…
「ピースな奴らは目をなくしても困らない。なんでかわかるか?」
私の隣で突撃の瞬間を待つ兵の一人が小声で囁く。こーゆう緊迫した状況では、あえて軽口を言う手合いが一定数いるが、コイツはその典型例だった。
「分からないな。いくら考えるのをやめたからって、目はいるだろう」私は言った。
「クククッ」
ソイツは喉の奥を鳴らして笑った。戦場でのジョークを嫌う者も多いが、私は好きだった。特に自分が死ぬかもしれない作戦中こそ、くだらない冗談を聞きたくなる。
「見えないからさ」
私は頭の中で今の言葉を変換してみる。見えないから、見栄ないから。
「くだらん」私は笑った。
「俺は336番。アンタは?」
「よせよ。誰も聞いちゃいない」
辺りには、私たちと同じように突撃に備えた兵が塹壕に隠れていたが、それぞれの距離はだいぶ離れて横に広がっていた。もう隙間を作らなくては鶴翼の陣を引けないほど私たちの数は減っていた。
「俺は矢野」
「私は伊藤だ。よろしくな」
「アンタ今までどこにいたんだ?ここじゃ見ない顔だ」
「長いこと捕虜になってたからな。お前第何期だ?」
「4」
「私は1だ」
それを聞くと矢野は驚いたような、畏れるような、軽蔑するような、とにかく複雑な表情をした。
「初めて見たぜ。第1期は全滅したんじゃなかったんだな」
「私が最後の1匹。もっとも今日がその全滅の日になりそうだが」
はっきりいって無茶な作戦だったが、今に始まった話じゃない。むしろ、この島でこの無意味な諍いが始まった当初に比べれば、だいぶマシかもしれなかった。
「なんだってこんな死にに行くような作戦ばっかりなんだ」
「私たちを殺すのが目的だからさ」
「は?」
矢野は面食らっていた。第4期の中には、ピースの嵐以後に生まれた者もいるという噂だったが、その噂は本当らしい。
「平和に仇なす反乱軍はいない。私たちが戦っているのは他国で同じようにドロップアウトした連中さ」
「…」
「学校で教えられたことは数学以外全部嘘だ」
その時、タグに信号が伝わってきた。首から脳に直接駆け上る電気の衝撃にはいつまで経っても慣れない。
「時間だ。構えろ。生き残ったらもっとたくさん教えてやるよ、真実ってやつを」
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