魔法の画用紙

伊田 晴翔

魔法の画用紙

 親戚のおじさんにもらった画用紙は、僕のお気に入りだった。

 その画用紙に、いろいろな絵を描いた。花や昆虫や、恐竜に乗り物、他にもたくさん。

 そして、描き終えたページを開いたままにしておくと、決まって夜中に絵が実物になって現れた。

 

 最初はピンク色の花を画用紙に描いた。

 家の前に咲いたきれいな花は、お母さんのお気に入りだった。

 朝になって、僕を起こしに来たお母さんが、画用紙の上に置かれている花に気がついた。

「お花を摘んでそのままにしたら可哀想でしょ」

「でも、僕摘んでないよ」

「嘘をつくんじゃないの!」

 僕には寝耳に水だった。

 身に覚えのないことで朝から怒られることがひどく不愉快だった。

 そして、画用紙に描いたはずのピンク色の花は、どのページからも消えていた。

 

 次はアリの大群を画用紙に描いた。

 家の前を歩いていた蟻の行列を見て、お母さんは駆除剤を撒いていた。

 朝になって、僕を起こしに来たお母さんは絶叫した。

「あんた、どこかにお菓子でも隠してるんじゃないでしょうね!」

 僕の部屋で起こることは、全部僕のせいになってしまうらしい。

「僕は知らないよ」

「このアリどうするのよ!」

 お母さんは、僕が小学校に行っている間に害虫駆除の業者を呼んで、僕の部屋をきれいにしてもらったらしい。どこから入ったのか、原因は業者にも分からないようで、お母さんは「怒鳴ってごめんね」と僕に謝った。

 そして、画用紙に描いたはずのアリの大群はどのページからも消えていた。

 

 次は猫を画用紙に描いた。

 近所の野良猫を描いて、そのページを開いたまま寝た夜のこと。

 カサカサ、という音がして目を開けると、真っ暗な室内で小さな丸い光が二つこちらを覗いていた。

 ミャー、という鳴き声が聞こえ、僕はお母さんを呼んだ。

 駆けつけたお母さんが電気をつけると、僕の部屋には一匹の猫がいて、僕の足に身体を擦りつけている。

「あんた、猫拾ってきたの!」

 お母さんはものすごい剣幕で僕をにらみつけるが、「何も知らないよ」と僕はただ驚くばかりで、それを見たお母さんも不思議がった。

「どこから入ったのかしら」

 僕はなんとなく分かっていた。画用紙が原因だろう、と。

 僕はあるとき、画用紙に小銭やお札、札束などのお金を描いた。そして、そのページを開いたまま、寝た。

 小銭もお札も札束も全部、朝になると、画用紙の上に置かれていた。

 僕はそのお金を、机の引き出しにこっそり隠した。

 

 お母さんが死んだ。買い物にでかけたまま事故にあって、帰ってこなかった。

 お葬式が終わった夜。

 僕は泣きながら、画用紙にお母さんを描いた。

 等身大がいいだろうという考えがあって、全身の姿は一枚じゃ描ききれなかったから、何枚にも分けて描いた。

 一枚に頭、一枚に右腕、一枚に左腕、一枚に上半身、一枚に下半身、一枚に右足、一枚に左足。

 それらを並べて、僕は眠りについた。

 次の日の朝、僕が目を覚ますと、お母さんは画用紙の上でバラバラになっていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法の画用紙 伊田 晴翔 @idaharuto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ