第17話 重い愛

「おーい、顔が死んでんぞー」


 隣に座る隆介が、棒読みで俺に話しかける。


 なんとか大学の講義に間に合ったが、その代わりにスタミナを消費しすぎた。そのため今は何もする気になれず、机に突っ伏している状態だ。


「いや、ちょっと色々あってな……」


 俺が答えると、隆介は興味なさそうに相槌を打つだけだったので、それ以上追及されることはなかった――それからしばらくして、教授が教室に入ってきて講義が始まったのであった。


 講義が終わり、現在の時刻は12時を過ぎた。昼食の時間になったので、俺は隆介と共に食堂へと向かっていた。


「なあ……今日の講義の内容、ちゃんと理解できたか?」


 隆介が問いかけてきたので、俺は素直に答える。


「いや、正直あんまり……」

「だよな~。あの教授の講義、分かりづらいんだよな~」


 そんなことを話しながら歩いているうちに食堂に到着した。すでに大勢の学生たちで賑わっていた。そんな中、俺たちは券売機で食券を購入してからカウンターに並ぶ。そして順番が来たので、食券を食堂のおばちゃんに渡そうとしたのだが――そこで突然声をかけられたため、驚いてしまった。


「坂柳くん、ちょっといいかな?」


 声をかけてきたのは、同じ大学に通う女子学生だった。名前は確か……西園寺さいおんじさんだったか。彼女はいつも明るく元気な印象を受ける子で、男女問わず人気があるらしいが――俺はあまり接点がないため、詳しいことはよく知らないというのが正直なところだ。


 そんなことを考えているうちに、話はどんどん進んでいくことになる。


「えっと……何か用かな?」


 俺が恐る恐る質問してみると、西園寺さんは笑顔を浮かべながら答えた。


「はい! 実は……坂柳くんにお願いがあるんですけど……」


 彼女はそこで一旦言葉を区切ると、深呼吸をしてから再び話し始めることになる。


「その……私と付き合ってくれませんか!?」

「え……?」


(……どうしてこうなるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!)


 俺は心の中で叫んで頭を抱えてしまった。まさかこんなことになるなんて、思いもしなかったからだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! なんで俺なんだ!?」


 俺は慌てて聞き返すことにしたのだが――西園寺さんは平然とした様子で答えてみせた。


「だって……坂柳くんってカッコいいし、優しいじゃないですか!」


(……いやいや! どこがだよ!? 地味な服装で、顔面偏差値30以下の俺のどこがカッコいいんだよ!? 優しいは別としてな……)


 心の中でツッコミを入れつつ、なんとか平静を装うことに成功した俺は、改めて断りを入れることにする。


「悪いけど、君とは付き合えない……」


 すると、西園寺さんは残念そうな表情を浮かべた後――突然、俺の抱きついてきたのだ。そして、上目遣いになりながらこんなことを言ってきた。


「坂柳くん、お願い……一回だけでもいいから私とデートして……」


 そう懇願してくる西園寺さんに対して、俺は何も言えず、ただ立ち尽くすことしかできなかった。すると、そんな俺たちの様子を近くで見ていた隆介が、呆れた様子で声をかけてきた。


「おい……何やってんだよ、バカ日向」


 その一言で我に返った俺は、慌てて西園寺さんを引き剥がすと……距離をとることにした。しかし、彼女は諦めるつもりはないらしく、再び詰め寄ろうとしてきた。


「お願いします! 私、坂柳くんのことが本当に大好きなんです!!」


 そんな西園寺さんの言葉を聞いた瞬間――俺の頭の中で何かが切れる音がした。そして、次の瞬間には――彼女の肩を掴みながら叫んでいた。


「いい加減にしてくれ!!」


 その怒声によって周囲は静まり返ってしまい、周囲の視線が一斉に集まってくることになったが――それでも構わず続けることにする。


「俺には大切にしている人がいるんだよ! だからもう二度と俺に付き纏わないでくれ!」


 そう怒鳴りつけると、俺はそのまま食堂を後にした。その後のことは隆介から聞いた話だが、西園寺さんは泣きながら走り去っていったらしい。


「はぁ……これからどうなることやら……」


 俺は、大きなため息をつくことしかできなかったのだった――。

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