第7話

「素敵なご提案を送ってくださり、ありがとうございます!脚本未満脚本を!早速作ってみましたあ!」


「素敵…?いや、その前に…もう作ったのか?…もう?トモが…?」


「何ですか、その顔は!」


「……」


「意味深なリアクションはやめて下さいようっ!」


「冗談はこのくらいにしておいて。企画書未満企画書は作ったのか?」


「仕様も良く理解できず…作ったので…タカキさんのお眼鏡に適うかどうかは不明ですが…、ごっこ遊び…だし…お手柔らかに…」


「このクリアファイルに入っているコピー用紙だな?」


「…ジャンルは、アクションか。」


「日常での短い脚本未満脚本です!女性向けです!」


「タカキさん…後ろからお願い…早く…アイドル俳優擬黒くんよりも愛してる…イケメンで格好良くて爽やかで…奥まで入れたいよ…ああっ!入ってくるよ…タカキさんの大きな」


「タカキさん!虚空を見つめながら話さないで下さいっ!」


「テレビドラマ向けに企画したのか?アイドル俳優擬黒くんにでもハマっているのか?」


「タカキさんと私が恋人設定ですって!ちゃんと読んで下さいっ!」


「なぜ、そのような設定なんだ?女性向けと言っても多種多様にニーズはあるぞ?」


「物語の中でも…友達とか同僚とか仲間と仲良く友情を謳歌したり、…大好きな人と楽しく恋愛してみたいじゃないですか…。」



「制作陣の上流工程の男性女性達は、物語の制作を通して、擬似的友情や疑似的恋愛を楽しんでるって…あくまで噂ですけどね…」


「…皆やってるのに、…比べるのも失礼ですが、…私はごっこ遊びで我慢ですけど…」


「…ごっこ遊びの何が悪いんだ?金と引き換えに不要で不快な表現の制作の強要をされずに済むのなら、幸せじゃないか。自己資金集めて、なんて論外だ。下積みも何もないから、一発屋の宴会芸じみた扱いで終わるだけだ。顔を売れば売れるなんて時代錯誤の人権侵害だしな。名の通った大手企業の福利厚生社会保障のある身分でも保証されない限りは、長続きしないだろう。どれもこれも、お前の大事な自由の替わりに…いや、どうでもいいな、今さら。」


「…ですよね。」


「夢を見せる側さ…オレ達は…」


「タイトルは、『お泊りデート』」


「…関東A県。B町。住宅街のマンション。外、夕方…」


「3階、廊下の突き当りの部屋のドア前、トモ、タカキ、ふたりで佇む」


「タカキさん、部屋の前まででもいいですよ?」


「…タカキ、鋭い視線で外階段の入口を見る」


「トモは、”コサの団”の組織の恐ろしさをまだ知らないな…?」


「もう追手は来ませんよ!さっきタカキさんが車で追跡を振り切ってくれたし!」


「一時撤退をしただけかもしれない。サングラスの男にいいパンチを一発入れてやったからな。」


「そのまま、コンビニにでも行ったかも。もうすぐ夕ご飯の時間ですし。」


「トモは部屋の鍵は見つかったか?部屋に入ってから話そう」


「…タカキ、ドアノブに手をかける」


「…トモ、焦ってバッグをあさる」


「バッグに入ってるんですけど…見つからない…かも」


「金属の針金を持っているが、これを使って解錠するとドアノブが損傷してしまう可能性がある。…どうだ?」


「…タカキ、針金をトモに見せる」


「…トモ、下に目線を落とす」


「今晩のお夕飯は、1人分しか買っていないので…」


「…タカキ、少し笑みを浮かべる」


「なぜ、耳が赤くなり、目が潤む?」


「…タカキ、トモに顔を近づける」


「まだデートするのも2回目ですし…」


「…タカキ、トモにさらに顔を近づける」


「タイミング、ってやつじゃないか?出会って2か月だしな?」


「…タカキ、トモと自分の額を近づける」


「私は危険ですよ…?」


「“コサの団”とは関係ない、さ…」


「…トモ、目を閉じる」


「…タカキ、真剣な顔になる」


「おい!ターゲットをみつけたぞっ!」


「…3階階段の入口、下縁眼鏡の大男」


「トモ!そこにいろ!」


「タカキさんっ!」


「…タカキ、大男に向かって走る」


「大男、ボクシングの構えをとる」


「来い!…大男のセリフ」


「…タカキ、上体を低くして大男の腹部に突進していく」


「…大男、ストレートのパンチを大きく放つ」


「何っ!…と大男のセリフ」


「ふっ!…と鋭く息を吐くタカキ」


「…タカキ、大男の懐に滑り込み、シャツの襟元をつかむ」


「しまった!…と大男のセリフ」


「…タカキ、そのまま大きく背負投げをする」


「…大男、廊下に積んである大きな段ボールの列に激突する」


「…段ボールから、赤と黒の薔薇の花が大量に出て散る」


「…タカキ、起き上がる」


「トモ!ついて来い!一緒に行こう!」


「…タカキ、トモに手を差し出す」


「私の部屋に…今晩!」「と、タカキのセリフ」


「…トモ、目を見張る」


「お泊りセットを買っていきましょう!」


「…タカキ、驚く」


「…トモ、笑顔を見せる」


「…タカキ、笑顔を見せる」


「後悔は…、いや、後悔しないか?」


「タカキさんこそ、…優しくして…ね?」


「…ふたり、近づく」


「…ふたり、手を握る」


「ふたり、駆け出す」


「…赤と黒の薔薇の花びらが舞う」


「タカキさん…アイドル俳優擬黒くんよりも愛してる…そう言って、トモはブラウスのボタンをひとつずつ外し」


「タカキさんっ!書いてないですよ!ネタにするのはアイドル俳優擬黒くんがかわいそうですっ!」


「今、かわいそうと言ったな?」


「私を嫉妬させたいのか?」


「…う…」


「今晩は…、…………………OKの日…です…」


「うむ、素直でよろしい」


「では!トモ、今回の脚本未満脚本の評価をするぞ!」


「はい!タカキさん!お願いします!」


「全体的に…………………………………………………………………うん!」


「そう…ですよね。」


「夢を見る側か…やはり、だな。」


「遠い目をしちゃいますね…やっぱり」


「今、安心しきった顔をしたな?」


「…う…、ト書きとか…柱…とか…薔薇とか…コサの団とか…柔道とボクシングとか…」


「ちなみにトモ。安定した雇用の確保は、夢の一言では片付けられないぞ?」


「だが、ふたりらしく一緒にいられる道を探すのが、最も大切だということ。忘れてはいけないぞ?」


「無理をせず、ふたりで家庭を守って楽しくやっていきたいものだ。」


「ん…トモ?」


「………」


「トモ、どこへ行こうとしている?」


「いや、心がざわついて!」


「次は、別ジャンルに挑戦しますっ!」


「……………」


「……………えっと」


「トモ、エンディングの時間がきたぞ。」


「やったあ!終ったら、サーティワンアイスケーキを食べましょう!」


「私は、レモン味で。」


「私は、ラム酒味がいいです!」


「トモ!?…そうか?…そうなのか」


「タカキさん、ぷーぷくーぷくー」


「では、次回、また竹の塚ラジオでお会いしましょう。これに懲りずにリスナーでいてくださったら幸いです。楽しく、が一番です。私の一番の領域です。」


「皆、大好きです!竹の塚ラジオでしたあ!」




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