめた方が良さそうだな! 泥棒には泥棒の生き延び方があるのさ!」

「ちょっと!」


 ノナは思わず、逃げようとする泥棒を追いかけた。


「なんてな!」


 泥棒は素早い動きで、ノナの腰のショートソードを引き抜くと、それをノナの腰に向かって振り降ろす。


「残念だったね!」


 残念だが、ノナへのダメージは0だ。


「狙いはそこじゃねぇ! 俺は泥棒だぞ!」


 泥棒はショートソードを地面に投げ捨てる。


「え!?」


 泥棒は素早い動きで、逃げ出した。

 彼の右手には、布製の巾着袋。つまりはノナの収納袋が握られていた。


「今回はあまり盗めなかったからな! ボロい収納袋だが、奪わせて貰ったぜ!」

「ま、待て!」

「待つかよ! G《ゴッド》モード!」


 泥棒は叫ぶと、収納袋を持った右手と、左手も地面につける。

 そのまま姿勢を低くすると、物凄い速さでカサカサと手足を動かし、ノナから逃げる。


「は、速い!」


 ノナは追いかけるが、向こうの方が圧倒な速さだ。

 自分でゴッドとか言ってしまうのは、負けフラグな気もするが、今回はどうだろうか。


 そう考えていると、ダンジョンが揺れ、地面が割れて崖ができる。

 なんというタイミングであろうか。


「嘘だろぉぉぉぉ!?」

「残念だったね!」


 泥棒は崖で立ち止まると、立ち上がり、ノナの収納袋を崖の上に垂らす。


「これ以上近付くと、こいつを捨てるぞ!」

「くっ……!」


 と思ったら今度は後ろから、10人くらいの警察コスチュームの人達が走って来た。


「ダンジョン警察だ! 大人しく掴まれ!」


 ダンジョン警察?

 普通の警察とは違うのだろうか。


 ダンジョン内部は法律とかややこしそうなので、専門的な組織がいるのだろうか。


「おい、奴は逃げることができない。さっさと捕まえろ」


 後ろから出て来たタバコを吸っている男が、部下に命令をする。

 先程、「ダンジョン警察だ!」と叫んだ部下に対してだ。


「く、来るな! 近付くと、こいつ捨てるぞ!」

「卑怯だぞ!」


 ノナの収納袋を人質としているようで、ダンジョン警察も動けない。

 かと、思われたが……


「やれ」

「隊長!? で、ですが……!」

「少しの犠牲だ。分かるな? 悪・即・捕だ」

「し、しかし……!」

「我々二番隊の名に泥を塗る気か? 断るならこうだ」


 タバコを吸っている隊長と呼ばれた男は、タバコを自分の左腕に押し付ける。


「隊長!?」

「これ以上俺の体を痛めつける気がないのならば、すぐに捕まえろ」

「は……はいっ! 皆かかれーっ!」


 泥棒は思わず、右手に握っていた収納袋の手を放してしまう。

 そして、タイミング悪く地面が揺れたと思ったら、地面が閉じる。


「ちょっ! 私の武器とか色々消えたんですけど!」


 ノナの収納袋は、地面の下かどこか分からない所へと消え去った。

 だが……


「く、くそ! こっちは泥棒のプロだぞ!?」

「こっちは、逮捕のプロなんでね!」


 泥棒は無事にダンジョン警察の人達に逮捕された。

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