ぼくはムーン
九戸政景
本文
朝、ぼくはいつものようにお気に入りのベッドの上で起きた。ことりさんが今朝も近くのご飯やご近所のねこさんのお話をしている。いつも通りのへいわな朝だ。
「ん、起きたか」
ぼくの顔をじいじが見てくる。じいじはぼくの飼い主さんらしい。飼い主というのはまだよくわからない。それに、じいじはぼくの事をかぞくだと言ってくれてる。だから、じいじはぼくのかぞくなのだ。
「お前は本当にふわっふわだな。夏はあつそうだが、冬はあったかそうだ」
じいじはぼくの事をなでてくれる。白っぽいピカピカしたかみで少しこわそうな顔をしているじいじはぼくが生まれてくるかなり前は悪い人をつかまえるお仕事をしていたらしい。でも、それが少しずつ出来なくなってお仕事をやめて、今はぼくと一緒にお家でのんびりしているのだ。
「うっし、とりあえずにっかを始めるかな」
じいじはかみの色と同じ四角いものを持ってくる。ぼくはこれを知ってる。中にじいじみたいな人が入ってるのだ。いつもこのくらいの時間になると、中の人は元気の良いあいさつをしてくれて、じいじはその人とヘンテコなおどりを始める。じいじが言うには、ラジオたいそうなのだそうだ。だから、この四角いのに入ってる人がラジオさんで、そのヘンテコなおどりがたいそうなのだろう。ぼくはまだまだ小さいけど、これくらいはわかるんだ。えっへん。
そうしてじいじはラジオたいそうをすると、自分のといっしょにぼくのご飯も出してくれる。じいじがくれるご飯はカリカリコロコロとしてるものだ。でも、ぼくはこのご飯をじいじといっしょに食べるのが好きだ。ご飯が好きというよりは、じいじといっしょなのが好きなのだ。
「ムーン、しっかり食べろよ。お前は大きくなるいぬらしいからな」
じいじはまたぼくをなでてくれる。ムーンというのがぼくの名前。ぺっとしょっぷというところにいた時は別の名前だったけど、このお家に来た時にじいじがムーンという名前をくれた。どうやら夜になるとお空に出てくるお月様の事らしい。だから、ぼくはいぬでありながらお月様でもあるのだ。どうだー。
そんな事を考えながらご飯を食べて、和室というところでのんびりしていると、じいじに会いに来た人がいた。
その人はさかやさん。さかやというのはよくわからない。でも、じいじはその人が来るととてもうれしそうだ。前に話が聞こえた感じだと、その人は前にじいじがつかまえたことがある人らしく、じいじの言葉に心を動かされてかいしんをしたのだそうだ。
心が何かはわからないし、見たこともないけど、そんな物すらよいしょって出来るじいじはやっぱりすごい。そんけーにあたいする。そんけーもあたいするもどっかで聞いた言葉だからよくわからないけど。
「さいきん、他のやつらはどうですか?」
「たまに来てくれるさ。どいつもこいつも元気だから安心してる」
「みんな、あなたに助けられましたからね。おれなんかまっとうに生き始めたらいつだってグチを聞いてやる。その代わり、さけはおごれよ、なんて言われましたから、そのためにいつもがんばってますよ」
「はっはっは! その結果、さかやになったから驚きだ。まあお前も元気でやりな。さぎしだったお前はその頃から口八丁手八丁なやつだったからな。しょうばいなんてのは他のやつよりもやりやすいだろ」
「あははっ、そうですね。その時のけいけんが今こうしてまっとうな生き方に活かされるとは思いませんでしたが、あなたを悲しませないためにこれからもがんばりますよ」
「おう」
そしてさかやさんは帰っていった。その後も色々な人がじいじに会うためにお家に来た。みんな、じいじに会うとうれしそうで、じいじもにこにこしていた。だから、ぼくもうれしくてにこにこしていた。
そんなこんなであっという間にお月様がお空からこんばんはしてきた。朝からいたお日様はおねむなのだという。長い時間お疲れ様。また明日会おうね。
「ムーン、今日ものんびりした一日だったな」
さかやさんが置いてったおさけを飲みながらじいじがぼくをなでてくれる。じいじが言うには、おさけはおいしいらしい。でも、ふしぎだ。テレビでさけは川を泳いでるものだと言ってた。だけど、じいじが飲んでるおさけは川と同じで水みたいだ。同じようなものなのにさけをつかまえてこうして持ってきてくれるさかやさんはすごい。そんけーにあたいする。そして今は花丸もあげちゃう。よくがんばりました。
そうしてご飯も食べて、またおねんねの時間。じいじがぼくをベッドまで持っていってくれる。
「ムーン、また明日な」
また明日ね、じいじ。ぼくはいぬだからじいじ達の言葉はしゃべれない。だから、今夜も鳴き声をあげる。それがぼくからのおやすみなのだ。そしてじいじがいなくなった後、ぼくはゆっくり目を閉じる。すると、どんどん眠くなる。おやすみなさい、また明日。
ぼくはムーン 九戸政景 @2012712
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