10話 究極で完璧なゼロスタイル

「何これ?」

「それはドロップアイテムだね。それを手に取ると、アイテムとか、場合によっては装備とか色々出てくるね」

「おお! いいの出るといいな!」

「そうだね。ただ、スライムだしあんまり期待しない方がいいかも」


 確かに、スライムと言えばRPGでは弱いモンスターと扱われる場合が多い。

 ドロップアイテムも期待しない方が良いだろう。


「なんだろう、この液体!」


 この前の黄緑色の液体は、確かポーションだったハズだ。

 これは何だろうか? 丁寧に瓶に入っている。


「これは【スライムエキス】だね。そのままだと使えないし、飲んでもマズいから売った方がいいかもね」

「売る?」

「うん。ゴールドを手に入れる為にも売るのをおススメするよ」

「ゴールドって、なんだっけ?」

「ダンジョン内のお金だよ」

「なるほど!」


 RPGのように、ダンジョン内の通貨が存在するらしい。

 ただ、都合よくモンスターがお金を落とすということはないらしい。



 スライムを倒しながらしばらく歩いて行くと、大きな扉の前まで来た。

 扉の前には、【冒険者ギルド】と書かれたTシャツを着ている男性が立っている。おそらく、スタッフの人だろう。


「ボスに挑戦しますか?」

「ボス?」


 ボスという意味は分かるが、念の為エムに聞いてみた。


「ボスって言うのは、この場合、階層のボスのことだよ。この扉を開けると、ボスに挑戦できるんだよ! 挑戦してみる?」


 やはり、ゲームと同じようなボスを指すようだ。


「うん! 勿論!」

「よし! じゃあ一緒に行こうか! 2人で挑戦します!」


 スタッフにエムが言うと、スタッフは扉の前から退いた。

 ノナとエムは、扉を開き、中へ入ると自動的に扉が閉じた。


「ガアアアアアアアアッ!」


 すると、粒子がモンスターの形となっていき、それは赤い大型の鬼の姿となった。


「ここのボスは【レッドオーガ】だよ! 頑張ろう!」

「なんか強そうだなぁ。初心者の私でも大丈夫?」

「大丈夫! 私がついてるからね! 究極で完璧なアイドルの私がねっ!」


 ウインクをして、目の横で横向きのピースを決めた。


「へぇ! それは凄いね!」


 ノナは拍手をエムに送る。


「あ、あの……い、今のはボケというか、ネタだから!///」


 エムは顔を赤くして、両手を目の前にして顔を左右にブンブンを振る。


「なんかのネタなんだね? 恥ずかしがらなくても大丈夫だよ! 私の友達もかみ殺すとか、色々言ってるから!」


 そういえば、この時代の友達はどうしているのだろうか?

 もし会えたら、昔話としてかみ殺す連呼していた話をして盛り上がるとしよう。きっと、懐かしくてたまらなくなるに違いない。


「ガアアアアアアアアッ!」

「よそ見をしている場合じゃないみたいだね!」


 レッドオーガを無視して話をしていると、レッドオーガは叫んだ。


「いっくよおおおおおおおおお!」

「ノナ!? いきなり突っ込むの!?


 ノナはレッドオーガを斬り付けた。


「ガアアッ!?」

「効いてる!? まだスライム数匹倒しただけなのに、ここまで成長を!?」


 エムがノナを褒めると、ノナは少し照れながら言う。


「そうかなぁ! いやぁ! もしかして私探索者の才能があったりして?」

「才能は間違いなくあると思うよ! よし! 私も探索者の先輩として頑張ろう! 【ファイアボール】!」


 エムは杖を振ると、火球がレッドオーガに向けて飛んで行く。


「ガアアアアッ!?」

「ふふん! ノナにいい所を見せられて良かった!」


 流石、究極で完璧を自称するだけはある。


「凄いねぇ! いやぁ、凄い! さっすが、アイドルだねぇ!」

「ありがとう! 恥ずかしいけど……」


 レッドオーガはフラフラしている。

 そういえば、ここは初心者向けのダンジョンだ。ということは、レッドオーガもあまり強くないのかもしれない。


「ファイアボール!」

「トドメは私がっ!」

「ちょっ! 危ないって!」


 ノナは、発射される前の火球の目の前に背を向けて立つ。

 火球に押される形で、レッドオーガに向かって吹っ飛んで行く。


「見せてあげよう! 【ダブルインパクト】ゼロスタイル!」


 ノナはドヤ顔で叫びながら、剣をレッドオーガの額に刺し、追加でもう一撃分のダメージを与えるスキル【ダブルインパクト】を発動させた。

 レッドオーガは体力がなくなったのか、粒子になり消滅した。


「ぐはっ!」


 ノナは火球のダメージもあり、地面に叩き落とされる。


「大丈夫!?」

「あ、うん!」


 ノナは立ち上がると、照れくさそうに笑う。


「いやぁ! いい勝負だったね!」

「そうだね! でも、あんまり危ないことしないでね?」

「まぁ、別に普通に攻撃していれば、勝てたしね! でも、それだと飽きちゃってね! 私飽きっぽいからさぁ! あっはっは!」

「気を付けてね? 私まだまだノナとダンジョン探索したいんだから」


 ダンジョン内で死んでしまうと、ダンジョン外の体は無事だが、2度とダンジョンへは入れなくなってしまう。

 そして、あくまでも無事なのは体だけだ。1度死というものを経験してしまえば、どうなるのか? 精神面は無事じゃ済まない。廃人になってしまう者もいれば、案外死は怖いことじゃないと考え、少し嫌なことがあっただけで、命を絶ってしまう者もいるらしい。


 これらは今日ネットを調べていたら、それらのまとめ記事が見つかったので、ノナも知っていることだ。


「大丈夫だって! えへへ!」

「不安だ……」

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