狛江朝顔は過去のトラウマから友達ができない《火曜日夜更新》
芦舞 魅花
第1話 狛江朝顔の過去
「友達とか仲間とか、生きてる間に何人作れるんだろう」
横に座ってアイスをかじる親友の呟きに私は口の中のアイスを飲み込んで答える。
「そりゃ作ろうと思えば何人でもできるよ」
「作ろうとって…。朝顔はその仏頂面を直すとこから始めなきゃ」
「え、私?私は友達とかそんなにいらないよ。水谷川がいるもん」
「ダメだよ。もし私がいなくなったらどうすんのさ」
「いやいや。てかいきなりなんの話題よ」
夏休みが終わる日、海の見える夕方の公園に私達はいた。昼間より涼しくなった気温と海から吹く風に、穏やかさと寂しさを感じる。私達の前に置いた2つのチャリの影を見ながら、2人でアイスを食べていた。
あの時の風景とか会話とか水谷川の声とか…。まだ鮮明に覚えてる。だってあれが最後の会話だったから。次の日、水谷川の訃報を真っ青な顔をした母親から聞いた。
彼女は昨晩、自殺した。
時は過ぎて、明日から私は高校2年生。
一応入ってるクラスのグループLINEは宿題の話とか明日転校生が来る噂とかで賑わいを見せているが、私は一切干渉をしない。関係がないから。
高校に入って私は友達を1人も作っていない。もちろん部活に入ってないし、生徒会もやってない。本当にひとりぼっち。でも寂しくはない。むしろ清々しい。
あの日、親友の突然の死に私は寂しさと絶望を覚えた。そして思った。「友達なんて大切なものつくるべきではない」と。
こんな悲しい思いをしなくちゃいけないのなら私はひとりぼっちでいい。元から明るい性格ではなかったけど、あの日から私はより暗くなった。笑わなくなったし、人と目を合わせないようにしているから前髪も伸びっぱなし。人との会話は必要最低限しかしない。
でも私はずっとこのままがいい。悲しい思いはもうしたくない。
その日私は夢を見た。場所は私の高校の教室。右隣にはなぜか水谷川が座っている。
でも制服は中学のまま。私を見つめながら真剣な表情を貫いている。
「なに…?」夢の中の私が水谷川に問いかけるけど返答はなし。代わりに水谷川は手に持っていたノートを私の前に突き出してきた。
『創作ノート』
表紙にはそう書かれていた。それを見て私はハッと思い出す。2人で書き続けた創作ノートの存在を。小説を作ることが好きだった水谷川が話を考えて、それを私が得意な絵で漫画に書き起こす。夢中で書いていた創作ノートの存在を、私はすっかり忘れていたのだ。
朝起きるとすぐに私はクローゼットを開けた。夢の中で見た創作ノートを探すためだ。案外簡単に見つかったそのノートは、乱雑にダンボールに仕舞われていたため表紙に雑な折り目がついたなんとも可哀そうな姿になっていた。時間がない中、私はパラパラと中身を見る。
物語の主人公はアーシャという少女。花の国で生まれ育った。
花の国に生まれた人間は花の力が宿っていて、それぞれに自分の花が渡される。でもそれが成長と共に好きではなくなり、彼女は花を捨ててしまう。その国では花を捨てることが大罪で彼女は罰として自分の新しい花を探す長い旅に出ることとなる。
当時水谷川とハマってみていたアニメ「魔法少女きゃらめる」からインスピレーションを受けて考えたこの作品。
「ほぼ魔法少女きゃらめるのパクリだけど。ていうか懐かし。…いちご先輩のグッズもあったりして」
懐かしさの衝動にかられダンボールをあさりたくなったけど、母親の「起きなさいよー」という呼びかけにハッと我に返って学校に向かう準備を始めた。
私の在籍する高校は、部活よりは勉学。就職よりは進学な学校で、部活動や生徒会はあまり盛んではない。それが進学先をここにした決め手。勉強が好きなわけではないけど、コミュニケーションを取るよりはるかにマシ。そんな学校だからクラス替えも席替えも特になし。これもこの学校のいいところ。
私のクラスは2組で、奇跡的に席の右隣がいない。席の列が「あ行」とか「か行」とかで並んでいるから「お」から始まる苗字の該当者が現れない限り私の右隣は埋まらない。居心地のいい後方の席で1人ひっそりと過ごしている。それが私だ。高校2年生が始まってもそれは変わらない。と、思っていた。さっきまで。
朝の朝礼が終わって、私の右隣に、新たな机と椅子が用意されている。そしてそこには顔の整った少女が座っている。彼女の名前は
何故こうなってしまったのだろう。私の安地に影がかかってしまった。始業式の間、穏やかじゃない気持ちで校長先生の話を聞き、その後すぐに始まった進級してすぐの授業中も私の気持ちは曇っていた。そんな気持ちを切り替えたくて朝見た創作ノートを思い出す。「あの時は中学生で今より絵が子供っぽかったから…今書いたらアーシャは…」と心の中でひとりごとをぶつぶつ呟きながら鉛筆を動かす。
数分後。出来上がったアーシャに満足していると何やら視線を感じた。それも右から。心臓の音がが早くなる。まさかと思い、長い前髪をカーテンにして恐る恐る右隣を確認すると今日来たばかりの転校生がキラキラした瞳で私の落書きノートをガン見していた。
「絵、上手だね」
終業のチャイムと共に、小野夏織は私に話しかけてきた。
「えっと…」
ええぃ。通常運転だ。私は無視をしてやり過ごそうとする。
「あ、ごめんね。勝手に見て」
「…」
「え、聞こえてない?」
「…」
「もしもーし」
「…」
「うーん。それじゃあ先生に言っちゃおうかなー落書きのこと」
「え!?それだけはやめて!…ってあ」
「やっぱ無視してたー。いけないんだよ。無視しちゃ」
「あ…えっと、その」
「もしかして、あんまり人と話したくないタイプ?」
「え…そう…です」
物わかりのよさに私はビックリして敬語になる。
「わかるよ。私も実はそっち。でも、今は本能に従うしかなくてさー」
「はぁ…」
「時に落書きちゃんよ。演劇サークルを私と作らない?」
急展開な話に、私は首をかしげることしかできなかった。
第1話「狛江朝顔の過去」終わり
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