「測量技術で異世界を冒険!」 異世界に転生した測量技術者、松下真一がダンジョン認定士として活躍。ダンジョン調査と絶品グルメを楽しむ異世界スローライフファンタジー、開幕!

湊 町(みなと まち)

第1話 転生

松下真一は、東京都心のビル群の中にある測量会社で働いていた。忙しい朝、真一は慌ただしく家を出て、混雑した電車に揺られながら職場へと向かう。駅から歩いて数分の場所にあるオフィスビルの一室が、彼の職場である。


「おはようございます。」


オフィスに入ると、同僚たちが次々と挨拶を交わす。真一も軽く会釈しながら、自分のデスクに向かった。デスクには、今日の現場の資料や地図が整然と並べられている。今日もまた、現場での測量作業が待っている。


「松下君、今日は新しいプロジェクトの現場だよ。準備はできているかい?」


上司の田中が真一に声をかける。田中は経験豊富な測量士で、真一の良き指導者でもある。真一は頷きながら、手早く必要な機材をチェックする。


「はい、田中さん。準備は万全です。」


オフィスから出発し、真一とチームは東京都内の新しい開発現場へと向かった。現場は繁華街の一角にあり、周囲には高層ビルやショッピングモールが立ち並んでいる。真一は早速、測量機器を設置し、地図の作成に取り掛かった。


「この場所は地盤が少し緩いようですね。注意して測量を進めましょう。」


田中のアドバイスを受け、真一は慎重に地形を測量していく。彼の手は精確で、無駄な動きが一切ない。彼の測量技術は社内でも一目置かれており、その正確さと迅速さで多くのプロジェクトを成功に導いてきた。


数時間後、測量作業は無事に終了した。真一は汗を拭いながら、機材を片付ける。彼は何度もこうした現場を経験してきたが、そのたびに達成感を感じることができた。しかし、心のどこかに、何か物足りなさを感じている自分がいた。


「今日もお疲れ様。帰って少し休もう。」


そう自分に言い聞かせながら、真一は会社の車に乗り込み、オフィスへと戻った。オフィスに戻ると、同僚たちがそれぞれのデスクで作業を続けている。真一は自分のデスクに座り、今日のデータを整理し始めた。


夕方になり、真一はデスクの片付けを終えて帰宅の準備をした。オフィスを出て、一人暮らしのアパートへと向かう道すがら、彼はいつも通りの風景に目を向けた。コンビニの明かりが煌めき、行き交う人々の姿が見える。


「今日は何を食べようか…」


真一は自炊することが多く、シンプルな料理を楽しんでいた。家に帰ると、キッチンに立ち、冷蔵庫の中身を確認する。今日は野菜炒めにすることに決め、手早く準備を始めた。


「こんな日常がずっと続くんだろうな…」


真一はふと、そう思った。測量技術者としての仕事に誇りを持ちながらも、心の奥底には何か新しい刺激を求める気持ちがあった。しかし、それが何なのか、彼自身もはっきりとはわからなかった。


その夜、真一は一人で夕食をとりながら、テレビのニュースを眺めていた。仕事の疲れを感じながらも、次の日の現場に思いを馳せる。彼の生活は、そんな繰り返しの日々だった。


「明日も頑張ろう。」


真一は自分にそう言い聞かせ、布団に入った。しかし、彼はまだ知らなかった。翌日、自分の人生が大きく変わる出来事が待ち受けていることを。


翌朝、真一はいつものように早起きして、仕事の準備を始めた。今日は特に重要な現場調査が予定されている。彼はコーヒーを一杯飲み干し、出発の準備を整えた。


「今日も頑張ろう。」


自分に言い聞かせながら、真一は玄関のドアを閉めた。駅までの道のりはいつも通りの風景が広がっている。駅に着くと、ラッシュアワーの人混みに揉まれながら電車に乗り込んだ。


電車の中はぎゅうぎゅう詰めで、身動きが取れないほどだった。スマートフォンを取り出し、今日の予定を再確認する。今日は新しい開発地の測量で、一日がかりの大仕事だ。真一は心の中で気合を入れ直した。


オフィスに到着すると、すでに同僚たちが集まっていた。田中上司がみんなに指示を出している。


「松下君、今日はよろしく頼むよ。」


田中が声をかけてきた。真一は頷き、準備を始めた。機材を車に積み込み、チームと一緒に現場へ向かった。車窓から見える風景は、徐々に都市の喧騒から自然豊かな郊外へと移り変わっていく。


現場に到着すると、広大な土地が広がっていた。新しいショッピングモールが建設される予定の場所だ。真一は機材を設置し、測量作業を開始した。


「ここは地盤が少し柔らかいな…」


真一は地面の感触を確かめながら、慎重にデータを集めていく。集中力を高め、正確な測量を進める。数時間後、突然の地鳴りが響いた。


「ん?何だ?」


真一は不安を感じながら周囲を見渡した。次の瞬間、大きな地響きと共に地面が揺れ始めた。足元が崩れ、真一はバランスを崩して倒れ込んだ。


「地震か…?こんなところで…!」


必死に体を支えながら、真一は立ち上がろうとした。しかし、地面の揺れはますます激しくなり、彼の意識は徐々に遠のいていった。


真一が次に目を覚ました時、そこには見知らぬ風景が広がっていた。緑豊かな森と清らかな川、そして遠くには山々がそびえている。


「ここは…どこだ?」


周囲を見渡すと、現代日本とはまるで異なる風景が広がっている。真一は混乱しながらも、なんとか立ち上がった。足元には測量機材が散らばっている。


「夢か…?いや、これは現実だ…」


自分自身に言い聞かせながら、真一は周囲を歩き始めた。そこには異世界の生き物たちが姿を見せ、彼の存在に興味津々の様子で近づいてきた。


「この世界は一体…?」


真一は目の前の現実を受け入れようと努めた。異世界に転生したことを理解するのに時間はかからなかった。彼は測量機材を再び手に取り、周囲の地形を測り始めた。


「この技術は…きっと役立つはずだ。」


真一は自分の技術を信じ、異世界での新たな生活を始める決意を固めた。まずは自分の居場所を確保し、この世界で生きていくための手段を見つける必要がある。


ふと、真一は遠くに小さな町のようなものを見つけた。


「まずはあそこへ行ってみよう。」


そう決めた真一は、散らばった機材をまとめて背負い、町へと向かって歩き始めた。未知の世界での新たな冒険が、今、始まろうとしていた。


真一がたどり着いた町は、石造りの家々が並ぶ小さな村だった。町の入口には木製の門があり、その上には「エルム村」と書かれた看板が掲げられている。彼は深呼吸をして気を落ち着け、門をくぐった。


「いらっしゃいませ。旅行者の方ですか?」


村の入口にある小さな雑貨店の店主が真一に声をかけてきた。中年の女性で、優しそうな笑顔を浮かべている。真一は戸惑いながらも頷いた。


「はい、そうです。少しこの村を見て回りたいと思っています。」


「そうですか。この村には宿屋もありますし、何か困ったことがあればお手伝いしますよ。」


店主の親切な言葉に感謝しながら、真一は村の中を歩き始めた。道行く人々は皆、真一に興味津々の視線を向けている。彼は異世界での自分の姿がどれほど奇異に映るのかを自覚しつつも、その視線に負けずに探索を続けた。


「まずは情報を集めなければ。」


真一はそう考え、村の中心にある広場へと向かった。広場には市場が立ち、人々が賑やかに買い物をしている。新鮮な野菜や果物、手作りのパンやチーズが並び、活気に満ちている。


「うわぁ、ここは食べ物がたくさんあるな。」


真一の視線は自然と食べ物に引き寄せられた。異世界のグルメに興味津々の彼は、露店の一つに立ち寄り、地元の特産品を物色し始めた。


「このパンは美味しそうだな。ひとついただけますか?」


「もちろんです、お客さん。このパンは新鮮なミルクとハチミツで作った特製ですよ。」


露店の店主はにこやかにパンを手渡した。真一はお金がないことを思い出し、どうしようかと悩んだが、店主は笑顔で言った。


「今日は特別にサービスしてあげます。初めてのお客さんには歓迎の気持ちを込めてね。」


「ありがとうございます。いただきます。」


真一はパンを受け取り、一口かじった。ふわふわでほんのり甘く、絶品だった。


「これは…本当に美味しい。」


異世界の食べ物に感動しながら、真一は広場をさらに見て回った。すると、広場の片隅に「冒険者ギルド」という看板を見つけた。


「冒険者ギルドか…ここで何か情報が手に入るかもしれない。」


そう思った真一は、ギルドの扉を押し開けて中に入った。中には様々な人々が集まっており、賑やかな雰囲気が漂っている。真一は受付に向かい、案内役の女性に声をかけた。


「すみません、このギルドで何か仕事を探せるでしょうか?」


受付の女性はにっこりと微笑み、真一に向き直った。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。あなたは冒険者志望ですか?」


「実は、僕は異世界から来た測量技術者です。ダンジョンの測量や地図作成が得意なんですが、何かお仕事がありますでしょうか?」


女性は驚いたように目を見開いたが、すぐに興味深そうに頷いた。


「それは素晴らしいですね。この世界にはダンジョンがたくさんありますから、あなたの技術はとても役に立つと思います。少々お待ちください、ギルドマスターにお話ししてみます。」


受付の女性は奥の部屋へと消えていった。しばらく待っていると、重厚な扉が開き、中年の男性が現れた。彼は筋骨隆々で、威厳ある風貌をしている。


「私はこのギルドのマスター、ローレンスだ。君が異世界から来た測量技術者か。」


真一は緊張しながらも頷いた。


「はい、松下真一と申します。現代の測量技術を活かして、この世界で役に立てることがあればと思いまして。」


ローレンスは真一の言葉を聞き、しばし考え込んだ。


「君の技術は確かに興味深い。特にダンジョンの測量は我々にとって非常に重要な仕事だ。試しに一つ、仕事をお願いしてみよう。」


そう言ってローレンスは、ギルドの地図を広げ、一つの地点を指し示した。


「この村の近くに、まだ誰も詳細を把握していないダンジョンがある。君の技術でそのダンジョンの構造を測量し、地図を作成してほしい。」


真一はその提案に興奮を覚えながら頷いた。


「ぜひ、やらせてください。」


こうして真一は、異世界での新たな職業「ダンジョン認定士」としての第一歩を踏み出すことになった。彼の冒険と測量の日々が、今始まろうとしている。

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