第23話 修羅場の予感

 そして次の日、俺は大学に行ったのだが……その際も西園寺は一緒に着いてきたため、周りからは変な目で見られることになったのだった。しかし、それでもお構いなしといった様子で、西園寺は俺の腕にしがみついてくる。そんな状況にうんざりしつつも、なんとか講義を受けることになったのだが……その間も彼女は俺のことを見つめてくることをやめようとはしなかった。結局その日は一日中、西園寺に振り回されることになるのだった。


 俺は大学から帰宅するなり、風呂に入り終わってシミのある布団の上で缶ビールを飲んだ。


「西園寺の奴、俺のこと好きすぎんだろ……。あー! マジで……どうすればいいんだよ……!!」


 そんなことを呟いていると、部屋のインターホンが鳴ったため、俺は玄関まで向かう。そしてドアを開けると、そこにはーー西園寺の姿があった。俺は思わず固まってしまった。そんな俺に対して、彼女は話しかけてきた。


「えへへ〜、来ちゃった!」


 そう言うなり彼女は、そのまま家の中に入ってきた。そんな彼女に対して、俺は慌てて言った。


「ちょ、お前! 何勝手に入ってきてんだよ!?」


 そんな抗議の声を上げる俺に構うことなく西園寺は俺の横を通り過ぎ、台所に立つと……冷蔵庫の中を確認し始めた。そんな彼女の行動を見て俺が呆然としていると、彼女は振り返って言った。


「ねぇ、坂柳くんって料理できる?」


 その問いに俺が答える前に、西園寺は続けて言った。


「私ね……実は結構、料理作るの得意なんだよね! だから私がご飯作ってあげるよ!」


 そんなことを言いながらも彼女は冷蔵庫の中から材料を取り出していく。そしてそのまま台所に立って調理を始めたようだ。そんな彼女に対して俺は何も言えず、ただ黙って見守ることしかできなかった。


(あー、パニックになりそう……)


 そんな俺に向かって彼女は話しかけてきた。


「ねぇ、坂柳くんは何か食べたい物とかある?」

「ご自由に作ってください……」


 俺がそう答えると、彼女は嬉しそうな表情を浮かべながら調理を再開したようだ。それからしばらく経って出来上がった料理をテーブルの上に置くと、西園寺は俺に向かって言った。


「どう? 美味しそうでしょ?」


 彼女の言う通り、とても美味しそうな匂いが漂ってきたため俺は素直に頷いた。そしてそのまま二人で向かい合って座り食事をとることになったわけだがーーそこで西園寺が口を開いた。


「ねぇ……坂柳くんってさ、私のことどう思う?」


 そんなことを聞いてくる彼女に俺は戸惑いつつも答えた。


「えっと……まあ、普通だけど……。あー、だけど、西園寺は顔立ちがいいからモテるだろうな~とは思ってる」


 俺がそう言うと、彼女は嬉しそうな表情を浮かべながら言った。


「えへへ〜、そっかぁ! 嬉しいなぁ!」


 そんな会話を交わした後、俺たちは西園寺の手作り料理を堪能することになった。そして食事が終わった後、俺は改めて彼女に質問してみた。


「それで西園寺……一体何のために俺ん来たんだ?」


 俺がそう尋ねると彼女は答えた。


「そんなの決まってるじゃん! 坂柳くんに会いに来たんだよ!」


(やっぱりか……)


 そんなことを思っていると、西園寺が突然俺に抱きついてきたため、思わず動揺してしまった。しかし、彼女は構わずに俺のことを抱き寄せていく。そしてそのままキスをしてきた。それもかなり濃厚なディープキスだったこともあり、俺は頭がクラクラしてしまうほどだった。しばらくしてからようやく解放された俺は、西園寺に向かって言った。


「な、何すんだよ!」


 すると、彼女は妖艶な笑みを浮かべながら答えた。


「だって……坂柳くんのことが好きだから仕方ないじゃん」


 そう言って再び迫ってくる彼女に対して必死に抵抗しようとしたその時ーー俺のスマホが鳴り出したため、彼女の手を止めることに成功することができた。そしてメッセージを確認すると、そこにはれのちゃんからのメッセージが表示されていたため、急いで内容を確認することにした。


『おかずを多く作ってしまったので、お裾分けしに行ってもいいですか?』


 とのことだったので、俺はすぐに返事をした。すると彼女は今から持ってきてくれるということになったため、俺は西園寺に断りを入れて玄関まで移動することにした。そしてそのままドアを開けるとーーそこにはれのちゃんの姿があった。


「坂柳くん……こんばんは」


 そう言って微笑む彼女に見惚れてしまった俺だったが、なんとか平静を装って返事をすることにした。


「こ、こんばんは……」


 そんなやり取りをしていると、突然俺の後ろから誰かが抱きついてきたため驚いてしまった。振り向くとそこには――西園寺の姿があったのだ。彼女は舌なめずりをしながら俺のことを見つめてきている。


「この人が坂柳くんの彼女さん?」


 西園寺がそんなことを言っているが、今はそれどころじゃない。なんとかこの状況を打開しなければと焦る俺だったが、時すでに遅し。れのちゃんが西園寺のことをじっと見つめてしまっていた――。

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