その時は突然に
無駄
誰も報われない世界
トゥルルル…トゥルルル…
「はい松岡です。」
この物語は一本の電話からはじまった。
「メールみた?」
電話をかけてきたのは弟。平和な日曜日の午前のことだった。
当時の松岡はメールを通知設定オフにして、オンラインゲームで遊んでいたところだった。もちろんメールなど見てはいなかった。
弟から告げられたのは衝撃的な言葉だった。
「そっかぁ…それはなんとも…」
松岡は言葉にならなかった。悲しいとか、驚きとか…とにかく平和な日曜日の朝に心をえぐる出来事だ。
弟とは二言三言話して電話をきった。このあと松岡は2時間ほどボーっと過ごすことになる。人は本当に驚いたとき感情表現が下手になる。松岡の心はそのくらいざわついていた。
「そりゃないぜ…」
松岡はひとりごちる…その目からは涙がこぼれていた。
次の日も、その次の日も松岡の目には涙があった。最初は感情表現が上手くいかず、感情が涙に変わることが無かったが、日に日に感情が涙として外に溢れ出すのだった。35歳の初夏のことだった。
松岡は東京に来て間もなく十年が過ぎようとしている。故郷へは東京に来る以前から足を運んでいない。おじいちゃん子だった松岡がおじいちゃんが亡くなったのを知ったのは数年が経ったあとだった。葬儀は愚か、線香すらあげていない。それでも故郷へ足を運ぶことは無かった。
ポーン
(間もなく着陸態勢に入ります。シートベルトをしっかりとおしめください。)
「予約していた松岡です。」
「お車はこちらです。燃料満タンで返却お願いします。」
緑豊かな田舎道を懐かしみながら進む。この道を走るのは何年ぶりだろうか。忘れている景色や、変わった景色。変わり映えのない景色。様々な背景を流し見つつ車は進む。
そしてついたのは廃墟になりかけている一軒の家だった。玄関を開けて室内に入っていく。2枚扉を開けて見えた物に涙が止まらない松岡。そして一言。
「ただいま親父。」
十数年ぶりにあった父親は遺影になっていた。
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親父の子供が4人いて皆実家を出ているんですけど、誰も葬儀にもでてないんです。母親は小学校のときに離婚したのでいないです。
というのも松岡が連絡を受けたのが葬儀の日だったんです。もう遅いですよね。
親父は65歳ですからね、人生80年時代なんで松岡はかなり油断していました。
あとから知ったんですが、死因はガンで1年闘病生活を送った後に逝ったみたいです。松岡も連絡まめじゃないし、親父も自分が病気になったから連絡するってタイプじゃないために誰も報われない最期になってしまいました。
松岡は人様に迷惑をかけないよう真っ当に生きているつもりでした。しかし、親の死に目に立ち会わない。葬儀にも顔を出さない。世間からみたらとんだ親不孝者です。
こんなことなら年にせめて一回は顔を出すべきでした。松岡は用事がないからというだけで帰省してこなかったのです。
もっと親孝行すれば良かった。もっとありがとうを伝えれば良かった。だけどもう。
後悔だらけの人生でしたが、この先これをこえる後悔はもうおとずれないでしょう。
なぜなら松岡はこのことで気を病んでしまい…
その時は突然に 無駄 @takehito
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