6話 これからの目標とか


 後日、ノナの元上司は逮捕されたとテレビで報道された。

 カッターナイフで部下の社員に襲い掛かったらしいが、逆に返り討ちにされたとのことだ。


 上司と戦った社員に関しては、正当防衛扱いになったようだ。

 彼の証言によると、「予想よりも、弱すぎるぜ……。あいつ……。俺が力の2割も出したら、あいつはこの世を去ってしまうと知った時だ。俺はこれから、あいつ相手に手加減をしなくてはならないという現実を前にして、大きく絶望したぜ!」とのことだ。勿論被害者なので、顔は出さずに、声もモザイクだ。


 要するに、必要最低限な反撃しかしなかったのだろう。

 詳しくは不明だが。


「そこまでのことになっていたなんて……! というか、あの時聴こえた声、本気だったの!? カッターナイフなんて、てっきり冗談かと思ったよ!」


 ノナは、テレビの前で叫んだ。







 このニュースが放送されたのは、あれから数日後のことだ。

 話はノナが退職して帰宅した所まで、戻る。






☆吉永 ノナ


「さてと、これから私はどうすればいいのかな?」


 仕事を辞めてしまえば、いずれは貯金がつきてしまう。

 だが、しばらくは貯金があるので、そんなことしなくてもいい。


「仕事のことは後でいっか!」


 ノナは夏休みの宿題を最終日まで取っておく派の人間なので、今の所は仕事のことは考えなくても、「ま、いっか!」といった感じだ。

 そもそも中学2年生なので、仕事なんてしなくてもいいのだ。


「子供は遊ぶのと勉強が仕事だって、先生も言ってたしね」


 仕事のことは考えなくていい。

 となると、次やるべきことはなんだろうか?


「受験勉強かな? 高校にも行きたいしね」


 だが、今のままではそれは叶わない。

 現実的な問題として、今のノナの肉体はアラサーなのだから。


「となると、やっぱり元の時代の元の体に戻ることが、今やるべきことなのかな?」


 このような場合、どうすれば戻れるのだろうか?


「こういう場合って、黒幕的なボスがいて、そのボスを倒すと元の時代に戻れたりするよね! 世界を救う為に、過去の私を誰かが呼んだとかもあり得そう!」


 漫画などでも、こういう展開は燃える展開だ。


「ってなると、怪しいのはダンジョンだよねぇ……」


 あんな人間の空想を具現化したような存在があるのは、怪し過ぎる。

 もしかすると、ノナがこの時代に来てしまったのに関係があるのかもしれない。


「よし! 決めた! 折角探索者になったんだし、ダンジョンを冒険してダンジョンの謎を解き明かそう! 楽しみになってきた~!」


 この時代に来たばかりのノナにとって、ダンジョンはまだまだ未知の存在だ。

 心からのワクワクを抑えきれずに、目を輝かせた。


「となると、まずはダンスマだっけ? それを手に入れなくちゃだよね!」


 ダンスマとは、ダンジョンスマートフォンの略である。この前友達になった、エムという女子高生によると、探索者であれば皆持っているかのような感じだった。


「さてと、やっぱりこれだよね!」


 部屋にあるノートパソコンが目に入った。

 スマホと同じパスワードでロックを解除すると、ダンスマについて検索を始める。


「スマホも便利だけど、私的にはやっぱりパソコンの方が操作しやすい!」


 スマホだと、慣れていないせいもあり、どうしても入力速度が遅くなってしまう。

 それに、ネットで調べものをしていると、画面に突如デカデカと表示される画像が閉じられず、中々上手く操作ができない。


「何々? ダンスマは……ほうほう」


 どうやらダンスマは、東京にある、とある建造物付近から入れるダンジョンで貰えるようだ。

 他にも様々な場所で貰えるが、東京の場合はそこになる。


「スカイツリー……完成してたのか」


 スカイツリー付近にある、通称スカイツリーのダンジョンには【冒険者ギルド】があるらしい。

 冒険者ギルドとは、ダンジョンを安全に、そして楽しく使えるように色々と規則を作ったり、サポートをしたりする人達の集まりのようだ。


「後、ラインについても調べなくちゃね!」


 この前、エムが言っていた謎の単語、【ライン】。それについての謎を解き明かそうではないか。


「なるほど! スマホのアプリか!」


 どうやら、チャットのようにメッセージをやり取りできるらしい。

 通話もできるらしい。2009年的に言うと、スカイプのような感じと言えば分かりやすいか。


「これに、電話番号入力して検索ができるのか! ってことは、エムは私のこと検索してくれたのかな!?」


 ノナはスマホでラインを確認すると、エムから友達申請が来ていた。

 エムを友達として追加をした後、メッセージを読む。


『ラインやってたんだね! 知らないみたいだったから、やってないと思っていたよ!』


 昨日メッセージをくれたようだ。


「えーと、『やってたみたい。これからよろしく』っと!」


 ノナは返信をすると、エムから電話がかかってくる。

 そういえば、色々あってもう夕方だ。


「もしもし!」

「あ、ノナ! ラインやってたみたいだったから、送ったよ!」

「ありがとう! なんか私、勘違いしちゃってたみたいで! アハハ!」

「そういう時ってあるよね。所で、明日空いてる? 創立記念日で学校休みなんだけど、良かったら一緒にダンスマを貰いに……って、ごめん! そうだよね! ノナは普通に学校あるんだよね!」

「何を言ってるの! エムと一緒にお出掛けに行くに決まってるでしょ!」

「え? でも……」

「いいのいいの! まぁ、私結構ヤンキーだからさ!」


 こうして明日、東京スカイツリーのダンジョンへ、エムと一緒に行くことになった。

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