第2話 初めての仕事

松下真一が異世界でダンジョン認定士としての職を得た初仕事。それはエルム村の近くにある未調査のダンジョン「古代の迷宮」の測量と地図作成だった。真一はその使命に興奮と不安を抱きつつ、準備を整えた。


翌朝、真一は村の広場に集合した。ギルドマスターのローレンスが見送りに来てくれた。


「松下君、今日は気をつけてな。このダンジョンはまだ誰も完全に把握していないから、慎重に頼む。」


「はい、ありがとうございます。万全の準備をしていきます。」


真一は自分の測量機材をしっかりと確認し、リュックに詰め込んだ。地図作成用の紙やインク、ランタンなども忘れずに持っている。村の人々も彼を応援してくれ、暖かい声援を送ってくれた。


「松下さん、頑張ってくださいね!」

「怪我しないように気をつけて!」


真一は皆に感謝の言葉を伝え、村を出発した。エルム村からダンジョンまでは徒歩で約一時間の距離だ。道中、異世界の自然を感じながら歩く真一の心は次第に落ち着いていった。


「この世界には本当に色々なことがあるな…」


彼は異世界の景色を眺めながら、自分がここに来たことの奇跡を感じていた。そして、新しい仕事に対する意欲がますます高まっていった。


ダンジョンの入口に到着すると、そこには古代の石造りの門がそびえ立っていた。苔むした石が時の流れを物語っている。真一は深呼吸をし、入口をくぐった。


「さて、ここからが本番だ。」


ダンジョンの内部は薄暗く、静寂が支配していた。真一はランタンを点け、慎重に進んでいった。周囲の壁や床を注意深く観察しながら、測量機材を使ってデータを集める。


「まずは全体の構造を把握しないと…」


真一は地図を広げ、現在地を記しながら進んでいった。ダンジョン内は複雑な迷路のようになっており、注意を怠ればすぐに迷ってしまいそうだ。


「この分岐点はどちらに進むべきか…」


彼は慎重に道を選びながら進んでいった。その途中、壁に刻まれた古代の文字やシンボルが目に入った。


「これは…何かの手がかりかもしれない。」


真一はその文字やシンボルをスケッチし、後で詳しく調べることにした。彼の頭の中には次々と新しいアイデアが浮かんでくる。


「このダンジョンの構造を完全に把握するには時間がかかりそうだな…」


しかし、真一は焦らずに一歩一歩確実に進んでいった。ダンジョン内の空気はひんやりとしていて、時折、不気味な音が響く。それでも彼は冷静さを失わず、測量作業を続けた。


数時間が経過し、真一はダンジョンの奥深くまで進んでいた。すると、突然目の前に広がる大広間に出くわした。その中央には巨大な石像が立っており、その周囲にはいくつもの古代の遺物が散らばっていた。


「ここは…祭壇のようだな。」


真一は慎重に広間を調査し始めた。石像の表面にはさらに複雑な文字や図形が刻まれており、それを読み解くのは容易ではない。


「これをしっかりと記録しておこう。」


彼は石像や遺物の配置を丁寧にスケッチし、詳細なメモを取った。その時、不意に背後から足音が聞こえてきた。真一は振り返り、緊張しながら声をかけた。


「誰かいるのか?」


しかし、返事はなかった。真一はさらに慎重になり、周囲を警戒しながら作業を続けた。やがて足音は遠ざかり、再び静寂が戻ってきた。


「気のせいだったのか…」


真一は自分を落ち着かせ、作業に集中した。広間の調査を終えた後、彼は再び迷路のような通路に戻り、さらに奥へと進んだ。


途中、いくつかの小部屋を発見し、その一つ一つを丁寧に調査した。部屋の中には古代の文書や道具が残されており、それらを記録することでダンジョンの歴史や目的が徐々に明らかになっていく。


「このダンジョンは単なる迷宮ではない…何か特別な目的があったに違いない。」


真一はそう確信しながら、調査を続けた。そして、ついにダンジョンの最深部に到達した。


そこには、他の部屋とは明らかに異なる雰囲気が漂っていた。巨大な扉が立ちはだかり、その表面には複雑な紋様が刻まれている。真一はその扉をじっと見つめた。


「この扉の向こうには一体何があるのだろう…」


彼はその扉を開けるべきかどうか迷ったが、最終的には調査を優先することにした。慎重に扉を開けると、その先にはさらに広大な空間が広がっていた。


「ここは…」


真一の目の前には、美しい庭園のような光景が広がっていた。異世界の植物が生い茂り、中央には澄んだ池がある。まるで別世界に迷い込んだかのような光景だった。


「これがダンジョンの最深部か…」


真一はその光景に圧倒されながらも、慎重に歩を進めた。池のほとりに立つと、そこには一冊の古びた本が置かれていた。


「これは…」


真一はその本を手に取り、ページをめくった。中には古代の言葉で書かれた記録がびっしりと詰まっている。その内容を理解するのは難しかったが、彼はその本を持ち帰ることに決めた。


「これで今日の調査は終了だ。」


真一はそう呟き、ダンジョンの入口へと戻る道を辿った。再び迷路のような通路を通り、無事に入口まで戻ることができた。外に出ると、日が暮れかけていた。


「ふぅ…なんとか無事に終わった。」


真一は深呼吸をして新鮮な空気を吸い込み、エルム村へと戻る道を歩き始めた。村に戻ると、村人たちが彼を温かく迎えてくれた。


「松下さん、お帰りなさい!無事で何よりです!」


「ありがとう、みんな。」


真一は笑顔で応え、ギルドマスターのローレンスに報告に向かった。ギルドの建物に入り、ローレンスに調査の成果を見せた。


「素晴らしい仕事だ、松下君。これだけの詳細な地図と記録を作成するとは、君の技術は本物だな。」


ローレンスは真一を褒め称え、彼に報酬を手渡した。真一は初めての仕事を無事に終えた達成感とともに、これからの異世界での生活に期待を膨らませた。


「これからも頑張ります。ありがとうございます。」


そう言って真一はギルドを後にし、村の宿屋へと向かった。宿屋では、村人たちが用意してくれた夕食が待っていた。真一はその温かいもてなしに感謝しながら、美しい料理を味わった。エルム村の特産品である新鮮な野菜やハーブを使った料理は、真一にとって初めての異世界グルメ体験だった。


「これは…本当に美味しい。」


真一は一口ごとに感動しながら、料理を堪能した。地元の特産品をふんだんに使った料理は、素材の味を活かした優しい味わいで、心も体も温まるものだった。特に、村の農家が手塩にかけて育てた野菜のサラダは格別だった。


「松下さん、どうですか?エルム村の料理は。」


宿屋の女将が笑顔で声をかけてきた。真一は頷きながら答えた。


「とても美味しいです。こんなに新鮮で美味しい野菜は初めてです。」


「それは良かった。村の皆も松下さんの活躍を聞いて、応援してくれていますからね。」


真一は女将に感謝しつつ、さらに料理を楽しんだ。地元の名物料理である「エルム鍋」は、野菜と肉がたっぷり入った滋養豊かな一品で、真一の疲れた体を癒してくれた。


「この鍋、すごく美味しいですね。どんな材料が入っているんですか?」


「これは、村で育てた野菜やキノコ、そして地元の特産品である山羊の肉を使っています。秘伝のスープで煮込むことで、素材の味が引き立つんですよ。」


女将の説明を聞きながら、真一は鍋の中の具材を一つ一つ味わった。その丁寧な調理と豊かな風味に、異世界の食文化の奥深さを感じた。


「本当に美味しいです。ごちそうさまでした。」


食事を終えた真一は、女将に礼を言い、部屋へと戻った。部屋に入ると、彼は今日の出来事を思い返しながら、手帳に記録を残すことにした。


「今日は初めてのダンジョン調査だったが、無事に終わってよかった。広間にあった石像や古代の文字は非常に興味深い。特に、最深部の庭園と池は予想外の発見だった。持ち帰った本の内容を解読すれば、このダンジョンの謎がさらに解明されるだろう。」


そう書きながら、真一はふと考えた。


「異世界での生活はまだ始まったばかりだけど、これからどんな冒険が待っているんだろう。」


彼は期待と不安を胸に抱きながら、翌日の準備を整えた。そして、疲れた体をベッドに預け、深い眠りに落ちた。


翌朝、真一は早起きして再び村の広場へと向かった。ギルドマスターのローレンスが、今日も彼を見送りに来ていた。


「松下君、昨日の報告書を見たが、素晴らしい仕事だった。君の技術は我々にとって大きな財産だ。」


「ありがとうございます、ローレンスさん。これからも頑張ります。」


真一はローレンスに礼を言い、次の調査地点へと向かう準備を始めた。彼の心は新たな挑戦と冒険に向けて燃えていた。異世界での生活はまだ始まったばかりで、これからも多くの発見と成長が待っている。


「さて、次のダンジョンはどこだろう。」


真一は地図を広げ、次の目的地を確認した。彼の目には、まだ見ぬ世界への興奮が輝いていた。


「次の冒険もきっと素晴らしいものになるだろう。」


真一はそう自分に言い聞かせ、エルム村を後にした。異世界での新たな日々が、彼を待っていた。

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