第8話 真実の告白 ★

※注意書き

この話には性的描写があります。

露骨な表現は避けておりますが、気になる方はスキップいただけますと幸いです。

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 美咲は深呼吸を繰り返しながら、自分の机を見つめていた。隼人への想いが、もはや抑えきれないほどに膨らんでいる。彼の過去を知り、その心の傷を癒したいという気持ちが、美咲の中で日に日に強くなっていった。


「今日、話さなきゃ」


 美咲は小さくつぶやいた。

 決意を固めた美咲は、隼人にメッセージを送った。


『黒川さん、少しお時間よろしいでしょうか。屋上でお待ちしています』


 送信ボタンを押した瞬間、心臓が高鳴るのを感じた。返事を待つ数分が、永遠のように感じられた。


『はい、分かりました。すぐに行きます』


 隼人からの返信に、美咲は深く息を吐いた。

 屋上に着いた美咲は、都会の喧騒を見下ろしながら、自分の気持ちを整理していた。風が髪を揺らし、頬を撫でる。


「佐藤さん」


 背後から聞こえた隼人の声に、美咲は振り返った。


「黒川さん、来てくれてありがとうございます」


 美咲の声が少し震えている。


「どうしたんですか?何か問題でも?」


 隼人が心配そうに尋ねた。

 美咲は深呼吸をし、隼人の目をまっすぐ見つめた。


「黒川さん、私……あなたのことが好きです」


 言葉が口から出た瞬間、美咲は自分の鼓動が耳まで響くのを感じた。

 隼人は驚いた表情を浮かべ、しばらく言葉が出なかった。


「佐藤さん……」


「私、分かっています」


 美咲は急いで付け加えた。


「黒川さんには辛い過去があって、職場の人とは付き合いたくないんだって。でも、私の気持ちは本当なんです」


 隼人は複雑な表情で美咲を見つめていた。


「佐藤さん、僕も……」


 隼人の言葉が途切れる。美咲は息を呑んで待った。


「この前、あんなことを伝えたやつが何を言っているんだって思うかもしれません。どうして昔のことを佐藤さんに伝えてしまったんだろうって考えていました。今、佐藤さんの告白を聞いて、ようやくわかりました。佐藤さんには知っていただきたかったんです。なぜなら、僕は佐藤さんのことが好きなんですから」


 美咲の目が大きく開いた。


「え?」


「怖かったんです」


隼人は続けた。


「人を好きになって、また傷つくのが。それに佐藤さんを傷つけてしまうんじゃないかということも」


 美咲は思わず隼人に近づいた。


「大丈夫です。私たちは私たちです。一緒に乗り越えていけます」


 隼人の目に、迷いと希望が交錯する。


「本当に……いいんですか?」


 美咲は隼人の手を取った。


「はい。私はあなたと一緒にいたいんです」


 その言葉に、隼人の表情が和らいだ。彼は美咲を優しく抱きしめた。


「ありがとう、美咲」


 初めて名前で呼ばれ、美咲の心が躍った。

 二人はしばらくそのまま抱き合っていた。風が二人を包み込み、時が止まったかのようだった。

 やがて隼人が美咲の顔を両手で包み、ゆっくりと顔を近づけてきた。美咲は目を閉じ、隼人の唇を受け入れた。

 柔らかく、温かい感触。美咲は隼人の体温と、ほのかな香りに包まれた。

 キスは次第に深くなっていった。隼人の手が美咲の背中をなぞり、美咲は隼人の首に腕を回す。


「隼人、さん……」


 美咲が息を切らしながらつぶやいた。

 突如、童謡の夕焼け小焼けのメロディーが流れてきた。午後5時を知らせる放送だった。二人の世界から現実に戻されたことで我に返り、慌てて周りを見まわした。幸い、屋上には誰もいなかった。


「オフィスに戻りましょう」


 隼人が提案した。

 美咲は頬を赤らめながら頷いた。

 エレベーターの中で、二人は互いを見つめ合い、くすくすと笑い合った。子供のように、初々しい気持ちだった。


 オフィスに戻ると、すでに誰もいなかった。残業の多い部署とはいえ、今日は珍しく早く帰ったようだ。


「みんな帰ったみたいですね」


 美咲がつぶやいた。


「そうみたいだ」


 隼人の声が少し低くなる。

 二人の視線が絡み合う。言葉なしで、互いの気持ちが伝わる。

 隼人が美咲を抱き寄せ、再びキスをした。今度はより深く、情熱的に。

 美咲は隼人のシャツのボタンに手をかけた。隼人も美咲のブラウスに手を伸ばす。


「本当にいいの?」


 隼人が確認するように尋ねた。

「はい」


 美咲は迷いなく答えた。

 二人は互いの体を探り始めた。服の下に隠れていた肌の感触、温もり、そして高鳴る鼓動。

 隼人の唇が美咲の首筋を伝い、美咲は小さな吐息を漏らす。

 美咲の指が隼人の背中をなぞり、隼人は低いうめき声を上げた。

 オフィスの片隅で、二人の体が重なり合う。

 互いの名前を呼び合い、愛を確かめ合う。

 それは、激しくも優しい時間だった。

 やがて、二人は互いの腕の中で息を整えていた。


「美咲」


 隼人が美咲の髪を優しく撫でながら呼んだ。


「はい?」


美咲は隼人の胸に顔をうずめたまま答えた。


「君を傷つけてしまっていないかな」


 隼人の声に、まだ少し不安が混じっている。

 美咲は顔を上げ、隼人の目をまっすぐ見つめた。


「大丈夫です。私たちは一緒に成長していけます。きっと」


 隼人は美咲の言葉に、安心したように微笑んだ。


「そうだね。一緒に乗り越えていこう」


 二人は再び抱き合った。窓の外では、夜景が美しく輝いている。


「さて、そろそろ帰ろうか」


 隼人が言った。


「うん」


 美咲は少し名残惜しそうに答えた。

 服を整え、オフィスを出る二人。エレベーターの中で、また笑顔を交わす。


「明日から、どうしよう」


 美咲が少し不安そうに言った。


「普通に仕事をするさ」


 隼人が答えた。


「でも、こっそり君を見つめてるかもしれないけどね」


 美咲は顔を赤らめながら、隼人の腕を軽く叩いた。

 ビルを出た二人は、夜の街に溶け込んでいった。手を繋ぎ、肩を寄せ合いながら歩く。

 これからの日々に、少し不安もある。でも、二人で乗り越えていける。そう信じていた。

 美咲は隼人の横顔を見上げた。彼の目に映る街の灯りが、とても美しく見えた。


「幸せです」


 美咲はつぶやいた。


「僕もだよ」


 隼人が美咲の手を強く握り返した。

 二人の新しい物語は、まだ始まったばかり。これからどんな喜びと試練が待っているかは分からない。でも、互いを想う気持ちがある限り、きっと乗り越えていける。

 そう信じて、美咲と隼人は夜の街を歩いていった。明日からまた、新たな一歩を踏み出すために。

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