2009年の女子中学生が、2024年の自分を乗っ取った。えっ!? この時代には【ダンジョン】があるの!? ~見た目は大人でも、中身は平成の中学生なので、あらゆる常識が通用しません~

琴珠

第1章

1話 平成の中学生

 時は2009年。

 インターネットが普及し始め、パソコンが置かれている家庭も増えてきた時代である。


 しかし、2024年の現代において持っていない人の方が珍しいであろうスマートフォンはまだ普及していなかった。

 よって、SNSや動画サイトなどは、現代に比べると利用者があまりにも少ない。そして、それらにのめり込んでいたのはオタク達が多かった。


 更に、2016年にこの世界に現れた【ダンジョン】と呼ばれる存在だが、当然2009年において、それは確認されていない。





吉永ヨシナガ ノナ


「ちょっと! ごめんって!」

「かみ殺す!」


 中学2年生の少女、吉永ヨシナガノナは、友達に追われている。

 左右の手に握られた、合計2本のホウキを逆手に持っている友達から、走って全力で逃げている。


 なぜ追われているのかと言うと、昼休みに机で寝ていた友達の腋下をくすぐって起こしたからである。


「なんか最近キャラ変わったよね!?」

「そうかい? 僕はいつもこうだよ」


 少し前までは、どちらかと言うと大人しい感じだったのだが、何かが彼女を変えたのだろう。

 多分、漫画とかアニメとか、その辺りだろう。実は心当たりが大いにある。


 と、その時である。


「うわっ!?」


 突然、ノナの目の前が真っ白になった。


「ちょっと! 何これ!」


 いきなりのことでびっくりだ。

 だが、驚きの出来事は、まだ続く。


「君! 電車来るよ! 何やってんの!」

「え?」


 なぜか電車が来ると言うのに、黄色い線の外側に立っていた。

 駅員から注意され、慌てて線の内側へと行く。


「そういうことしちゃ駄目だよ!」

「ご、ごめんなさい?」


 ノナはなぜか駅員に怒られてしまう。


(ワープした?)


 先程まで、友達に追いかけられ、校庭を走っていたのだが。

 なぜ駅にいるのだろうか?


(何々!? 何が起こったの!?)


 本当に何が起こったのだろうか?

 ワクワク半分、恐怖半分である。


(というか、どっちにしても学校に戻らないと先生に怒られちゃうよね!)


 先生に怒られてしまっては、最悪親に連絡が行ってしまう。

 そうなると、色々と面倒だ。


「どうやって言い訳しよう……」


 考えながら駅を歩いていると、鏡が目に入る。

 大人の女性がこちらを見ている。


「こんにちは」


 とりあえず、目が合ったので頭を軽く下げておいた。

 しかし、それは鏡。数秒後、映っている女性が自分だと気が付く。


「へ!? へ!? 大人になってる!?」


 突然叫んだ為、周りの人間がノナを見る。

 恥ずかしくなったので、少し移動する。


「え!? どうして!?」


 まずは落ち着こう。

 なぜ大人になった? 先程まで、昼休みに追いかけっこをしていただけだったのだが。


「いやいや! 私まだまだ遊びたかったんだけど! なんで急に大人になっちゃってるの!? というか、せめて高校は行きたかったよ!」


 中卒が悪いと言う訳ではない。

 だが、ノナとしては高校生活もエンジョイしたかった。


「先生に相談したらどうにかなるかな?」


 こんなトンデモ現象、先生でも解決法は分からないだろう。


「警察? お母さん? お父さん?」


 どうしたらいいか分からない。

 そして困惑しているノナに、更なる現実が襲い掛かる。


 駅に貼られているカレンダーを見てみると、そこには2024年と書かれているのだ。


「15年経ってる!? え!? いやいや! 流石にそんなことは……あるね」


 目をこすろうが、カレンダーは2024年のままだ。


「家に戻ろう。うん」


 幸いにも来たことのある駅だったので、家に戻ることはできる。

 それに、今日はなぜか日曜日だ。先程まで平日だったのだが、不思議だ。


『プルルルルル』


 電車を待つ間に、ポケットの中から音が鳴る。

 それを取ると、画面がむき出しの携帯電話が出てきた。


「こ、これは! 未来の携帯電話!?」


 ノナは、画面の指示に従い、電話に出る。


「おい吉永ァ!! おい!!」

「うわっ!」


 いきなり男性の大声が響き、思わず耳から離してしまう。


「誰?」

「あ? とぼけてんじゃねぇぞ! 電話出るのおせぇし、お前は! だから駄目なんだ! 分かってんのか!?」


 ここまで強い言葉を使って来るということは、深い絆で結ばれた友達かもしれない。

 とにかく、15年前から来たことがバレないように、いつも通りに話す方向に切り替えることにした。


「いやぁ! ごめんごめん! そっちは、元気にしてる?」

「は? ざっけんじゃねぇぞ!! カスが!! お前……偉くなったなァ!!!!」


 あまりにもヒドイ暴言だ。流石に本気で言っている訳ではないだろう。おそらく、何らかのアニメや漫画のキャラの真似をしている可能性が高い。

 しかし、困った。ノナはこの時代の作品をまるで知らない。一体何のキャラの真似をしているのだろうか? 聞いてみることにした。


「最近流行のアニメキャラの真似? 私実は最近アニメ見れてなくて……元ネタ分からなくてごめんね?」


 嘘ではない。

 この時代のアニメについては、何一つ知らないのだから。


 正直に言ったハズなのだが、電話の相手は先程よりも大声で叫ぶ。


「おいゴミィィィィィィィィィ!! ざけてんじゃねぇぞ!!」

(うわっ! うるさっ!)


 凄まじい声だ。机を叩く音のようなものも同時に聴こえた。

 なるほど。そこまでしてなんらかのキャラになりきっているということだ。


 であれば、こちらもなんらかのキャラになりきるのが礼儀というものかもしれない。


「あまり強い言葉を使うな。弱く見えるぞ」


 ノナは、とあるキャラの真似をしてそう言うと、一瞬静まり返り、次に打撃音が聴こえた。

 おそらく携帯を投げ付けたのだろう。


 ここで電話は切れた。


「……まさか、本気で怒ってた訳じゃないよね?」


 少し不安になるノナであった。

 そして、画面に上司と表示されているのが今になって分かった。


「あちゃー……でも、ま、いっか! 今は気にしている場合じゃない!」


 気持ちを切り替えよう。

 そんなことよりも、今はとにかく家に帰ることが大切だからだ。






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