俺の幼馴染、初めてじゃないってよ。

もんすたー

第1話 見てる、見てない

 突如として、静まり返る部屋の中。

 自分の体温が、クーラーの冷気で冷まされていく。


「昨日のアレ、見てたでしょ」


 自室にて、馬乗りになってそう言われた俺、宮柴蓮馬(みやしばれんま)は困惑してしまう。

 昨日のアレというのは、多分そう。


 俺とって衝撃な光景だった。


 放課後の教室。

 幼馴染である上田未奈(うえだみな)が、他クラスの男子とシていた。

 机に手を付いて、腰を突き出して。トロンとした顔を浮かべて、そして、甘い声を漏らして。


 幼少期に見た体つきではなく、女性そのものになっている体を、男子に見せるだけではなく捧げていたのだ。


 それに、噂で聞いたことがある。

 未奈は、頼めばシてくれると。誰にでも股を開くビッチだと。


「それで? 見てたんでしょ?」


 俺に問い詰める女子こそが、昨日、教室でシていた幼馴染である。


「いや……? 見てないけど?」


「嘘、目が泳いでる」


「そうか? いつものことだろ」


「声も裏返ってるし。蓮馬ってホント嘘を吐くのが苦手だよね」


 口が裂けても、見たとは言えない。

 幼稚園のときからずっと未奈と一緒に過ごして来た。


 小学校、中学校、高校、全て同じ場所で、俺が一番横で未奈の成長を見てきた。

 ボブだった髪型が伸びて、綺麗なロングヘアになったところも。Tシャツを貸しあった仲なのに、次第に胸元がきつくなって俺のシャツが入らなくなったところも。


 全部、幼馴染という立ち位置で見てきたのだ。


 そうなると、当然どちらかに恋人ができたのなら、話していることに違いない。

 しかし、これまでそういったことを聞いたことがないし、言ったことがないのだ。


 それどころが、好きな人とか気になる人ができたとか、そう言った話すら俺たちの話題にはでてきたことが無かったのだ。


 それもそのはず、恋愛なんてこれまでしてこなかったのだ。だから、必然的にそんな話が話題出るわけがない。


 なのに、昨日のことでそれが全て否定された。

 でも、まだ昨日のアレを信じたくない。


 だから、ここで見たと言ってしまえば、それが真実になってしまう気がして。

 俺は素直にうんと言えないままでいる。


「じゃあ、昨日の放課後どこに居たっていうのよ」


 まだ、俺に馬乗りになっている未奈は、目を鋭くさせながら言う。


「放課後は家に真っすぐ帰ったよ。用事があったから」


「ほら、また嘘。おばさんに聞いたけど、昨日帰るの遅かったって」


 なに口を滑らせてるんだ母親! 俺にプライベートというものはないのか⁉


「あ、そうそう。寄り道してたの思い出した。最近できたカフェあるじゃん? あそこにちょっとコーヒーを飲みに」


「そこ、昨日定休日だよ」


 タイミング悪すぎなんだよ! なんで昨日に限って定休日なんだ! マズイぞ……このままだと無理矢理にでも吐かされてしまう。


「そこまでして言わないなら……私も一つ言わなきゃいけないことがあるんだけど」


 顔を俯かせた未奈は、ぎゅっと俺の肩を掴む。

 その握る手は、みるみると力が強くなっていった。


「ちょ、いたっ……痛いっての」


「私だって言いたくはなかったけど……蓮馬が話してくれないなら、私も言うしかないよね……」


「な、何を言おうとしてるんだ……?」


 何か、俺に関して言うことがあるのだろうか。未奈に隠しごとなんて……一つしかしていない。


 アレだけは、絶対にバレてはいけない。

 もしも、俺が思っているアレであったら……人生終了のお知らせが舞い降りてくる。


「……一週間前の放課後」


「一週間、前」


「私、見ちゃったんだよね……」


「え、ちょ」


「体育倉庫の中で、他クラスの女子と蓮馬がシて――」


「ストップ‼」


 未奈が最後まで言う前に、俺はおしゃべりな口を手で抑える。

 モゴモゴと何か言いたげに暴れるが、それ以上後のことを言わせるわけにはいかない。


 これも、口に出してしまえば真実になってしまうから。

 よしよし危ない危ない……一週間前のアレのことは、未奈にバレるわけには……って、おい。


 こいつの口を塞いだところで、全部バレてるじゃないかよ‼


 あれだけ未奈が他の人とシていることについて、幼馴染としてそれっぽいことを言っていたのに、俺も同類ってことがバレてるじゃねーかよ!

 せっかく今まで死ぬ気で隠してたのに台無しだ! 


 実は俺もヤりまくってるなんて、何が何でも言いたくなかったのに!

 せっかく清く正しい幼馴染を演じていたのに、その努力も全て台無しになっちまったよ……クソっ。


 学校でするときは、人目に付かないところでシていたつもりなのに。

 一週間前のあの日も、周囲に人がいないことを確認したうえで体育倉庫の中を選んだのに……。


 未奈に見られていたとは……運が悪すぎないか……俺。


「まぁまぁ、落ち着いて」


 と、未奈をなだめる俺であったが、口から手を離そうと暴れるのを辞めない。

 しかし、手を離すわけにはいかない。


 ここで未奈に言われてしまったら、真実になってしまう。


 お互い、そのことについて話さない限り、それは真実にならないからな! 多分!

 自分でも暴論だって分かってるけど……こうなった以上はその説を推すしかない!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る